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【第3話】猫被りと腹の底

 ……これからどうしよう?

 選択肢一、第二王子との婚約回避のため協力してもらう。

 選択肢二、ルーク様に前世の因縁を話す。

 選択肢三、ルーク様に恋愛してるふりをしてもらう。

 ……これ全部ルーク様に迷惑かけるじゃん⁈

 しかも、「選択肢」じゃなくて「第二王子との婚約回避への道」じゃない⁈

「あの、ライラ様?」

「な、なんでしょう?」

「……ふふ」

 考え込んでいたら、ルーク様に話しかけられて、笑われた。

 何ですか⁈ 何が面白いんですか⁈

「す、すみません。ライラ様の表情がころころ変わって面白くて……ふふ」

「っ! 公爵令嬢の表情を笑う人なんて、会ったことがありませんよっ」

 楽しそうに笑うものだから、つい言ってしまった。

 っていうか、そんなにころころ変わってたかな?

 これでも猫被りは得意な方なのに。

「まあ、まあ! ライラの猫被りを見破るなんて、アルフィー卿、なかなか見所がありますわね。母としてはこんな方に娘をもらってほしいものだわ」

「お母様⁈ それは何目線ですか⁈ ルーク様が困っておられますよ」

 しばらく静観していたお母様が会話に入ってきた。

 お母様には猫被りが見破られていたようだ。

 でも、ルーク様も見破ったと言っていたから、私の猫被りはいつも通りだった?

 ……今はそれよりも、ルーク様に謝ろう。

「母がすみません……」

「僕は大丈夫ですよ。ただ、少し驚きましたが」

 と、ルーク様は笑顔で言った。

 おお、大人な対応だ。

「それよりも、これからどのようになさるおつもりですか? 第二王子殿下のあのご様子ですと、また婚約を迫ってくると思いますよ」

「そうですよね。正直なところ、ルーク様にご協力をお願いしたいのですが……ご迷惑ですよね。別の方法でどうにかしたいと思います」

 さすがにこれ以上ご迷惑をかけるわけにはいかない。

 あ、でも、さっき公衆の面前で告白したからもう迷惑は十分かかってるか。

「……別の方法というものはあるのですか?」

「残念ながらありません。ですから、今から考えないといけませんね」

 私は苦笑しながら言った。

 すると、ルーク様は何か考え込む素振りをした。

「でしたら、僕から提案してもよろしいですか?」

「? はい、お願いします!」

 なんだろう? 何かいい案があるのかな?

 だったらぜひ聞きたい。

 少し食い気味に返事をすると、ルーク様は話し出した。

「……僕と恋愛しているふりをするのはどうでしょうか? 先ほどライラ様は僕に協力してほしいけど、迷惑だろうと言いましたよね? 僕は迷惑だとは思いませんよ」

「で、ですが、それではルーク様にとって利益が何もないのではありませんか?」

 どちらかといえば、不利益もあるかもしれないのに。

 何を考えているんだろう?

「利益ならありますよ」

「それは何か聞いてもよろしいですか?」

「そうですね。ここでは話せない内容なので、後日会う時にでもお伝えしますね」

「? わかりました」

 ここでは話せない内容……。転生関係だろうな。

 それと、後日っていつだろう? あ、ソフィア様と会う時かな?

 そういうことにしておこう。

「では、僕とライラ様は恋愛しているふりをする、ということで。僕はここで失礼します」

「は、はい。ありがとうございます」

 私が返事をすると、ルーク様はどこかに行った。

 なんだか不思議な人だったな。

「ライラ、わたくしたちも帰りましょうか」

「そうですね」

 そうして第二王子の婚約者探しのお茶会は幕を閉じた。

 お父様たちに今まで起こったことを報告しなければならないと思うと、なんだか身震いがした。

 ……大丈夫かな?


 屋敷に帰って少しゆっくりした後、とうとう夕食の時間になった。

 席に着くと、お父様が重々しく口を開いた。

「ライラ、今日のお茶会ではいろいろなことがあったようだな。悪い虫もついてしまったようだが?」

 どうやらお母様がお茶会での出来事をお父様たちに話したようだ。

 ウィリアム兄様は悪い笑みを浮かべており、アイザック兄様は無表情で、エヴァ姉様はとても美しく微笑んでいる。

 これは、かなりお怒りだ。

「お父様、その件に関しましては食事が終わった後にお話ししてもよろしいでしょうか? お料理が冷めてしまいます」

「ふむ、そうだな。そうしよう」


 そうして夕食を食べ、食後のティータイムになった。

 食事中はたまにカトラリーが触れ合う小さな音が響くだけの重い空気感だった。

 お怒りのお父様たちはおそらく第二王子のことを悪く言うだろう。

 私もかなり悪く言うと思う。

 使用人たちにそれを聞かせるわけにはいかない。

「人払いをお願いしてもよろしいですか?」

「ああ、もちろんだ。セバス」

「かしこまりました」

 そうすると、使用人たちは食堂から出て行った。

「……お茶会でのことはエルシーから聞いている。俺が聞きたいのは、ライラがどう思ったか、そしてどうしたいかだ」

 お父様はこう言ってくれているが、本当に素直に言って良いのだろうか?

 身内以外には聞かせられないようなことを言うが……。

 一応聞いてみよう。

「あの、外では不敬になるようなことを言うと思うのですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、俺も言うから」

 あ、やっぱり不敬になるようなこと言うんですね。

「わかりました」

 何から言おうか。

 やっぱり第二王子からの婚約の申し出についてだよね。

 ……あれは申し出とは言わないかもしれないけど。

「まず、第二王子からの婚約の申し出についてです。結論から言いますと、私は第二王子とは婚約したくありません」

「なぜだ?」

「……第二王子がお茶会の参加者を嘲笑っていたように感じて、とても嫌な感じがしました。私はあのような方が苦手で嫌いです。それに、第二王子と婚約すると、王子妃教育があると聞いたからです。苦手で嫌いな人のために王子妃教育は受けたくありません」

「なるほどな」

 かなり取り繕わずに言ってしまった。

 まあ、いいか。

 あ、あれも言わないと。

「ですが、第二王子に婚約はしたくないとそれとなく言うと、王子という身分を盾にしてきました。このような場合はどうすればいいのでしょうか?」

「……そうか。第二王子は腐っても王族だからな。王族に婚約しろと言われたら簡単に断ることわできないだろう。だが、恋愛結婚・婚約法だけは別だ。第二王子と結婚したくなかったらその法に頼るほかないな」

 と、お父様が言った。

 とっさに恋愛結婚・婚約法を出したお母様に感謝せねば。

「父様、そんな周りくどいことをせずとも、第二王子を社会的に、王族的にやればいいのでは?」

 ウィリアム兄様が言った「やれば」のところが物騒に聞こえた。

 それに、笑顔がとても黒い。

「ウィリアム兄様、それはグレンヴィル公爵家的に難しいのではないですか?」

「そこまで難しいことではないよ、エヴァ。だが、その手は最終手段にとっておかないと」

 と、アイザック兄様がエヴァ姉様に言った。

 うちの兄様たち、かなり物騒だ……。

 エヴァ姉様も、止めているようで止めてない。アイザック兄様の言い分に頷いていたし。

「こほん! あなたたち、今は何の話をする時間ですか?」

 お母様が大きめの咳払いをして兄様たちをたしなめた。

 兄様たちは少しびくっとした。

 どの世界でも母は強い……。

「オスカー様、穏便に済ませたいのでしたら、恋愛結婚・婚約法を手段とするほかないですわね? でしたら、アルフィー公爵家のルーク・アルフィー様にご協力をお願いするということでよろしくて?」

「あ、ああ、そうだな。だが、なぜアルフィーの次男坊なんだ? それに、協力を仰げるのか?」

 お父様がお母様の勢いに驚きながら言った。

 お母様、ルーク様のこと話してなかったのかな?

 ちなみにオスカーというのはお父様のことだ。

「あら、許可はアルフィー卿本人から得ておりますわ」

「なっ、いつの間に⁈ ライラ、どういうことだ?」

 話が回ってきた。

 でも、私もいまひとつわかっていない。

「何と説明したら良いのかわかりませんがーー」

 私はことのあらましを説明した。

 ……お父様と兄様たちの顔が怖い。

 私が話していくに連れて段々と怖くなっていった気がする。

「……そうか。娘は、ライラは、嫁にやらんぞー!!」

 お父様が窓の外に向けて思いきり叫んだ。

 声のボリュームが大きい。

 私も貴族の娘なんだからいつかはお嫁に行きますよ?

「ライラ、あいつはやめておけ」

「兄様の言うとおりだ。やめておいたほうがいい」

「ウィリアム兄様、アイザック兄様も、ルーク様と会ったことがあるのですか?」

 兄様たち、珍しく真面目な雰囲気。

 ルーク様に何かあるのかな?

「ああ。父親同士が仲が良いからよく会っていた。最近は都合があわないのか会っていないが。ルークは……、何を考えているのかが全くわからないやつだ」

「それに兄様以上に腹の底に何かを隠している感じがするからね」

 まじか……。

 あのルーク様が?

 でも、無害そうに見えて実は腹の底にいろいろ隠している人なら前世で会ったことがある。

「そうなのですね。でも、大丈夫だと思いますよ」

「そうか? それなら良いが」

「困ったことがあったらいつでも相談してね」

「兄様たち……、ありがとうございます!」

 兄様たちは私の返事を聞いて笑顔で頷いた。

 こういう心遣いができるのってすごいよね。

 その後、結局ルーク様に協力してもらって第二王子との婚約を回避するというふうに話はまとまった。

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