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本日、二回目の投稿です。
「ほう、確かにすっかり馴染んでおるのう」
「紛れるにはうってつけかもしれぬ」
クッシィに案内させてやって来た妖精の国の国王夫妻は圧倒的な存在感を持っていた。国王さまは女王さまと同じ黒髪で、こちらは短く整えられていた。
ふたりとも威厳たっぷりで、だが、そんな者たちがおやつを美味しそうにあぐあぐと食むアーミィをしゃがんで覗き込んでいる。すっかりなじんだアーミィは妖精の国の統治者たちの来訪などそっちのけで美味しいおやつを味わうのに夢中である。国王夫妻は気を悪くしたふうではなく、むしろアーミィがここでの生活を楽しんでいるのを喜んでいる節がある。
フェレット母さんはとんでもない権威者の来訪におろおろとした後、とにかくもてなしの準備をしようと厨房へ向かった。
女王さまに国王さまを紹介されたソウタとユリは初めこそしゃちほこばっていたものの、アーミィのことや農場牧場での生活、料理店や新しい発明のことなどの話をするうち、どんどん熱を帯びてきた。いっしょうけんめいに話すふたりに、国王夫妻は楽しそうだ。
フェレット母さんが持ってきたお茶を飲んで、いろんな味のジャムのクレープを食べた。トムさんが丹精した茶葉で、みんなで育て実を集めたベリーのジャムだと話すと、国王夫妻は美味しいと目を細めた。
面白いことに、ソウタとユリの補足をするフェレット族兄弟に、さらに呼応するようにアーミィが時折「キュ!」と鳴くのに、国王夫妻は「ほう、そうか」「それは重畳」などと返事をする。話が通じている様子だ。
アーミィは国王夫妻になんと言っているのだろう。ソウタとユリは目を合わせ、ふふと笑った。
「なんじゃ?」
ソウタとユリに女王さまが問うので、思い切って言ってみた。
「あの、女王さまはアーミィが言っていることが分かるのですよね?」
「アーミィという名をもらったのか。良かったのう。そうじゃ、アーミィの言わんとすることは分かる」
「じゃあ、なにかしてほしいことがあるか聞いてもらえないでしょうか?」
機嫌が良さそうな女王さまの様子に勇気を得て、ソウタは身分の高い方に気後れする心を奮い立たせて願い出た。
「どんな食べ物が好きだとか、あ、そうだ、食べてはいけない物とか!」
ユリも便乗する。
「ほう、」
女王さまが片目を細めた。とたんに、ソウタとユリは身を固くする。
「良い良い、おぬしらは悪いことを言っておらん」
言って、女王さまは快活な笑い声をあげた。
「妖精の至宝に求めるのではなく、妖精の至宝がなにを求めるかを聞くとは」
「そなたが見込んだ御仁たちならばこそだ」
国王さまが女王さまの手を取ってにっこり微笑んだ。
国王夫妻がアーミィに聞いてくれたところ、食べ物はこの農場牧場で出されるものをなんでも美味しく食べているらしく、特に身体に悪いものはないという。
「ベリー集めはとても楽しかったそうじゃ」
「アーミィ、一番初めにつまみ食いしていたもんなあ」
「キキュ?」
フェロがこっそり言うが、アーミィは「なんのこと?」とばかりに小首をかしげてとぼけてみせる。
こんなときいっしょになってはしゃぐフェンが、ぎゅっと目に力を入れて声を出した。
「アーミィ、つれていっちゃうの?」
「「「「「え?!」」」」」
「だ、だって、ようせいの国の国王さまと女王さまでしょう? アーミィはようせいの至宝というやつだから、お城でたいせつに守るためにここにきたんじゃないの?」
いっしょうけんめいに言うフェンにフェロがどんどん目を見開いていく。
「そんな! アーミィはもううちの子だよ!」
「キュ! キキュ?」
アーミィもぴょいんと垂直に跳び上がってなんらかを訴えかける。
「「みんなといっしょに暮らす」か。なるほどな」
「「連れて行っちゃうの?」って、そなた、」
国王夫妻は目を丸くして絶句した後、そろって笑いだした。
どうやら、アーミィはフェンと同じく「連れて行ってしまうのか」と聞いたようだ。
「いや、アーミィは暮らしたいところが居場所だ」
「妖精の国のだれも、妖精の至宝に強要することはできぬ。安心せよ」
フェロとフェン、アーミィは喜びの声を上げ、ぴょんぴょん飛び跳ねた。フェムとフェマが安堵して顔を見合わせた。
その後、妖精の国の国王夫妻はトムさんに案内されて農場牧場を見回った。
「ふむ、良い場所だ」
「ほんにのう。植物も多種多様に育ち、牧畜も元気そうじゃ」
トムさんは恐縮しつつも、嬉しそうである。
国王夫妻は噂の料理店の料理が食べたいと言った。けれど、それは無理な相談だった。
噂を聞きつけたクー・シーやケット・シーたちがたくさん集まって来ていたからだ。
「クー・シーたちは妖精の国を守る妖精犬だからわかるけれど、一体、ケット・シーたちはどうやって知ったのかな?」
こういう大勢の食事となれば、バーベキューだと誰かが言い出し、急きょ、ワンダフルさんとケッティが狩りに行くことになった。そう聞いて国王さまもいっしょにでかけた。
後からソウタとユリが聞いたところ、「王さまといっしょの狩りといえば、従者や犬たちが獲物を追い込む「お膳立て」された狩りだが、全然違っていた」とワンダフルさんが真面目くさった顔で言ったものだ。
「すごかった」
魔法を能く扱うケッティですら度肝を抜かれた様子だった。
「わたしなど、補佐に回るほかなかった」
「それを言うなら、俺だってユリのアイテム玉でかく乱しただけだ」
王さまは「妖精の誘引の粉」という魔獣を引き寄せる粉を魔法の風で飛ばした。
「すごいのは、その調整だ」
とケッティが真顔で説明する。
「風も水も手前のものは操りやすく、遠ざかるに連れて影響下に置きにくくなる。これはもうそういう自然法則だ。だが、陛下が魔法で扱う風は魔獣たちの周辺にまず粉をまき散らし、こちら側に向けて徐々に引き寄せた。粉を吸った者たちは、いつの間にかその誘引力に抗えないようになっていた。だから、いつの間にか彼らはわたしたちの元へやって来た」
「俺はそこへアイテム玉を投げつけて煙幕を張って視界を奪い、行動制限をして、ケッティが魔法で一網打尽だ」
「あんなに楽な狩りはない。恐ろしいものだ」
「ああ。あれがふつうだと思いたくはないな」
そのおかげで、たくさんの獲物が手に入った。
ケット・シーたちは両陛下の前だからか、いつもの陽気な様子はなりをひそ———めてはいなかったが、真面目に働いた。獲物を捌き、肉を解体し、畑の野菜を洗って切って、バーベキューの準備はどんどん進んだ。
クー・シーたちはせめて国王夫妻はフェレット母さんの料理を食べてはどうだと勧めたが、両陛下はそれは次の楽しみにとっておくことにした。
「みなと青空の下、食事をするなど素晴らしいではないか」
なお、あちこちへ出かけるニャントロフさんは折よく戻って来ており、「これもアーミィの幸運の効果かもしれないねえ」と喜んだ。
アーミィはフェロとフェンとともに宴会の準備を手伝った。妖精の至宝が、フェレット族の子供たちといっしょになって野菜を洗っているのを見て、国王夫妻もクー・シーたちも驚いた。
国王夫妻が言うとおり、みなで野外で焼いて食べる肉や野菜はとても美味しい。
「クー・シーって器用なんだね」
「まあな」
後ろ足立ちしながら危なげなくトングで肉をひっくり返す巨大な犬の姿の妖精に、ソウタは驚いた。ソウタの持つ取り皿に焼けた肉や野菜を放り込む。ソウタはそれをフェレット族兄弟の元へ持って行く。
「ソウタ、ありがとう」
「アーミィ、お代わりがきたよ」
「キュ!」
肉や野菜を食べたり、あちこちでクー・シーとケット・シーが話し込んだり笑い声が上がる。カントさんがクー・シーに妖精の国のことを聞いたり、トムさんがケット・シーに特定の野菜を作って欲しいとねだられていたり、ニャントロフさんがせっせと営業をかけたりしていた。




