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本日、二回目の投稿です。

 

 ワンダフルさんの元へ訪ねて行った次の日は雨で、その翌日はよく晴れ渡った。学校はお休みの日だったからちょうどいいとばかりに駄菓子屋のおばあちゃんから頼まれていた村はずれの空き家の掃除をすることにした。


 ソウタとユリが鍵をもらいに駄菓子屋に行くと、「掃除の休憩にお食べ」と言って、<ミッチーさんのバニラとコアコアのクッキー>をくれた。

「鍵を返しに来たときに、<ミッチーさんのリンリンジャムクッキー>をあげようねえ」

 大盤振る舞いである。

 ふたりはうきうきと弾む足どりで空き家へ向かった。


「ねえ、知っている?」

「なにを?」

 そう訊き返したソウタは、ユリがにんまり笑っているのに嫌な予感を感じた。心なしか、尾も悪戯いたずらげにくい、くい、と振られている。

「あの空き家ってね、お化け屋敷って呼ばれているんだって!」

「えぇ、そうなの?!」

 知らないうちにお化け屋敷に入っていたとは! いや、それだけでなく掃除までしていた!


「あれ、でも、お化けなんて会っていないよ」

 はたと気づいてソウタは胸をなでおろす。そんなソウタにユリは唇の両端を吊り上げる。

「それはね、ソウタが知らないうちに、」

 ユリはわざと声をひそめた。

「妙なところで言葉をとぎれさせないでよ」

 ソウタはへの字口に力を入れる。


「はっはーん」

「なんだよ」

 妙な声を上げるユリに、ソウタはむむっとする。

「怖いの?」

「ち、違うよ。だって、もう二回も掃除しているんだもん。お化けなんて出ないよ!」

「じゃあ、構わないじゃない」

 にゃふふふんとばかりにユリが顎をあげ、足を速めた。


「そうだけれどさ、わざわざ言うことはないじゃないか」

 不満げにぶつぶつ言うソウタにユリが振り向いた。

「置いて行くよ!」

 ソウタはあわてて追いかける。


 村はずれの空き家は駄菓子屋のおばあちゃんが昔住んでいたのだという。

「もうね、身体の自由がきかないからねえ。以前はそこからこの駄菓子屋に通ったものなんだけれどね」

 そのうち、処分は他者に任せることにするのだと言っていた。そのときのおばあちゃんがどこかさみしげな、あるいはなつかしげな風だったから、お化けが出ようとなんだろうと、維持するための掃除はやろうとソウタは気を引き締めた。


 古ぼけた鍵を頑丈な錠前に差し込むと、きしみながら半回転する。

 門扉もかん高い音をたてるから、油をさした方が良いかもしれない。そんな風に考えながら、中に入ってまず、ふたりで手分けして窓を開けていく。

 掃除用具は揃っていてユリが取り出し、ソウタは庭の井戸から水を汲んでくる。


 しばらくふたりはせっせと掃除をがんばった。こぢんまりした家ではあっても、全ての部屋を掃き、家具を覆う布を取り払って虫干しし、あちこち拭いてまわる。


 途中、休憩を取り、おばあちゃんが持たせてくれた<ミッチーさんのバニラとコアコアのクッキー>を食べた。さくさくの食感にバターとほろ苦いコアコアの味が絶妙である。

「んー!」

「おいしい!」


 食べ終えた後、また掃除にかかるのだが、なんだかそのまま窓辺にふたり並んで座ったまま、後ろ足をぶらぶらさせていた。

「ユリさあ、一昨日言っていたことだけれど」

 ソウタはポケットからゼンマイ式ハムスターを取り出していじりながら言った。視線は下に向けたままだ。なんだかユリの方を見るのが怖かったのだ。でも、ユリがこちらを向いているのは分かる。


「たしかに、この村にはない素材がいっぱいあって、外の世界にはいろんなものがあるんだと思う」

 ユリがかすかに息を呑む気配がする。ソウタは言葉を続けようとした。だが。


「「あ!」」

 注意力散漫となったソウタの前足からぽろりとハムスターが落っこちる。落ちたはずみでか、一直線に走って行く。

「な、なんで?」

 ソウタは慌ててゼンマイ式ハムスターを回収しようとぴょこんと窓枠から跳び降りる。


 ユリもすぐに追いかけて来る気配を感じた。ふいに、いつまでこうやって後を追ってきてくれるのだろうかという思いが浮かんだ。いつまでこうやっていっしょにあれこれやることができるだろうか。

 当たり前にふたりはそれぞれのやるべきこと、やりたいことをやるようになる。

 だったら、その直前まで村を出る必要はないのではないだろうか。どうせ別れる道ならば、ぎりぎりまでいっしょにいたい。


 そんなふうに考えながら、ソウタは小さなおもちゃが入り込んだ物入れ箪笥たんすのそばにしゃがみこんだ。掃除した後でよかった。前だったらきっと埃だらけだったことだろう。

 ソウタはほとんど床に身を伏せながら片前足を箪笥の脚の隙間に入れる。


「あった! ———あれ?」

「どうしたの?」

「なんかに引っかかっちゃったみたい」

 ユリもまた頬を床につけんばかりにしてのぞきこむも、物入れの狭い隙間はあまりよく見通せない。

「うーん」


 ソウタは無理やりハムスターを掴み出すのを諦めて、いったん前足を放し、ひっかかっている部分が引っ込まないか試してみることにした。

 気をつけながらぺたぺたと触ってみると、どうやら物入れ箪笥の底が割れ、そこからなにかが飛び出しているようだ。これは箪笥の引き出しを力任せに引き出しては家具も中の飛び出したものも破損する恐れがある。


 本来ならば、持ち主である駄菓子屋のおばちゃんに相談すべきだった。しかし、すっかりこのミッションをやり遂げる気になっていたソウタはそっと引っかかっているものを抜き取ることにした。それは紙の束で、柔らかく容易に変形したからこそ、狭い隙間でもなんとか抜き出すことができた。


 ごそごそやっていたソウタがようやっと片前足を引き寄せ、掴み出したものを見て、ユリが目を丸くする。

「あれ、ソウタ、ハムスターが紙束になっているよ?」

「ううん、これが邪魔していたから、ハムスターを取ることができなかったんだ」

 ユリに言われるまで、すっかりゼンマイ式ハムスターのことを忘れていたソウタはついでとばかりにそちらも回収した。


 その間にさっそくユリは紙束をめくっている。

 猫は好奇心旺盛な生き物なのだ。

「これ———」

 そこに書かれていたことはふたりに大きな衝撃を与えた。

 好奇心は猫を殺すとはよく言ったものだ。




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