どちゃシコむちむち雌おにいさんの老後
「激メロ枯れ枯れ雄ババア」
であってほしい。
こんばんは。
あのね、どっからこんな話になったか自分でもわからんけどもね。
こう、若い頃に可愛くてモテモテでチヤホヤされてきて、自分の取り合いで男が揉めたり泣いたり怒ったり嫉妬したり…その情欲の渦中に居たような人がだよ。
酸いも甘いも味わって、幾星霜。あの頃の喧騒もすっかり消え失せて、どっか片田舎にある海の見える小さな家にひとり。もう別に仕事もしてないし、食うに困らないくらいの貯えもあって、週に1回か2回だけ街から配達の若い男が小さなトラックでガタゴトやってくるだけの余生なのね。この性別不詳の妙に色っぽい老人は。
枯れてるはずなのに、そこはかとなく匂い立つ色気だけが名残ってる。それをヴェールのように身にまとっているから何をしてても何となく絵になる。
窓辺で紅茶を飲んでる時も、庭で花の手入れをしてても、大口開けてあくびしてても。
で配達の兄ちゃんがドキっとしちゃうわけですよ。
綺麗な、まっすぐの白髪でね。白髪なのに艶を完全には失ってないのね。
体毛も薄くて髭も生えてない。正直に言えば普通のおばあさんよりも綺麗なおばあさんで、いつも物憂げな表情をしつつ物腰は柔らかく愛想もある。
紅茶を勧めてくれるとき、一緒に茶菓子も出してくれる。安物の紅茶と、ありふれた焼き菓子。でもそれが絵になる。ひだまりの中でそっとカップを口元へ運び、焼き菓子を小さく頬張る。唇の端から欠片がこぼれて、おっと!と剽軽な顔をしてしまう。
ある日たずねていくと呼び鈴を押しても出てこない。カーポートの古い欧州車はそのまま。宅配の段ボールも置きっぱなし。
一声だけかけて配達に戻ったが、気になって仕事終わりに駆けつけてみる。相変わらず応答は無い。
玄関の鍵は…開いている。
西日が差し込む家の中は、しんと静まり返っている。が、奥からかすかに気配がする。今まで入ったことのない、そこは寝室。
そっとドアを開けると真っ赤な顔でベッドに横たわり息を喘がせている。
「ああ、もう二日…いや、三日も経ってた?今日、何曜日…?」
ひゅう、ひゅうと苦しそうな音とともに絞り出すような声。金曜だと告げると、三日も臥せっていて「もうダメかと思った」とのこと。
病院へ、と駆け寄り差し伸べた手をそっと掴む、その手の白くしなやかなこと。
紅潮した顔と裏腹に氷のように冷たい手指。
肩を貸すと腕にもたれかかるようにして立ち、髪の毛や着乱れた寝巻が素肌をくすぐる。
「ありがとう」
そして
「君は命の恩人だ」
「長生きしてくださいよ、もう」
「そうかあ、そうだなあ、そうだね」
よろよろと国産軽自動車に乗り込んで、ちんまり座る姿も結局は絵になる人なんだなあ…。
はじめての二人きりのお出かけ、ドライブが、まさかの病院直行だったとは。
この先ずっと、この話が出来るなあ。




