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ただいま。  作者: ダイナマイト・キッド


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対人依存症7(愛も望みも)

ずっと〝お前は劣っている〟と言われ続けて育った。漸く離婚してくれたのが確か8歳の冬ぐらいだったが、その後も土日祝日は泊りがけで会いに行かされ、行けば行ったで殴られ怒鳴られ家事をさせられ、あの頃は子供でも買えたビールや発泡酒を酒屋まで買いにも行かされた。24本入りの箱を多い時はいっぺんにふた箱。幾ら私が小3ぐらいのガキにしちゃあ多少図体が大きくても、ビールふた箱を持ち上げて酒屋からトボトボ歩き、さらにボロアパートの3階まで階段を上った時は腕がちぎれるかと思った。

聖帝十字陵のてっぺんを担いで登らされる南斗白鷺拳のシュウになった気分だ。

そんないいもんじゃないし、あんな強ければとっくに殺していた。


何度か、酔いつぶれて寝ているところで台所へ行って包丁を握ってみたり、濡れタオルを顔にかけて寝るといいと聞いたときには洗面所でタオルを何度も濡らしたり絞ったりもした。結局殺せなかったのは情だとか絆だとかじゃなく、単に人殺しが怖かったんだと思う。車のブレーキに細工出来ないか、とも考えたが子供の知識ではどうにもならなかった。

でも、やっておけばよかった。子供なら罪になったかどうか知らんが、今やるよりは情状酌量の余地もあろう。

未だに許せない、と前にも書いた。けど許せないとか大嫌いであるということは反面〝そいつが自分の実の親であること〟を認めなくてはならないということでもある。

絶対に嫌だし、絶対に許せない奴(や物事)を断じるには、まずそれに値すると相手を認めねばならないって、そんな理不尽な話ないよな。

何のジャンルでもそうだが、小説でもお笑い芸人でもバンドでも…私はプロレスが好きだったのでプロレスで例えるけど、箸にも棒にもかからない太った中年男がパンツと靴だけ拵えたら選手だと言い張ってリングに上がれてしまう。コイツを認めない、嫌いだと言う以上はコイツをプロレスラーとして認めねばならないという二律背反に陥るわけで。

高い金払って買ったチケットでどうしてこんなこと考えなきゃならないんだ、と嫌になることが何度かあった。誰のこと言ってるか聞きたい奴は個人的に聞いてくれ。

これの、もっとキツいのが、もう心から真っすぐに「死ね」と思える奴が自分の親であり、コイツのせいで未だに日々しんどいのに、それを言うにはコイツを親だと認めねばならん。ということである。

プロレスなんか見なけりゃ済むが、多くの場合しばらくの間だけでも親の顔は見なければならない期間がある。


嫌いなものは嫌いだが、嫌いだから近づけたくないのであって。

逃れようのない血だとか生きがいだとか、そういうものにしっかり結びついているものを嫌いになるというのは本当に辛い。

常に身近にいる奴のことが嫌いで、死んでほしい、死んでしまいたいと思い続けているから、そういう感覚が鈍麻してくる。自分に対しても他人に対しても簡単に死ねとか死ねばいいとか思うし、実際に他の人から見たら血を分けた家族に対して簡単に死ねって思っているように見えている。

そうじゃない。長い年月を経て、コイツに対しては「死ねばいい」と思うのが当たり前になっているだけだ。


ただ、やっぱりそれは異常なようで。

個人差、各ご家庭それぞれの事情というにも限度がある。

それに、そうやって育つと全部いつか自分に跳ね返ってくる。

自分に対しての「死ね」「死ねばいい」が日に日に、年々、毎秒、静かに強くなっていく。返しきれないほど膨れ上がった利息のように、食いきれないほど伸びあがったパスタのように、目の前にありすぎることでかえって視界をふさぐかのように。

そうして自分で自分を支えきれず、それを他人に依存するようになる。対人依存症の一丁上がりだ。


そうやって依存した相手にだって愛する人、愛されたい人がいることに、依存していると気づけない。いや、どうにか相手してもらおうと、依存先の幸せや楽しみを願う風な物言いをしつつ調子が悪い時に構ってもらっていることで満たされて、じゃあイザその人が立ち直ってまた誰かと楽しそうにしているとそれはそれで嫉妬に狂うのだから始末が悪い。

精神的な不調や悩みなら、まだいい。熱を出したり、何か別の予定が入ったりなど自分の予想外のことが起こると本当に脆く、底が浅い。それが露呈するのが怖くて仕方がないくせに、日ごろの行動からして浅いのだから人間性も関係性も深まりようがない。

深い関係になるような相手の、候補にすら選ばれない。

選ばないことで、打ち明けたり愚痴ったり、もっといえば約束も守ってもらえたり、都合が悪ければ断ってくれたりするのだ。

向こうに悪意や恣意的な行動は無い。裏表はあるかもしれないが、どちらにしたって嘘は無い。裏切られた、損をした、と感じているのは自分だけだ。

裏切るつもりも何もない。常に赤の他人の行動や思念はシンプルで〝お前を念頭に置いていない〟ということが第一だ。


卑屈に育ち、鬱屈とともに成長し、憂鬱を抱えているために他人といつまでたっても対等になれない。上か下か。隣にいるのか遠ざけられたか。ベッドの上かアカウント越しか。

極端で身勝手な立場でしか自分を測って示せない。

だから愛も望みも訪れないし、叶わない。

それを選んだのは、ほかならぬ自分だというのに。どうしてこんなにさみしいのだろう。


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