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ただいま。  作者: ダイナマイト・キッド


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シゲマツさんとソフトクリーム

 港で自動車の船積みをやってた頃の話。


 内航船といって日本各地に自動車を送る船が日々たくさん来ていて、寄せ場には作業員から監督まで個性的な人がいた。基本的にみんな共通しているのは、顔はコワイが心根の優しい人が多い、ってことだ。

 私の所属していた会社を含め4社ぐらいが積み荷の数に見合った人足を手配して、集まった作業員をまとめる親元の運送会社から監督と補助の人で3人出ていた。


 現場監督はその日によって違ってて、大体ローテーションだけど時々変わった。

 あの当時たぶん監督では最年少だったサングラスが良く似合うコンさんや、ガタイが良くて明るくて親切なシゲさんって監督は当たりで、この人たちが来ると仕事が楽で早く終わった。


 監督の補助に来る人も色々で、これもまた当たり外れがあった。

 特にお髭が似合う富永さん(我々はトミーと呼んでいた)は人当たりが良くて親切で、この人が居るのと居ないのでは随分と違った。

 というか大体そんなハズレの人なんていないんだけど、一人だけ背が小さくてエラソーでテメエは何もしないって人が居て、ある日なんか古くて天井の低い、まあ仕事のしづらい事で知られる古い船で、みんなが中腰のまま苦労して作業してるときに

「ホラこっちだよ、コッチやれ!!」

 と、まーたピーチクパーチク怒鳴ってるんで(うるっせえなあ…!)と思いつつ振り返ったら、コイツだけしゃがみもせずヘルメット被ったまま船の中をスタコラ歩いてた。天井に頭が付くどころか全然余裕で、後で「ロー」という綽名が付いた。


 で、そんな現場監督の中にシゲマツさんて人が居た。

 見た目は昔の政治家みたいな感じの恰幅の良いオッサンで、ベテランの人たちからはあまり評判の良くない人だった。私は入ったばかりだったからかシゲマツさんから特に何か言われたって事もなく…ただ確かにちょっと機嫌悪い時には言葉にトゲがあったり、気分に浮き沈みがあったりする人だな、とは思っていた。


 さて。港の近くに、寄せ場のみんなが行きつけの小さな中華料理屋さんがあった。

 昔、ほび~らがあったとこ(豊橋市民でもわかる人、少ないだろうか)の四川飯店という、マンションの1階部分のテナントに入っているお店で安くておいしくて量が多い。今でいう町中華って感じの昔からあるお店。

 店内にはカウンターとテーブルが幾つか。机の上には調味料の小瓶。それに色褪せた漫画、週刊誌、小さなテレビで昼の番組をやってた。


 日替わりランチが4種類くらいあって、1000円でラーメンと好きなオカズが1品ついた。しかもコレがラーメンもオカズそれぞれ1人前ずつちゃんと付いてくるので腹いっぱいになるってわけ。

(私はそれにプラスしてギョーザとかチャーハンも頼んでたけど……)

 ラーメンは昔ながらのしょうゆ味。

 ノリ、メンマ(シナチクっていう?)、焼き豚、ネギ、モヤシの乗っかった、わかりやすいラーメンだ。


 みんな行くんでいつも寄せ場の人が誰かしら居て、そもそもみんなで乗り合わせて食べに行く事もあった。私は沢山食べるんで一緒にいると驚かれたり面白がられたりしたっけな。海の男は食いっぷりの良い若い衆が好きでたまにご馳走してもらったりもした。そういう時は大抵

「おい、レスラー!(寄せ場の親分が付けてくれた私のあだ名だ)お前コレも食えるか!?」

 と次々注文してくれて、嬉しさ半分、もう半分は意地と根性で平らげていた。


 明るい人なんかは一人で入っても四人掛けに座って、誰か来ると

「おう! ココ座れよ!」

 なんて言って相席してたけど、私は一人で行くときはカウンターに座ってた。まあ大体、車が止まってれば誰が居るかわかったし、小さなお店だから入れば目につくし挨拶もする。

 海の男は陰湿なイジメはしないが、態度にはハッキリ好き嫌いが出る。

 で、その例に倣うとシゲマツさんが店に居ても、入ってきても、挨拶もしなきゃ目線も合わせない人が時々いた。

 シゲマツさんも気にするふうでもなく、そういう時はモソモソっと食事をして帰って行った。


 ある日、いつものように私がお店に入ってカウンターで日替わりランチのA(しょうゆラーメンにマーボー豆腐)をガツガツやっていると、背後から肩をボン! と叩かれた。すわ誰か!? と思ったら意外な事にシゲマツさんだった。今までこんな事する人じゃなかったけど、機嫌がいいのかニッと笑ってそのまま店を出て行った。あちゃー、シゲマツさん居たんだ。挨拶すればよかった、気が付かなかったなー。と思いながらも食事を終えてお店を出ると、まだ外にシゲマツさんが居た。


「おう、レスラー。お前もアイス食う?」

「え、いいんですかあ?」

「よーし」

 そう言うと、マンションの隣にあったたこ焼き屋さんに行ってスジャータのソフトクリームを2つ注文してくれた。シゲマツさんはチョコレート。もうひとつは

「お前、なんにする?」

「あの、じゃあ杏仁豆腐で」

 アイスが出てくると、また私の肩をボンと叩いて、車に乗ってどこぞへと行ってしまった。

 私は唖然としてそれを見送っていた。


 早速寄せ場に帰ってみんなに事の顛末を話すと

「どういう風の吹き回しだ……?」

「雨でも降るんじゃねえか」

 ギャハハハ! と一同が笑った後で親分が

「けどホント不思議だな。今までこんなこと、なかったのにな」

 と独り言ちていたのが今でも印象に残っている。


 2007年頃の話だから、もう15年も前になる。

 シゲマツさんは元気だろうか。

 寄せ場の親分ことIさんは、こないだジャークチキン屋さんでお会いしたけど元気だった。


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