ドキュメント大告白・15の夏(前編)
中学2年の時に同じ1組だった〝てっちゃん〟とは幼稚園からの友達だった。私は小5から徐々に不登校になって、6年生の半ばには殆ど出席しなくなった。
それでも、てっちゃんをはじめ何人かの友達は前と同じように接してくれた。
そんなてっちゃんと同じ弓道部だったMさんという女の子が、仲の良かったてっちゃんと話をするために我が組までしばしばやってくるようになった。
Mさんは透き通るような白い肌につやつやした黒い髪をポニーテールにして、丸く形の良い相貌を濃い目の凛々しい眉で飾った大変な別嬪さんでした。しかも綺麗なだけじゃなく勉学もめちゃ出来て、あの当時すでに公文式で高校生の問題をやっていた…らしい。一方私はその後高校生になっても公文式で中学生の問題をやり直していたくらいだから初めから生きる世界が違っていたようなものだ。
才色兼備を地で行くどころかアウトバーンを爆走するMさんとは14歳にしてエライ差がついていたけど、無謀にも私はそんなMさんが好きで好きでたまらなくなった。
毎日2時間目と3時間目の間の長めの放課になると彼女がやって来て、てっちゃんと四方山話に興じていることが多かった。私もそこに混じって何かと彼女のことを聞きだしたり、話を聞いているふりをして彼女の首筋や毛先がとてもきれいだなと思っていた。透き通るような声と、センスあふれるユーモア。言葉選び一つとっても他の女子とは違って、賢さが嫌味なくにじみ出ている気がして聞き逃せなかった。
彼女と話してて楽しかったから、今でも女性を好きになる時は話をしていて面白かったり、頭の回転の速い子が多い気がする。Mさんはその最たるものだった。何を話しても反応が良くて会話が弾む。
時間はあっという間に過ぎ去って、また彼女も自分の教室へ去って行ってしまう。また次の長い放課や昼休みが待ち遠しかった。彼女だって常に来るわけじゃなかったから、同じ部活のてっちゃんがうらやましくて仕方がなかった。練習で膝を怪我したときなんて、それを言い訳に弓道部へ移籍しようかと割と本気で思ったくらいだった。
そんなふうに、中学2年はMさんのことばかり考えて終わった。
Mさんが好きだ!
と自覚してからは明けても暮れてもそのことばかり考えていた。
彼女は3組で弓道部。私は1組で柔道部。とにかく話がしたいけど中々そんな機会も無かった。頼みのてっちゃんが休み時間に他の男子と話しててMさんも他の女子を見つけて話し出してしまうと、何の関係も無い山本君が嫌いになったりしていた。山本くんごめん。
君のお母さんには今でも街で会うと声をかけて頂いています。よろしくお伝えください。私信。
でね。そんな風に何とかつながりを保っていた中2も終わり、中3になると私は6組でMさんは…また3組だった。そうなると3年生は組によって校舎の2階と3階で分かれてしまうため猶更希薄になることが懸念された。私に。
そこでなんとか望みをつないだのが近所にあった公文式だった。私は小学2年からここに通っていて、Mさんも来ていた。小学校が違うからそれまで話したこともなかったけど、中学で話すようになったので公文でも時間があれば話をした。というか彼女はいつも遅くまで勉強していたので、最後まで残っていれば話をする時間ぐらいは作れた。私はとっくにプリントを終えて、そこの先生が勧めてくれた色んな本を読んでいた。あの頃、家に帰ってもあまり心が落ち着くことが無かった私はこうして公文式に居る時間が結構ありがたくて、お陰で歴史や動植物にちょっと詳しくなれた。教室は22時までなのだけれど、その時間まで残っている生徒は勉強熱心なMさんと、そのMさんに熱心な私だけだった。教室の机を拭いて椅子を片付けて、勉強にキリのついたMさんと雑談しながら居残りをしている時間が本当に幸せだった。元気な子供が裸足で踏み続けたモスグリーンの絨毯のにおい、香り付きの文房具やプリントのにおい、教室に置かれているデカい花瓶に生けた花のにおい。そしてすれ違うたびに胸の奥まで染み渡るMさんの髪の毛のにおい。今でもハッキリと、教室の隅っこで見た光景とその時のにおいを思い出す。
後編につづく。




