187話 ライレンレミリア対アルテ
ライレンレミリアは聖ソフィア騎士団の十三幹部の一人だった。
けれど、賢者アルテの無謀な遺跡攻略作戦に反対し、その結果、裏切り者として拷問を受けた。
かつてアルテがこの屋敷を襲ったとき、交渉の材料としてライレンレミリアを連れてきていたが……そのときのライレンレミリアは木箱に詰められ、血だらけという凄惨な状態だった。
それ以来、ライレンレミリアは魔法も使えなくなり、怪我も治りきっていない。
拷問がトラウマとなって、ちょっと前までは部屋から出ることもできなかった。だから、俺の屋敷で治療に専念していたのだ。
「大丈夫? ライレンレミリア?」
「うん。もう杖なしで歩けるようになったし」
俺の問いにライレンレミリアは微笑んだ。そして、フィリアに向かって一礼する。
ふわりと紫色の髪が揺れる。
ライレンレミリアはスタイル抜群の美しい女性だった。
騎士団時代は露出度の高い踊り子風の衣装を身に着けていたけれど、今は地味なワンピース姿だ。
ライレンレミリアは小首をかしげた。
「……アルテはソロンの奴隷になったんだよね」
「知ってたんだ」
「話しているの、聞いちゃった。あたしのことを心配して、隠そうとしてくれていたんでしょ?」
「まあ、うん」
ライレンレミリアは、アルテの名前を聞くだけでも過去の恐怖が蘇って、取り乱していた。
そんなライレンレミリアが、この屋敷にアルテがいると知れば、どうなるか。
俺はそれを心配していたのだ。
ライレンレミリアはくすっと笑った。
「もう平気。たぶん、アルテとも会えると思う」
「怖いことはない?」
「怖いよ。アルテにされたことを思い出したら……今でも震えが止まらない。でも、もう怖がるのはやめたの」
「そっか」
「それに、何かあっても、この屋敷にいればソロンが守ってくれそうだし」
ライレンレミリアは片目をつぶってみせた。
以前のライレンレミリアにかなり雰囲気が近づいている。
だけど、ここでアルテに会ったら、また元通りに戻ってしまうんじゃないだろうか。
ライレンレミリアは淡い紫色の瞳で、俺をまっすぐに見つめた。
「ソロン……アルテに会ってみたいの。そうしなければ……前へ進めない気がするから」
俺は迷った。
二人を会わせても良いんだろうか。
急にフィリアが俺の肩をつんつんとつついた。
「フィリア様?」
「会わせてあげたほうがいいと思う。ライレンレミリアさんは……もう大丈夫だよ」
たしかに、ライレンレミリアの瞳には強い意志の光が灯っていた。
俺はフィリアにうなずき、そして、ライレンレミリアとフィリアを連れて、アルテの部屋へと移動した。
階段を上がり、部屋の扉をノックする。
「ソロンだけど、入っていいかな」
「……ソロン先輩?」
「俺ひとりじゃない。フィリア様も……ライレンレミリアもいる」
「……どうぞ」
アルテのか細い返事を聞いて、俺たちは部屋に入った。
いつもどおり、寝間着姿のアルテはベッドの上に座っていた。
目も見えないし、体も自由には動かせないから、何もすることがないのだろう。
俺の隣のライレンレミリアは怯えるように、びくっと震えた。
けれど、ライレンレミリアはそれでも、アルテの正面に立ち、まっすぐに見下ろした。
「アルテ……久しぶりだよね」
「ライレンレミリア……」
アルテは小さくつぶやいた。
ライレンレミリアはアルテを見つめ、アルテはうつむいていた。
そのまま数秒間の沈黙が続き、アルテが口を開いた。
「……ごめんなさい。……ほんとに……本当にごめんなさい!」
アルテはぽたぽたと涙をこぼし、そして泣きじゃくり始めた。
ライレンレミリアはじっとそれを見ていた。
「自分がひどい目にあって、やっとわかった?」
「あたしは……誰にも負けないって思ってた。力が……あったから。でも、魔力も光も、何もかもなくなっちゃった……。あたしが……馬鹿だったから」
ライレンレミリアは、すっとアルテに手を伸ばした。
俺は一瞬、ライレンレミリアがアルテに平手打ちでもするんじゃないかと思って、焦った。
けれど、ライレンレミリアはアルテの頭をそっと撫で、そして、アルテを抱きしめた。
泣きじゃくるアルテは、驚きながらも、ライレンレミリアにしがみついていた。
ライレンレミリアは柔らかく微笑んだ。
「許してあげる。仲間だし……それに、あたしのほうが年上だものね」
次回からソロンとフィリアの遺跡探索開始です!
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