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168話 真紅のフィリア

 ガポン神父との戦いのなかで、俺たちはいつのまにかルーシィが拘束されている場所の近くまで移動していた。


 そして、気を失っていたルーシィが目覚めたのだ。

 ルーシィが動こうとして、拘束具の鎖が音を立てて揺れた。


「ソロン……私を……助けになんか来ちゃダメなのに」


 ルーシィの声は苦しげだった。

 魔王の依代としようという儀式の影響がすでに出ているのかもしれない。


「ルーシィ先生は、助かりたくないんですか?」


 俺の言葉に、ルーシィはふるふると首を横に振った。

 赤い髪が乱れる。


「私だって、魔王復活の犠牲になりたいわけじゃない。でも……」


「必ず俺とフィリア様で、先生を助け出してみせます」


 ルーシィは弱々しい声で、でも嬉しそうに「ありがとう」と言った。


 俺はガポン神父に向き直った。


「少し三人で降伏するかどうか、話させてくれないかな」


「かまわんよ」


 ガポンはそう言って、青銅の杖を置いた。

 その顔に疲労の色が浮かんでいるのを、俺は見逃さなかった。

 ガポンは魔王の力の一部を借りているだけだから、もしかすると無尽蔵にその力を使えるわけではないのかもしれない。


 ともかく、時間を確保できた。

 おかげで意識を失ったクレアに対して、回復魔法をかけ続ける余裕もある。


「ルーシィ先生、教えていただきたいことがあります」


 俺はルーシィに質問を投げかけた。


 ルーシィが記した魔導書の使い方だ。

 ルシルの言っていたことが本当なら、そこに書かれているのは絶大な効果を持つ支援魔法のはずだった。


 だが、フィリアがそれを俺に対して使っても効果が現れない。

 正しい方法で行ったはずなのに、だ。


 ルーシィは真紅の瞳を大きく見開いた。


「それは……そうよ。フィリアがソロンに対してその魔法を使っても効果は出ないわ」


 どういうことだろう?

 あの魔導書は、「俺とフィリアの二人に必要なもの」とルーシィはルシルに伝言していたはずだ。

 そして、ルシルは魔導書の中身を支援魔法だと言っていた。

 だから、フィリアが俺に魔法を使うことで、俺の能力を上げ、二人で戦うのを有利にするということだと思うのが自然だ。


「ソロン、それは違うの。あの魔導書はアレマニアの魔王シャルヴァの力を模倣した術式が書かれているわ。支援魔法ではあるけれど、その効果を発言するには、魔王の子孫であることが必要なの。だから……あれはフィリアが自分自身に使うわけ」


 俺は目を見開いた。

 ルシルの言葉に誘導されて、俺を強化するための支援魔法だと思い込んでいた。

 けど、ルシルだって、魔導書の中身を詳しく知っていたわけじゃない。


「でも、もし俺に対する支援魔法でないなら、どうしてあの魔導書が『フィリアとソロンの二人に必要なもの』なんです?」


「だって、フィリアを強くするのは、あなたにとっても必要なことでしょ? あなたはフィリアの師匠なんだから」


 くすっとルーシィは笑った。

 

 つまり、根本的な誤解があったということだ。

 

 魔導書の使用はガポンに勝つための切り札だ。

 すでにフィリアは魔導書の使い方を習得している。


 後はそれを俺にではなく、自分にかければいい。


「フィリア様……できますか?」


「うん……でも……失敗したら、どうしよう?」


 魔導書が使えるのは、魔力量を考えても一度きり。

 俺は身をかがめて、フィリアと目線を合わせた。

 そして、微笑んだ。


「フィリア様はもう無力なんかじゃありません。きっとできます」


「本当に?」


「本当に、です。良い魔術師になるには、自分を信じることが必要なんです。自分を信じられるかぎり、人は変われます」


「でも、わたしがわたしのことを信じられる理由ってなんだろう?」


 俺はフィリアの頭にぽんと手を乗せた。


「俺がフィリア様のことを信じています。だから、フィリア様も俺の信じるフィリア様を信じてください。それではダメですか」


 フィリアは青い瞳で俺を見つめ、そして柔らかく微笑んだ。


「うん……わかった!」


 くるりとリンゴの木の杖を回転させ、フィリアは魔導書を取り出した。

 一呼吸置いて、魔法を発動させる。


 杖は赤く輝き、膨大な量の魔力の奔流が起きる。

 

 そして、その魔力の流れが赤い光となって、フィリアを包み込んだ。

 魔導書の使用は成功だ。


 そして――。


「これは……」


 俺は驚き、そしてルーシィを振り返った。

 ルーシィはいたずらっぽい笑みを見せた。


「アレマニア古代王国。その魔王の用いていた炎魔法を発動する能力を得るのが、私の魔導書の力なの」


 普段は銀色のフィリアの髪が、灼熱を思わせる赤色に輝いていた。

 そして、瞳も真紅に染まっている。


 フィリアは全身に赤い光をまとい、驚いたように自分の体を見つめていた。


「簡単に言えば、この魔導書は『真紅のフィリア』を作るための魔法というわけ」


 ルーシィの言葉に俺はうなずいた。

 全身が真紅に彩られたフィリアは、美しかった。

 圧倒的な力を持つもの特有のオーラに包まれている。


 フィリアは赤色の瞳で俺を見つめ、俺もうなずきかえした。

 そして、フィリアはガポン神父に宣言する。


「絶対にわたしたちは降伏なんてしないんだから! わたしの手で、ソロンたちに勝利を!」

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