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167話 クレアの告白と目覚めるルーシィ

 ガポンの操る神像は、十体。

 対するこちらは四人のみ。


 だけど、クレアが水晶剣を一閃すると、敵の神像の半数が薙ぎ払われた。

 クレアはそのまま水晶剣をまっすぐにかざし、前進した。

 俺もクレアの隣を走る。


 残りの神像のうちの一体が俺に襲いかかった。

 けれど、その右腕を、続いて胴を、宝剣テトラコルドで斬り伏せた。


 狙うはガポン本人だ。

 神像をいくら倒しても、ガポンは無限に召喚できるようだから、きりがない。


 ただ、クレアの水晶剣の力のおかげで勝機は見えてきた。

 神像をまとめて破壊して、ガポンに迫ればいい。

 クレアの水晶剣と、ソフィアの聖女としての力があれば、ガポンを守る魔法障壁も崩せるかもしれない。


「ふむ」


 ガポンは短くつぶやくと、青銅の杖を振るった。

 そこから光の弾がばらまかれるが、俺とクレアに攻撃は当たらなかった。


 ソフィア、そしてフィリアが俺たちを援護してくれているからだ。

 神像もすべて破壊された。


 ガポンは杖でさらに神像を召喚しようとする。

 が、間に合わない。


 踏み込んだ俺とクレアの剣がすでにガポンに届くところまで来ていたからだ。

 俺とクレアはガポンめがけて剣を振り下ろした。

 

 これだけでは魔王の力を撃ち破るには足りないかもしれない。


 だが俺たちには切り札がある。


「神よ。われらをお救いください」


 ソフィアの凛とした声とともに、黄金に輝く光が杖から放たれる。

 聖ソフィア騎士団最強の冒険者にして、教会式魔術の最も優秀な使い手の一人。

  

 そのソフィアの力をもってすれば、ガポンの魔王障壁も撃ち破れる。

 そこに俺とクレアの剣を叩き込めば、ガポンは終わりだ。

 俺はその可能性にかけていた。


 しかし――。


 ソフィアの攻撃は魔法障壁に阻まれ、俺とクレアの剣も弾き返された。

 絶望の表情をクレアが浮かべる。

 

 そして、次の瞬間には、ガポンの光の弾がクレアめがけて放たれた。

 しかも至近距離から。


「きゃああああっ」


 クレアは甲高い悲鳴を上げ、その場に倒れ込んだ。

 俺はクレアを抱きかかえて飛び退った。


 攻撃が通じない以上、いったん後退しないといけない。

 だが、クレアは腕にも足にも胸にも攻撃が貫通していて、全身血まみれだった。


「……いま回復魔法をかけるから」


 俺の言葉に、クレアは弱々しく微笑んで、首を横に振った。


「わたしのことなんて見捨てて、戦わないとダメですよ?」


「俺はクレアが危険にさらされていたら、守ると言ったよ」


「嬉しいです。でも……わたしは……もう助かりません」


 たしかにクレアは危険な状態だった。

 俺の使う回復魔法程度では流れ出る血をある程度抑えられても、根本的な治療にはならない。

 一刻も早く本格的な治療が必要だが、しかし、ガポンに勝たない限り、その余裕はない。


 クレアは血だらけの手でそっと俺の頬を撫でた。


「戦いが終わったら言うつもりだったんですけど、でも、わたしには……もう時間がないみたいです。だから……」


「喋ったらダメだ。クレアは死んだりしないよ」


「……わたし、ソロンさんのことが好きだったんです。幼くて弱い女の子だったときから、ずっと」


 俺は心臓が跳ねるのを感じた。

 たしかに、クレアが俺に向ける目は……クレオンやソフィアに対するものと少し違った。


 頬が熱くなるのを感じたが、今はこの状況を何とかするのが先だ。

 クレアは俺の屋敷に住みたいと言っていた。それを実現するには、ガポンを倒し、クレアを助けないといけない。


 だが、状況は厳しい。


 俺は回復魔法を使いながら、ソフィアやフィリアのもとまで戻ろうとした。

 クレアが戦えなくなった今、後衛の二人を守ることができるのは俺だけだ。

 

 だが、俺が戻るのよりも速く、ガポンの新たな神像がソフィアの前に出現した。


「あっ……やだ……」


 ソフィアが怯えたように小さな声を上げる。

 その翡翠色の瞳は、恐怖に染まっていた。


 さっき全力をこめて魔法を撃ったせいで、ソフィアはしばらく魔法が使えない。

 だから、神像に抵抗することもできなかった。


 神像の振るった拳が、ソフィアを容赦なく吹き飛ばした。

 悲鳴を上げることもできず、ソフィアは壁に叩きつけられた。


「……ソフィア!」


 俺は大声を上げて、呼びかけたが、仰向けに倒れたソフィアに反応はなく、ぐったりと意識を失っているようだった。


 これで残っているのは、俺とフィリアだけになった。


「ソロン……」


 フィリアが俺に駆け寄ってくる。

 銀色の髪がふわりと揺れた。

 そして、青い瞳で俺を見上げた。


 どうすればいい?

 

 ソフィアのことも心配でたまらないが、今の俺とフィリアでは自分の身を守ることで精一杯だ。

 しかも、クレアは重傷だ。

 

 解決策は……。


「あのね、ソロン……わたしの魔力を限界まで使ってほしいの」


「ですが……そんなことをしたら、フィリア様は……」


 以前、賢者アルテも魔王の子孫の少女たちの魔力を思うままにすべて使った。そうすることで、魔王の子孫の少女たちは犠牲となり、廃人となるか、ひどい場合だと死に至った。


 俺がフィリアの魔力を可能な限り、使うということは同じ危険があるということだ。


「だけど……そうしないとガポン神父に勝てないよ」


 フィリアの言うとおり、もうそれしか手段は残されていない。

 いや……もう一つ切り札がある。


 ルーシィの残した魔導書だ。だが、あれは正しい使い方がわからず、効果を発動できていない。


 ガポンが俺たちに向かって声をかける。


「ソロン、もし君が降伏するというのなら、君自身と皇女殿下の安全は保証しよう」


「そうした場合、ルーシィ先生やクレア、それにソフィアたちはどうなる?」


「君はもう負けている。すべてを得ようというのは傲慢だ。ルーシィ教授は魔王復活の依代となるし、聖女ソフィアも新たな魔王復活の依代として役立つ。クレア少尉には死んでもらうことになるがね」


「だとすれば……」


 そんな提案は飲めない、と言いかけて、俺は迷った。

 俺のことはともかく、フィリアがもし助かりたいと考えているなら……。


 けれど、フィリアは首を横に振った。


「みんなを見捨てて、わたしだけ助かるなんて、そんなこと、考えていないよ」


 俺はフィリアにうなずいた

 なら、この状況の打開策を探らないといけない。

 もちろん、フィリア自身も犠牲にしない方法で。


 ガポンが俺たちに降伏を勧めてきた。

 状況だけ見れば、ガポンが俺を殺して、フィリアたちを捕らえることなんて簡単なはずなのに、だ。


 つまり、ガポンには何か弱みがあって、俺たちとこれ以上、戦いたくないのだ。

 なら、まだ俺たちにも勝ち目がある。


 そのとき、背後でうめき声がした。


「ソロン……どうして……ここに?」


 振り返ると、そこには鎖で拘束されたルーシィがいて、真紅の瞳で俺を見つめていた。


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