偶の休日2
「おっ、坊主。お姉ちゃんと買い物かい?」
とある村で一泊することになり、スズさんと食料品の買い出しをしていた。
すると店のおじさんが話しかけてきた。
「は、はい。そうです」
「荷物持ってあげてんのかい。偉いねぇ」
おじさんの言葉に僕は戸惑いながらも頷いた。
おじさんは満足そうに笑うと、紙袋を取り出して僕に手渡した。
袋は膨らんでいて、何かが入っているみたいだった。
「手伝いのご褒美だ」
「えっでも」
「モラっちゃいなさいよ。ナニ遠慮してんのよ」
困ったように横を見ると、スズさんは何を気にするでもなくそう言った。
戸惑いながらも、僕はおずおずとその紙袋を受けとる。
「あ、ありがとうございます」
「そうそう。子供が遠慮するもんじゃないぜぇ」
「と言うことがあったんだ」
おじさんから貰った袋を指して、説明する。
他のみんなは特に感心するでもなく、各々適当に相槌を打った。
袋の中に入っていたのは花の種だった。
といっても植えて育てるという物でもなく、食用の物だ。
炒った物が大量に入っており、どうやらこの世界のおやつみたいなものらしい。
特に味付けがされてる訳でもない。
だけども種の油分が口に残りなんとも癖がある。
先程からセンリンとソーラがしきりに口に運んでいた。
「私も幼少の頃はこういうの食べてたなぁ」
サニャも数個、手のひらに乗せて興味深そうに食べていた。
「えっと、こういう事って良くあるの?」
「コーイウ事って? タネ食うとかマズしいヤツだ的なハナシ?」
「ち、違うよ! その、買物にきた子供におやつを配る、みたいなの」
なんだか誰も不思議に感じてないのが、逆に変な気がして僕は訊ねる。
スズさんは何が疑問なのか判らない、といった感じで首を傾げた。
「ベツにフツーじゃない? まぁゼーインに配るワケでもないデショーけど」
「そうだね。特別珍しいことでも無いと思うよ?」
「貰う、私も、良く」
「でも僕、今日初めて貰ったよ」
この世界で買物に同行するのは何度かあった。
でも店の人から物を貰うなんて初めての事だった。
というより、話しかけられる事すらなかった気がする。
だからか、さっきの出来事は僕の中で結構衝撃的で戸惑っているのだった。
僕のその言葉に、ソーラとセンリンを除く三人が「あぁー」と納得の声を上げた。
「多分だけどさ、耳が付いてるからじゃないかな」
「耳? やっぱり付いてないと不審に思うって事?」
「と言うよりは、厄介事を抱えてる。と思われていたのかもね」
サニャの話によると、犯罪を犯して捕まった人なんかは、耳や尻尾を切り取られたりするらしい。
流石に両耳という訳じゃないし、傷のつけ方なんかも地域や罪状によってかわるみたいだけど。
「つまり僕は、暫く犯罪者だと思われてたって事?」
「うーん、そんな単純ではないだろうけどさ」
「その歳で両耳に尾も無いとなると、何かあるとは思うでしょうね」
「要はヘタに関わってメンドーにマキコマレたくないンデショ」
僕は「はぁ」と気の抜けた返事をする。
結局似たようなものじゃないか。
と言うことは、一緒に居たシスター達も同じ様に見られてたのかも知れない。
なんだか申し訳ない気持ちになる。
「ダーカーラ、アンタは余計な事気にすんじゃないの」
無意識に沈んだ顔をしていたのか、スズさんは僕の頭をグリグリと撫で回した。
彼女の手に揺られながら、ふともう一つの疑問を思い出した。
「そういえば、僕達を見て姉弟だって言ってたけど、どうしてそう思ったんだろう?」
スズさんと僕とでは、耳の形状も元も違う。
どちらかと言うと友人とか近所の知り合いが精々だと思うんだけど不思議な話だ。
「何か勘違いしてるみたいだけど、必ずしも家族間で同じ形状になるわけでもないわ」
「そうなの?」
「祖父母の特徴を受け継ぐ場合もあるし、兄弟間で差異が出るのも珍しくはないわ」
「中には原種主義的な家もあるよ、けど庶民間では少ないんじゃないかなぁ」
ポリポリと種を口にしながらサニャが呟く。
それにスズさんが嫌味たらしく口を開いた。
「ヘェヘェ、貴族様はチガイマスわね」
「そもそも家は鳥家系だから、嫌でもそうなるんだよ」
横目で嫌味を言うスズさんに、サニャは肩を竦める。
確かに、これだけ色んな種がいるんだし、そんな限定的な付き合いは難しいだろう。
「まぁ確かに、そう言う意味では私達は選民的だって言われがちだね」
「せんみんてき?」
「簡単に言うと、羽を持ってる事が特別だと思ってるって事よ」
「そんなつもりはないんだけどなぁ。態度に現れてるとか、唯の僻みだとか各々さ」
なんだか良く分からない話になってきたなぁ。
というか微妙に部屋の空気が悪い方向に行ってる気がする。
僕は少し慌て気味に話題を逸らした。
「そ、そういえば、サニャが嫌でもそうなるって言ってたけどなんで?」
「あぁ簡単な話よ。そもそも子供の産みか――」
「ワー!! ワァー!!!」
突然スズさんが大声を上げてシスターの言葉をかき消した。
言葉を邪魔された本人は耳を抑えて不快そうに顔を歪める。
「うるさいわね」
「お、オマエ! 子供にヘンな事オシエんじゃないわよ!」
「お前は本当に過保護ね。そこまでいくと却って教育に悪い気がするけれど」
「イーヤ! まだ早いわ! お前が性にホンポー過ぎんのよ」
「それは喧嘩を売ってると解釈して良いのかしら?」
何故だか二人の諍いが始まって話がうやむやになり始めた。
なんだか年齢を理由に説明されないのは正直不満を感じた。
「結局どういうことなの?」
(今度、私が教えてあげるよ)
耳元でサニャがそう囁くが、スズさんが後ろから頭を引っ叩く。
何故だか僕も叩かれて痛かった。
センリンとソーラは無言で花の種を頬張っていた。




