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泣声4

少年side

 振り下ろされた刃はスズさんに届く事は無かった。

 間に入ったセンリンが棍でその一閃を受け止めたからだ。

 スズさんは体を縮める事もせずただ茫然とその光景を眺めていた。

 剣を振り下ろした騎士の女性は眼前で自らの一撃を受け止めた人物を睨め付ける。


「困るな。部外者が邪魔をして貰っては」

「失礼。友人スズが泣いていたもので」


 センリンの声は今まで聞いたことが無い位に冷えきっていた。

 騎士の女性はセンリンを押し込めようと力を込めたみたいだけど、ビクともしない。

 力を込めて震える彼女の体とは対照的にセンリンの体はただ静かに体制を保っている。


「選んでください。今すぐ彼女に謝罪するか――」

「謝罪してほしいのはこっちなんだよぉ!!」


 瞬間彼女の剣が跳ね上がる。

 センリンが棍を持ち上げる様に力を込めたのだった。

 女性は不測に生じた力を利用し、弧を描く様に剣を動かすと胴をめがけて斬りつける。

 しかしそれよりも速く、センリンは懐へ入り自身の間合いへと距離を詰めていた。


 ドン――


 地面を揺らす大きな衝撃と共に女性は大きく吹き飛ぶ。

 後方の家へと激突すると壁を破り、さらに奥へと姿を消した。

 後に残るセンリンは、腰を深く落とし真っすぐ腕を伸ばしたままゆっくりと息を吐く。


「スズさん! 大丈夫?」


 僕は急いで彼女の元へと駆け寄った。

 呆然と座り込む彼女の肩を掴むと、名前を呼びながら必死に揺さぶる。

 直ぐに彼女は意識を戻したように瞳に色が灯る。

 僕の顔を見ると顔を歪めて涙を零した。


「シャル……ワタシぃ、ううぅううう」


 言葉にならないのか嗚咽を漏らして僕の胸に顔を埋める。

 僕よりも少しだけ大きな、それでいて小さい体の震えがこちらにも伝わってくる。


「大丈夫。大丈夫だよ。前にも言ったじゃないか、僕はスズさんを信じてるんだって」

「アンタがそんなんだから、ワタシは、ワタシがぁ」

「うん。そうだね、ごめんなさい」


 そう言って彼女の体を精一杯抱きしめた。

 いつも助けてくれるその体は、今はとても儚く見える。


 その姿はあの時の、王都での出来事を思い出させた。

 サニャ達に捕まり、まるで逃げる様に視線を外す彼女の姿を。

 僕はあの時、どうしようもなく悔しかったんだ。

 スズさんに騙された事じゃない。

 彼女にあんな姿をさせている自分自身の無力さに。


 まるで僕を拒絶するような彼女の言葉。

 その一つ一つが、無理をしているように悲痛な色に染まっていたから。

 僕がもっと強ければ、スズさんがあんな悲しげな姿を見せる事も無い筈なのに。

 だから僕はあの時、余りの自分の無力さが悔しくて、情けなくて、嗚咽を漏らした。


 精一杯、怒りで歯を食いしばる。

 結局あの時から、僕は何も成長していないじゃないか!


「シャル君、出来ればスズと後ろの方へ」


 センリンは相手が消え失せた家へと視線を向けながら静かに言った。

 家の周りには先ほどの女性の部下達が、戸惑い気味にこちらの様子を伺っている。

 そして大きく空いた穴の奥から、彼女達の主がゆっくりと姿を現した。

 盛大に吹き飛ばされた筈なのに、何でもないかのように不敵な笑顔を浮かべていた。


「成程。貴様か、屋敷で暴れたってのはさぁ」

「その節はどうも」


 センリンは相手を見据えながら軽く左手を振った。

 地面に何かが飛び散り、赤い模様を描く。


「センリン、手が!」

「ふむ。存外硬い鎧ですね。まさしく骨が折れそうです」

「ライラ様は、魔法でヨロイの硬度を上げてるのよ。素手じゃムチャよ」

「流石に、纏めての相手は厳しいですか」


 ライラと呼ばれた女性騎士はフルフェイスの兜を被ると周囲の部下に号令を送った。

 途端に周りの剣士達も獲物を手に取り構えていく。

 その様子にセンリンは困った様に頭を掻いた。


「仕方ありません。私が時間を稼ぎますので、お二人は逃げて下さい」

「ハァ!? オマエ、バカなこと言ってんじゃ無いわよ」

「ですが、スズもお仲間に刃を向ける気にもならないでしょう?」


 センリンの言葉にスズさんは押し黙る。

 流石にそんな直ぐに気持ちの切り替えができる訳も無いんだろう。


「わ、ワタシだってヤレル。やって見せる」

「僕も戦うよ」

「いけません。彼らの狙いはシャル君なのですよ。スズ、貴女が守って下さい」


 ニコリと笑うと、センリンは眼前の敵に飛び出した。

 一足で相手の元へ距離を縮めると、近くの一人を一撃で昏倒させた。

 直ぐ様数人が彼女に斬りかかるも、彼女は棍でそれを器用に捌いた。

 反撃を持って相手を沈めるが、その中の一人が彼女の一撃を受け止める。


「構うな! コイツは私と近くの三人が残る。あとは目標を始末しろ!」


 攻撃を受け止めたライラが、部下に指示を飛ばす。

 それを聞いて残りの剣士達は僕達に目標を変えた。

 直ぐ様、センリンがその足を止める為に立ちはだかる。

 だが、ライラが反撃も恐れずに彼女を攻め立てた。

 

 相手の攻撃を捌きながら一撃を加えるも、ビクともしない。

 強化した硬い鎧で固めた彼女には、一撃必倒を旨とするセンリンにはやり辛い相手だった。

 ましてや囲まれての複数戦、防御を打ち砕く強打を打ち込む隙も与えられない。

 彼女は捌くことを諦めて、相手の足を止める事に集中した。


「スズ!!」


 センリンは大声で名前を叫んだ。

 その言葉に弾かれるように、スズさんは僕を抱えて駆け出した。


「スズさん! センリンが!」

「分かってる! 分かってるワヨ!!」


 遠ざかっていく傷つき奮闘する彼女。

 スズさんは悔しそうにただ前も見据えて足を動かす。

 僕は小さくなっていく彼女に届かんとばかりに大きく声を上げる事しかできなかった。

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