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猫踏兎蹴3

「すいません、ちょっと良いですかぁ?」

「? 何?」


 シスター達の元へ向かう僕達の前に一人の女性が話しかけてきた。

 少し気弱そうな雰囲気が漂う茶羽の生えた女性。

 先道していてソーラが必然的に話を聞く形になる。

 女の人はどうやら道を尋ねたいみたいだった。

 しかし言葉の拙い彼女では上手く会話が成り立たない為、スズさんが見かねて前へ出る。


「ワルいけど、ワタシ達もここらは詳しく無いのよ。ホカを当たってチョーダイ」

「聖堂院の場所を知りたいだけなんです。御存じないですか」

「ダカラ知らないわよ! 騎士団のトンショなら教えるからソコでキイテ」

「そう言わずに……」

「ダーカーラー!!」


 雰囲気の割に押しの強い女性だ。

 しかも物分かりが悪い。

 スズさんが鬱陶しそうに払おうとするも、縋り付いてくる彼女に戸惑っていた。

 僕がその様に苦笑いを浮かべていると突然後ろで「ギャ!」と誰かの悲鳴が聞こえる。

 驚いて振り向くと、センリンが見知らぬ男性の手首を捻り上げて組み伏せていた。

 

「ナニ? ドーシタのソイツ?」

「さぁ? しかしシャル君に向かって走り寄ってきましたので」

「いでででで! 待った待ってくれ! 俺が悪かった放してくれ!」


 センリンは困った様にスズさんを伺う。


「ソノママでイーワ。話はコイツに聞くから」


 そう言うとスズさんはサーベルの先を女の人に突き付けた。

 彼女は驚いた顔をして手を上げる。


「な、何がですか? 私は関係ないですよ」

「トボけんじゃないわよ。オマエの意識がサッキからシャルに向いてンのバレバレだから」

「そ、そんな事……」

「スズ!」


 突如、背後でセンリンが注意を促した。

 右方面から別の男が僕に向かって走って来ていた。

 流石に獣人達は足が素早く、振り向いた時には既に僕の目の前に迫っていた。

 スズさんは舌打ち交じりにチョーカーのベルを鳴らして相手の意識を自身に向ける。

 相手の意識が逸れた瞬間右足を切り付けた。


 だがその攻撃の隙を今度は女が即座に狙いをつけた。

 羽でスズさんを弾き飛ばす様に振るう。

 だけどスズさんはその攻撃を間一髪で躱した。

 しかし首筋に掠り、彼女のチョーカーを切り飛ばした。


 よろめいた一瞬に女は滑りこむように僕の体を掴むと、羽を使い宙へと浮かぶ。

 滑るように地面を飛ぶとドンドン高度を上げていく。

 急に抱えあげられて戸惑い反応が遅れてしまった。

 あまり高度が上がり過ぎると、落ちた時に助からないかもしれない。

 既に住宅で言えば二階相当の高さになっていた。

 僕は必死になって魔法で体に電流を纏わせる。


 バン! と破裂したような音が聞こえる。

 直後に内臓が持ち上がる感覚が体を襲う。

 僕は咄嗟に体に障壁を張った。

 しかし壁を張った状態であっても落下は落下だ。

 鎧を着て崖から飛び降りても無駄な様に、激突するのが地面か魔法の壁かの違いでしかない。


 それでも張らないよりはマシだ。

 ふと、目の前にいる気を失った女の人が写った。

 獣人は僕達より頑丈だから、落ちても大丈夫かもしれない。

 だけど、電流を食らって意識を失っている無防備な状態。

 それで頭から落下して本当に平気なのだろうか?


 でも地面はもう目前だ。

 いま彼女を含めて障壁を張りなおして間に合うのか。

 そもそも彼女は僕を攫おうとした人な訳で、そこまでする義理は無い筈だ。

 そう、この人の自業自得だ。


 だけど一瞬女の姿が僕を守る彼女達の姿と重なって見えた。


「くっそぉ!」


 僕は叫んで女の人の頭を抱える。

 そして、自分の障壁を解いて彼女の体を含めて再度――


 ゴッッ――


 鈍い音と脳に響く衝撃と共に僕は意識を失った。

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