猫踏兎蹴4
スズside
私はその光景を見た瞬間、夢を見ているものだと錯覚してしまった。
隙をつかれて女がシャルを抱えて飛び去った。
私は咄嗟に首に手を伸ばしたけど、目的の物は存在していなかった。
先程の攻撃で切られてしまったらしい。
追いかけようと足に力を込めるが、切り付けた男がしつこく私の足を掴んでいた。
センリンに視線を向けると、私と同じく男に足止めを食らっている。
あのマヌケ! 三人目が飛び出した時点で迷わず意識を奪っておけばいいのに!
私が舌打ちを鳴らした瞬間、上空で破裂音が聞こえた。
目を向けるとシャルを抱え飛んだ女が煙を上げて落下してるのが見える。
私は咄嗟に足首を掴んでいる男の手首を迷わず切り落とした。
男が呻いて手首を押さえると同時に駆ける。
高度は住宅の二階よりも少し高い。
私達ならちょっとした怪我で済むかもしれない。
だけどアイツは私達程頑丈じゃない、もしかしたら死んでしまうかもしれない。
私は唯々必死で脚を動かした。
後ほんの一メートル。
その瞬間に大きな音ともにアイツは地面に叩きつけられた。
私はその光景に思わず足が止まる。
頭が真白になっていた。
シャルは体を地面に投げだされピクリとも動かない。
混乱で頭に酸素が上手く行渡らない。
「あ、アァア……!!」
歯をカチカチと鳴らして声を上げる私を押しのけて誰かがシャルに駆け寄っていく。
ソーラだった。
彼女は必死の形相でシャルに呼びかける。
体に触れないのは何かを気遣っているのだろうか?
次に耳を口元に寄せる、呼吸の確認だろう。
彼女の動作を見守る内に現実感が私に戻ってきた。
「ソーラ! シャルが! シャルはヘーキなの! ねぇ!!」
「大丈夫、ある、呼吸」
彼女の言葉に私は腰が抜けた様に地面に座り込んだ。
抜けた様に、というか完全に抜けていた。
視界が歪み、涙が滲んでいるのが自分でもわかる。
シャルはぐったりとしているけど、何処か安らかな顔をしていた。
見た感じ外傷は見当たらない、魔法で身を守ったのかもしれない。
「打ってない、頭、安心、少し」
「え? あぁソーネ、首より少し下からオチてたかも」
その後に体が叩きつけられて、頭は最小限の衝撃で済んだ……らしい。
正直私はそこまで鮮明に覚えてない、間に合わなかった一瞬でパニックになっていた。
こいつは良くあの一瞬を目を逸らさずに見ていた物だ。
冷静に駆け寄っていたし、私なんかよりも肝が据わっている様だ。
後ろを見るとセンリンはその場でへたり込んでいた。
さっきまでいた男達は影も形も見えなくなっている。
私達が取り乱している間に逃げて行ったらしい。
何とも情けない話だ。
「ダメ、楽観、行く、病院」
とはいえ、意識が飛ぶほどの衝撃を受けたのだ。
取り合えず病院に連れていくべきだとソーラは主張する。
私もその意見には賛成だった。
しかし、私は腰が抜けていて上手く立てない。
仕方なくセンリンに助けを求めるが、彼女は呆然として私の言葉に反応しない。
「センリン! チョット! 聞いてる?」
まるで聞こえていないようで私は舌打ちをする。
そんな私を背後で誰かが掴み上げた。
牛女だった。
「何やってんのよお前等!」
「……油断してた。ゴメン」
怒鳴るコイツに私は何も言えなかった。
完全に自分の失態だから。
大人しく謝罪する私に舌打ちをすると体を離した。
「ふん。まぁ、私も少し浮かれていたわ」
「ソレよりも、医者! シャルを連れてかないと」
「今サニャが呼びに行ってる。見てないけど落ちたんでしょ? 動かさない方が良いわ」
溜息を吐いてシャルの方に視線を送る。
強がってはいるけど、心配そうな表情がどこか見え隠れしていた。
それにしてもよく状況を理解してるものだ。
「突然これが騒ぎ立てるものだからね。あとは現場の状況を見ればなんとなくわかるわ」
そういって自分の肩にいる鼠を突いた。
なるほど、相変わらず便利な魔法ね。
「しかし、コイツ等なんの目的があって……」
「そうね。でもこの女に聞けばいい事でしょう?」
そう言って倒れている女を足蹴にする。
見た所、この女も外傷が無く命に別状はなさそうだ。
もしかしたらシャルが守ってやったのだろうか。
「フゥン。ゴーモンは趣味じゃないって言ってなかった?」
「えぇそうね。だけど、これは私の主義とは別問題」
まるで虫けらを見るかの如く女を見下していた。
確かにこいつを助けた所為であの子に何かあったら唯ではおけない。
「シャルルが見てないなら気兼ねする必要もないでしょ?」
「……ナルホド」
自業自得だけど、この女も災難なことね。
まぁシャルのお陰で命は無事なのだ。
死ぬより辛い目に合う前に精々口を割る事ね。
ふと背後を見ると未だにセンリンが座りこんでいるのが見えたのだった。




