表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/117

姉達の胸中4

センリンside

 ふと夜中に目が覚めた。

 何やら部屋で微かながら、気配を感じる。

 敵意は感じず、さりとて虫や鼠の類いでも無さそうです。


 現在私達は二組に別れて部屋をとっていました。

 まぁそれなりに人数も増えたので当然でしょう。

 この部屋には私と彼とモーさんの三人。

 部屋割りはモーさんの独断です。


 ソーラやスズは少し不満気でしたが、最終的に押しきられていました。

 とは言え、ソーラは鼠を部屋に寄越しているようですが。

 モーさんは気付いているのかいないのか、どちらにせよ特に口出しはしていません。

 まぁ彼女としては、ソーラよりも後の二人を気にしているようですし。


 それはさておき、私はベッドから体を起こしました。

 気配を探ってみると、どうやら他のベッドからそれが感じられます。

 モーさんは静かな物です。

 となると、残るは。


 私は立ち上がり、気配の元へと近づきました。

 微かに揺れる毛布を掴んで捲りあげます。

 すると彼は驚いて、私の顔を唖然と見上げました。

 反応が早く、どうやら眠っていないようでした。


「眠れないのですか?」

「別に、そういう訳じゃ」


 彼は気まずそうに視線を外しました。

 彼の側にはソーラの鼠が寄り添うに控えていた。

 顔を覗き込むと、何やら不安気な表情が見えます。

 僅かではありますが、体が震えているのが分かる。


「怖い夢でも見ましたか」

「そんなんじゃないよ。大丈夫」


 彼は震えを抑える様に右手で左手を掴みます。

 大丈夫、ですか。

 強がる姿はいじらしいですが、ここは年長者として頼って欲しいものです。

 私は腰を下げて視線を合わせました。


「確かに私はモーさんやスズみたいに、頼りにはなりませんが」

「そ、そんなこと無い! センリンは――」

「でもお二人の様に、あなたの力になりたいと常に思っています。それだけは信じてください」


 私はそう言って彼の手を取り両手で包みました。

 彼は私の顔を困ったように見つめます。

 段々と体の震えが収まってきたのが分かりました。


「迷惑をかける。なんて思わないで下さい。大人は子供に頼って欲しいものなのですよ?」


 彼は複雑そうに顔を歪める。

 子供であるという事を否定したい。

 だけどそれを決定づける今の状況。

 その二つが相反し、複雑な心境なのでしょう。


 彼は暫く黙ると、諦めたように口を開きます。


「夢を、見たんだ」

「怖い夢ですか?」

「うん。皆が怖い人達に暴力を振るわれるんだ」


 自分の体を抱えて、怯えながら、私に伝える。


「夢の中の僕は皆を助けようとするんだ。だけど間に合わない」

「それは夢ですよ。私も皆も無事ですよ」

「皆は泣き叫んで助けを求めるんだ。でも間に合わない」

「大丈夫ですよ。皆強い人です。そんな風にはなりません」

「いつか本当にそうなるんじゃないかって思うと怖いんだ、凄く」


 彼はやがて泣き出しそうな顔で体を振るわせ始めます。

 私はそっとその小さい体を抱き締めた。


 あぁ、なんて私は浅はかだったんだろう。

 サニャを勇ましく助けた姿を見て、勘違いしていた。

 彼はまだ年端もいかない少年なのです。

 目前で知り合いが暴行を受ける姿を目撃すれば、その衝撃は相当の筈。

 しかも彼が見たのは、嬲り、弄び、それを楽しむ醜悪な暴力。


 精神的に深い傷を負ってもなんら不思議ではありません。

 それこそ夢にまで見る様な。


 きっと、それを目にした時の光景は本当に恐ろしかったのでしょう。

 彼はそんな恐怖を振りきってまで、サニャを助けようとしたのです。

 怒りが背中を押したとはいえ、その勇気はどれだけのものだったか。

 そして、実際に暴力を受けた彼女はそれ以上だろう。

 私は彼の体を離すと、なるべく優しく微笑んだ。


「今日は、お姉ちゃんと一緒に寝ましょうか?」

「え? でも――」

「言ったでしょう? 私は頼って欲しいのですよ」


 それに彼に無用な恐怖を与えたのは私の責任だから。

 初めから私が正面を切って救えば良かったのだ。

 一人も逃がさぬ様にと、無用な正義感が二人の心と体を傷つけた。


 最初は渋っていたが、やはり芽生えた恐怖心には勝てず、彼は渋々提案を受け入れました。

 私と彼は狭いベッドの上で詰めるように横になります。


「ねぇ、センリン。手を握って良いかな?」

「手ですか?」

「うん。センリンの手を握るとね。凄い、安心するんだ」


 照れくさそう言う彼に、私は返答する代わりに手を握ってあげる。

 すると小さく可愛らしい笑顔を見せてくれた。



 暫くすると隣から穏やかな寝息が聞こえてくる。

 どうか優しく幸せな夢であるように。

 そう願いつつ、私も眠りにつくのでした。

 



 次の日、どうやらあれから熟睡できたようで、彼の顔色は随分と良い物でした。

 しかし、それとは別に何やらソーラの機嫌が良くないようでした。

 というより、露骨に私に冷たい。


「ソーラ、その、何か気に障ることをしたでしょうか?」

「別に、頼りにならない、どうせ、私」


 彼女は不安げに訊ねる私を見て、そう言うと拗ねる様に顔を逸らします。


 そう言えば部屋で彼女の鼠が寄り添っていたのだった。

 自分では寝かしつけられなかったことに拗ねているのでしょう。

 頼りになる人物で彼女の名前を省いたのも良くなかったのかもしれない。

 私は必死に謝りながら、彼女を慰めるのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ