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姉達の胸中1

「横になっていた方がいいんじゃない?」

「大丈夫だよ。あまり動かないのも逆にね」


 僕の質問にサニャは平気そうに答える。

 だけど、やはり体が痛むのか、動きは随分と緩やかだ。


 次の日になって、彼女は僕達と同行すると言い出した。

 なんでも、スズさんと合流して行動するように言われたんだとか。

 あれだけ手酷くやられたのに、あんまりな仕打ちに感じる。


 だから僕は、体を気遣って彼女の傷が癒えるまでゆっくりしようと提案した。

 彼女はそれを拒んだけれど、他の皆も賛成したことで渋々従ってくれた。


「にしても、オマエがサンセーするのは意外ね」


 スズさんはシスターを見て意地悪く言った。

 それに彼女は諦めた様に返答する。


「別に。移動中に具合を悪くされた方が面倒なだけよ」

「マァ、確かにタダでさえ手のかかるヤツが居るからね」


 スズさんはそう言ってジトリと僕を流見る。

 少し心持ちが悪くなって僕は顔を落とした。

 そんな僕の頭を撫でつつも、サニャは口を開いた。


「どうしたんだいスズ、随分と意地悪じゃないか」

「い、イジワルって、別にホントの事でしょ」

「屋敷では口を開けばこの子の心配をしてた癖にさ」


 サニャの言葉にスズさんは顔を真赤にして反論する。

 しかしサニャはその様子を楽しそうに笑った。

 シスターが呆れて口を挟む。


「チビに構って貰えなくて拗ねてるのよ」

「ハァ!? ち、チゲーわよ!」

「成程、屋敷でも世話役を変われってうるさかったしね」

「そうなの?」

「あぁ、お前達なんかにあの子は任せてらんないー! ってね」

「そ、ソンナフーに言って無いワ! それに一回ダケじゃない!」


 スズさんが顔を真赤にして訂正するけど、あんまり意味が無い気がする。

 でもちょっぴり、その事実は嬉しかった。

 勿論信じていたけど、実際耳にするとではやっぱり心持ちが違う。


「ん? ということは、屋敷でサニャが言ってた事は嘘だって事じゃないか」

「ありゃ、墓穴を掘ったかな?」


 僕がジト目で睨むと、サニャは逃げるように視線を逸らした。


「そ、そーよ! ソイツはウソツキだから気を付けなさい。アンマ近づくんじゃないわよ」

「なんか最近のお前は見ていて哀れだわ」


 必死に捲し立てるスズさんに、シスターはバカにした目付きで溜息を吐いた。




「そういえば、君達は何処に向かってるんだい?」

「あら? そこの仔猫からとっくに聞いてると思っていたけど」

「手厳しいね」

「そうだよシスター、そんな言い方……」


 あんまりな物言いに、シスターに食って掛かりそうになる。

 だけど後ろでサニャが手を引いてそれを止めた。

 シスターは僕を見て小さく鼻を鳴らすと渋々目的地を教えた。

 

「へぇ? あそこは随分前に住民も殆ど移住した、廃村同然の筈だけど?」

「知らないわよ。行きたがってるのは、その子なんだから」


 そう答えられサニャは納得する声を上げた。

 サニャも僕の事情は理解してるし、なんとなく察したのだろう。

 それにしても、あそこって初めから廃村だったんだ。

 てっきり、襲撃されてあんなことになっているのかと思っていた。


「まぁ人気ひとけも少ないからこそ、ラル様もそこで研究してたんだろうけど」


 そう言ってサニャは肩を竦める。

 確かに人里離れて魔術の研究、なんてのはよく聞く話だけれど。

 だとしてもあそこは不便に過ぎる気がする。

 そこまで秘密にしたい研究なんだろうか?


「それにしても随分遠回りだね? 船は使わないのかい」

「お前等から追われてると思ってたしね」

「成程。ならその心配も無くなった訳だし、近くの港町によって乗れば良くないかい?」

「そうね。考えておきましょう」

「私達は歩くのはあんまり好きじゃないからね。前向きな検討を期待するよ」


 シスターの煮え切らない態度にサニャは溜息を吐いた。

 翼のある彼女達にとって長時間歩いて移動するというのは、理解できないのかもしれない。

 特に片翼を欠いた彼女は、今後そうせざるを得なくなるのだ。


「……ねぇサニャ、体は平気? その痛みとかはないかな」

「ん? あぁまだ平気だよ。君の魔法が利いてるお陰さ」

「そう。その効力が切れたらちゃんと言ってね。すぐかけ直すから」


 この世界はあまり魔法の治療は発達していないみたいだった。

 魔法を使える人間が限られている上に、適性のあった魔法しか使えないのだから当然なんだけど。

 だから、サニャには僕が痛みを和らげる魔法を定期的にかけていた。

 効力が切れてるかの判断がつかない為、こうして時折確認するのだ。

 そうでもしないとサニャは強がって自分から言い出さないから。


「それにさっきかけたばかりだろう?」


 確かにそうだけど、なんだか彼女の力になりたくて、つい口に出してしまった。

 そんな僕にサニャはニヤリといやらしく口を歪める。


「おや、もしかしてまた()()が欲しかったりするのかな? 言ってくれればいつでもしてあげるのに」

「……マセガキ」

「ちっ! 違うよ!」


 スズさんの軽蔑したような眼に僕は真赤になって否定する。

 その時、丁度センリンとソーラが買い物から戻ってきた。

 僕は幸いにと、彼女の腕を引っ張る。


「僕、センリンと稽古してくるから!」

「おぉ? そんなに待ち遠しかったのですか? しょうがないですねぇ~」


 逃げるように部屋を飛び出る僕の後ろで、センリンの的外れな発言が聞こえるのだった。

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