堕鳥
サニャside
「そう。災難だったわね」
報告を受けて鏡中のペルシア様は残念そうに顔を歪めた。
私の被害に、と言うよりは情報が嘘であった事にであろう。
実際、羽を欠いた以外は見目には大した怪我ではないのだから致し方ない。
しかし、センリンから受けた怪我が治らぬ内に続けざまにこの仕打ち。
見てくれ以上に体はダメージを残していた。
それでも彼がかけてくれた魔法で体の痛みは左程でもない。
痛みが引いているお陰で、多少の無茶は利きそうだ。
とは言え事前に術者から、無茶はするなと注意を受けてしまったしね。
私はその時の事を思い出して少し頬を緩ませる。
ペルシア様がその様子に首を傾げ、慌てて気を引き締めた。
「しかし、やはり内通者が騎士団に紛れ込んでいたか」
憎々気にペルシア様は顔を歪ませた。
現在捕らえられているあの男。
彼が出した情報を元に今回の奴らは待ち構えていた。
恐らくは騎士団内部に仲間ないし協力者がいるのだろう。
「考えられるのはやはり兄上か……忌々しい」
彼女は不愉快そうに牙を剥き出しにする。
ペルシア様の腹違いの兄にして、第二騎士団の副団長であるベルガル様。
二人の仲違いは王族周辺では有名な話だ。
噂ではペルシア様が私設騎士団を設立する際も、度々妨害されていたとか。
彼が各地の騎士団経由でゴロツキを雇い、所縁の魔法使いを襲い研究を妨害している。
そんな所だろうか。
実際に動く人間には王族から雇われているとは直接聞かせてはいないだろう。
話した所でああいった手合いは金さえ貰えれば深くは気にしないだろうしね。
捕らえられたのに切り捨てられずにいる死霊使いは、意外にも深い関係かもしれない。
といってもどれも予測でしかなく、確信が無い。
第二騎士団は各地に駐在する事もあり規模、派閥共にかなり大きい。
無駄に突きまわせば、ベルガル様とは無関係な派閥まで敵に回しかねない。
所詮は王族の一私設兵に過ぎない私達だ。
対応を間違えれば、騎士団そのものがなくなりかねない。
ペルシア様もそれが分かっているのか、憎々気に歯ぎしりをする。
「そうなると鏡通信は控えるべか。どこで兄上の手の物が聞耳を立ててるかも知らん」
基本的に私達がペルシア様へ連絡をするときは、各地の屯地を借りて行う。
副団長ともなれば、各地に自身の手の物を潜り込ませることも出来るだろう。
「まぁよい。サニャは一先ずこちらへ直ぐに戻って参れ。今後の対応を話す」
「恐れながら、私の羽はこの通りでして。王都へは暫し時間が掛かりますが?」
ペルシア様は私の発言を聞いて、露骨に面倒くさそうな顔をした。
分かってはいた事だが、やはり気分の良いものではないな。
羽が無くとも唯の小鳥なら観賞にも使えようが、悲しいかな私達は人間だ。
彼女達からすれば、利用価値の薄い私は愛玩動物以下に過ぎないのだろう。
「それなら仕方がない。お前はスズと合流して例の一行の監視に戻れ」
「了解いたしました」
「今回の件でお前への警戒も薄れているだろう。スズと協力して上手くやりなさい」
幸いとばかりにペルシア様はそう言った。
簡単に言ってくれる。
しかし命令とあれば従わない訳にはいかない。
私は背筋を伸ばして彼女の命令に答えた。
その時、私の脳裏に泣きそうな顔で私を心配する少年の顔が浮かんだ。
「成程。今なら君の気持ちが良く分かる気がするよスズ」
自身の姿を映す様になった鏡を見て、私はそう呟いた。




