感謝と慰めの
スズside
ソーラからの連絡を受けて、私達は現場へと急行した。
だけど、辿り着いたときには既に事が終わっているみたいだった。
現場に居たのは、拘束された三人の男達とボロボロのサニャを介抱している二人だった。
「やれやれ……情けない所を見せたね。改めてすまなかったよ」
宿のベッドで体だけ起こしながら、サニャは普段通りにそう語った
私達が辿り着いた時は、涙交じりにセンリンに縋り付いていたのが嘘のようだ。
しかし、こうして見ると身体的な傷は打撲が殆どで、大事には至らないようで良かった。
一応は今の任務の相棒って訳だし、命に別状はないのは安心した。
だけど――
「見ての通り、翼の方はダメだったよ。まぁ、仕方ないかな」
そう言って彼女は何でもなさそうに笑った。
思わず彼女の背に目が移る。
本来背中についてあるはずの両翼が、左方にしか存在していなかった。
翼人の服には、羽を出すための穴が存在する。
今は見えないが、そこから内側の包帯が見えて痛々しく感じたのを思い出す。
「所で、あの連中はどちら様な訳?」
「さぁ? と言いたいけれど、助けられた身だしね」
サニャは肩を竦める。
彼女を襲った連中は、恐らく各地で魔導士を襲っている連中の仲間であるらしい。
「恐らく、らしい。ずいぶんと曖昧な表現だこと」
「直接聞いた訳ではないからね。詳しい事は騎士団が聞き出すさ」
「それまで待てと?」
「どうしても聞きたいならね。でも君達がそこまで知りたい情報でもないだろう?」
サニャの言葉に牛女が不愉快そうに舌打ちをする。
しかし相変わらず被害者に対して、随分と不躾な質問だ。
最近は結構マシになってきたと思ってたけど、コイツ実は唯の人見知りよね。
サニャは一連の事件の関係者から手に入れた情報を元に、ここへ来たという話だ。
その結果が罠だった訳で、まぁ常識的に考えれば仲間と考えるのが妥当だろう。
彼女は暈していたけれど、恐らく情報源は私達が捕まえた死霊使い。
現在騎士団に拘束されている奴が、外部の仲間と罠を張れる。
つまり騎士団内部、もしくはそれに近しい場所に仲間が潜伏している可能性が高い。
いよいよもって、王族様の内部闘争の線が強くなってきた。
私は内心で溜息を吐いた。
別に兄妹感で背比べするのは自由だけど、あまり周りを巻き込まないで欲しいものよね。
王族に仕えてる以上、そのお零れで生きてる様な物だし仕方が無いんだけど。
色々待遇が良いけれど、こういう被害に真先に合うのが困り物ね。
ふとサニャの顔を見る。
赤くて綺麗な前髪が右目を覆っている。
元々彼女は王都周辺を守る第一騎士団の人間だ。
生まれも良く、腕もたつ、将来有望な人間だったらしい。
だけど彼女は任務で片目を失った。
それが原因で彼女は騎士団から身を離すことになった。
騎士団が追い出したのか、彼女から退いたのかは知らないがそう言う話だ。
そこにペルシア様が目を付けた。
私設騎士団故、それなりの身分と武功を持つ人間を集める事に苦心していたペルシア様。
そして片目を失い、行き場を失っていたサニャ。
二人の利害が一致したのだ。
「丁度いい機会さ。休暇願でも出して、ゆっくり休むのもいいかもね」
心配するソーラに何でもなさそうに彼女はそう返す。
必死に繕ってはいるけれど、内心は穏やかではない筈だ。
片目を失い第一騎士団を退いて、ペルシア様に拾われた。
そして今度はそこで、種族の要ともいえる翼を失ったのだから。
勝手な話だが、多くの人は翼人に“空を飛べる事”に存在価値を見出している。
事故など翼を無くした彼らが路頭に迷うというのは珍しくない。
勿論ペルシア様に関してもそれは例外ではないだろう。
サニャは騎士団の中でも剣の腕はかなり上の方だ。
だけど、片目と片翼を失った翼人の剣士をそれでも重用するかは分からない。
先ほどから、サニャの傍を付いて離れない小さい体が頭を落とした。
自身がもう少し速く助けに入れば、こんなことにならなかった。
彼女が治療を受けている間も、ずっと悔やんでいるみたいだ。
そんな様子に気付いたのか、サニャは下がる頭にそっと手を乗せた。
「君が責任を感じる必要はないよ。私が未熟で、身の程を弁えなかった結果さ」
「でも……、やっぱり僕が」
「センリンから聞いたけど、本当は全部彼女が片づけるつもりだったんだろう?」
そう、センリンの話では背後に回った彼女が全員仕留める手筈だったらしい。
コイツの役目は通路を魔法で塞いで逃げないように注意する事だけ。
だけどコイツは我慢できずに飛び出した。
サニャが暴行を受ける姿をこれ以上見て居られなかったから。
「君が当初の予定道理に動いてたら、私は両翼を失っていたよ。いや、それ以上もあり得た」
そういってサニャは顔を寄せるとほっぺたに唇を寄せた。
「! ちょっ……え、何!?」
「助けられた女性が男に返す礼といえば、キスと相場が決まっているのさ」
顔を真っ赤にして驚く少年にサニャは少し楽しそうに笑った。
そして小さい体を抱きしめる。
「助けてくれてありがとう。とても格好良かったよ」
彼女の言葉にアイツは無言で抱きしめて返していた。
「ッタク! 助けた側が慰められてちゃセワないわねホント!」
なんだか面白くない気分で悪態を吐く。
その隣でセンリンが楽しそうに私を笑うのだった。




