殺人事件と土人形3
休憩の後、山の中を歩き出す。
正直言うと体は重いし、眠りたいくらいだ。
だけど、疲れた体に鞭打って必死に足を動かした。
少し行った所でソーラが急に後ろを振り向いた。
彼女は少し離れた所に鼠を放って様子を伺ってくれている。
後方から騎士団でもやって来たのだろうか?
しかしソーラは首を横に振る。
「速い、来る、誰か」
彼女の発言と共に、皆が身構える。
そしてそれと同時に、人影が飛び出してきた。
「おぉっと! なんだいあんたら?」
飛び出してきたのは一人の女性だった。
活発そうな印象を漂わせ、金と黒の斑模様の獣耳は猛獣を思わせる。
「それはこっちの台詞よ、どちら様かしら」
初対面でも相変わらずなシスターの物言いにも動じず、豹柄の女は僕逹を見回した。
「へぇ、あんたら通行で規制かかってんのは知ってんだろ? 訳ありかい」
彼女の言葉にギクリとする。
この世界では珍しい耳無に、シスターにメイド、それに混じった拳法着を来た長身の女。
そりゃあパッと見て、怪しい集団だと思うだろう。
「一人でこそこそと移動してるお前に言われたくないわ」
「ハハ、そりゃあそうだね」
女は豪快に笑う。
すると、フッと僕に目線を合わせた。
僕の見目が珍しいんだろうか、上から下まで興味深そうに観察される。
少し居心地の悪さを感じた時、急に襟を引かれ後ろに下がらされた。
「ソーラ?」
彼女は僕を庇うように前に立ち、女を睨み付けていた。
その様子に女は「へぇ?」と興味深そうに笑う。
先程とは違い、陰を含んだ嫌らしい笑みだ。
「あんた……もしかして気付いてる……いや知ってるのかい?」
ソーラは引かず彼女を睨む。
ほんの数秒の事だけど、それが物凄く長い事に感じた。
「取り合えず行きませんか? お互い訳ありなのでしょう」
その間にセンリンが割ってはいる。
女はソーラから視線を外すと「あぁそうだね」と口を開いた。
「確かに、モタついて騎士団の奴等に見付かるのは面白くないね」
「でも」と女は言葉を続ける。
「ここでアタイを見られたのを、放置していくのも面白くないんだよ、な!!」
そう言うと女は勢い良く左腕を払った。
その腕は前にいたソーラの頬を叩いて大きく弾き飛ばした。
女はまだ宙にいるソーラに続けて襲いかかろうとした。
けどそれは叶わなかった。
僕が咄嗟に彼女の目の前に、魔法で障壁を張ったからだ。
透明の壁に阻まれ、女は足を止める。
「お前!」
すかさずシスターが殴りかかった。
だけど女は素早い動きで横へと跳んで避ける。
シスターの拳は壁に激突すると、まるで硝子の様にバラバラに粉砕した。
豹柄の女が攻撃をかわし、地面へと着地するその寸前。
センリンの足刀が脇腹に突き刺さった。
女はそのまま大きく吹き飛ばされ、斜面にそって転がっていく。
僕は地面に伏したソーラに駆け寄る。
彼女は起き上がると「大丈夫」と短く答えた。
真白な肌が赤を帯びて痛々しく見える。
「くそっ! あいつ!」
僕は怒りを胸に女を睨んだ。
斜面を大きく転がった女は、咳き込みながらよろよろと立ち上がる。
失敗した、匚の様に障壁を展開して逃げ道を塞いでおくべきだった。
自分の判断の鈍さに歯噛みする。
「げほっ! なるほど、やるじゃないのさ」
女は脇腹を手で押さえながら不適に笑う。
すると胸の間から何かを取り出すと地面へと放りなげた。
地面に落ちた何かは、途端に周りの地面を取り込み、ドンドン大きくなっていく。
ついには五メートルには届こうかと言う巨大な土人形が出来上がった。
「悪いけど、あんた等にはこいつと遊んで陽動になって貰うよ」
そう言い残し、女は凄い速さで駆けて行ってしまう。
目前には巨大な土人形。
それは僕達を見下ろすと、大きな腕を降り下ろした。




