殺人事件と土人形2
当然センリンの案は却下された。
僕達は門を迂回し、山を登って強引に通行する事にした。
「あぅ、良い案だと思ったのですけど」
「顔も所在も分からない犯人を探すなんて、良い悪い以前の話よ」
シスターに切って捨てられ、センリンは肩を落とす。
「騎士団の方でも犯人は把握していないの?」
ソーラに訊ねると、静かに頷いた。
犯人の顔も分からず、どうやって捕まえるつもりなんだろう。
通る人間に正直に聞く訳でもないだろうし。
「まぁ、現場で残った臭いとかで把握するんじゃないかしらね」
そんな僕の疑問にシスターが答えた。
臭いって、体臭の事だろうか?
彼女達は嗅覚も凄いんだろうけど、そんなので個人を把握できるものだろうか。
「分かる、簡単」
「流石に会う人間全て、とまではいかないけどね」
覚えようと意識さえすれば、個人の特定は容易らしい。
なので、住民に臭いを覚えて貰い協力を仰ぐ事もあるとか。
「でも空飛べる人なんかはどうするの?」
「翼持なんか、それこそ臭いが特徴的だし、分かった時点で他の対策もしてるでしょうね」
そもそも、翼人にも空を飛ぶ為の決め事があったりするらしい。
僕とセンリンは関心したように声を上げた。
翼人じゃないので詳しくは知らないと、シスターは話を打ち切った。
何というか、世界も違えば捜査もいろいろ変わるものなんだな。
暫く山道を登り、僕の呼吸は随分と荒く乱れていた。
全く整備されてない山道を歩くのは、流石に堪える。
でも他の三人は涼しい顔をしていた。
こういう時、種族間における体力差が如実に感じられる。
へばってる僕を見てソーラが心配そうに肩を支えてくれた。
「ありがとう。でも、平気だよ」
「良くない、禁物、無理」
「おんぶしましょうか?」
「本当体力無いわね、あんた」
それぞれに、それぞれな声をかけられ僕は必死で足に力を込める。
「大丈夫さ、自分で言ったんだから」
「そっ、なら頑張りなさい」
シスターは小さく微笑むと先に歩いていく。
もしかしたら、違反者を見つける為に騎士団が巡回している可能性だってある。
だからあまり時間をかけるのは得策とは言えない。
僕の軟弱さで皆を危険にさらすのは御免だ。
僕は必死にシスターの背中を追った。
暫く登った所でシスターが立ち止まった。
「少し休みましょう」
「僕、まだ歩けるよ」
少しムキになって詰め寄ろうとする僕をソーラが引寄せて胸に納めた。
柔らかい胸部に包まれ、疲れていた僕の体は自然とそれを受け入れてしまう。
「違う、伺う、様子」
動かなくなった僕の頭を撫でながら、ソーラは優しい声でそう言った。
「鉢合わせる可能性もあるし、上からざっくり見渡すのよ」
シスターが合図をすると、センリンは大きく跳躍して木上へ登った。
ソーラは魔法で使い魔を作ると、山の中へと放つ。
僕も何か手伝いたくて立ち上がろうとする。
だけどソーラが僕を抱き寄せてそれを制した。
後頭部に当たる柔らかな感触に気持ちが安らいでいく。
「あんたは少しでも休んでなさい」
そう言うとシスターは木に寄りかかって目を閉じた。
もしかしたら、僕が気兼ねしないように気を使ってるのかもしれない。
そんな彼女の様子を見て僕は心底情けない気持ちになる。
どうしようもなく幼い自分が悔しい。
だからせめて、いざという時に動けるようにしよう。
少しでも足を引っ張らないように。
そう思い、僕は背後から微かに漂う甘い香りに身を委ねた。




