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第三騎士団4

サニャside

「やれやれ」


 私は肩を竦めた。

 検体一号の機嫌を損ねて、部屋から追い出されたからだ。

 別に従う必要も彼にそんな力も無いのだが、これからの事を考え退散したのだ。

 見かけによらず結構根に持つ質らしい。


「まぁ、友好的な関係はソーラに任せるかな」

「仲良し、私、任せる」


 少し後ろを歩く彼女に話しかけると、自慢気に胸を逸らした。

 私と違い、彼とはそれなりに友好的な関係を築けているようだ。

 といっても、私だって別に彼を怒らせたい訳ではないんだけど。

 どうにも最初の印象が良くなかったらしい。

 言葉が不得手なソーラを補助する筈だったんだけど、これじゃまるで反対だ。


 そんな風に話していると、反対側から誰かが歩いてくるのが見えた。


「やぁスズじゃないか」

「……サニャ」


 私の呼びかけで存在に気付いたのか、顔を上げて私の名を呼ぶ。

 最近の彼女はどうにも沈みがちだ。

 今の様に歩き方に生気が感じられないし、ボーっとしていることも多い。


「調子は良くなさそうだが、大丈夫かい?」

「別に、ダイジョーブ」


 鬱陶しそうに返答すると、私達を通り過ぎていく。

 ソーラと顔を見合わせて肩を竦めると、私達も歩みを進める。

 だがその直後、背後からスズに話しかけられた。


「ん? なんだい」

「えっ、イヤ、その……」


 振り向いて訊ねるが、スズは視線を彷徨わせて言いよどむ。

 しかし、意を決したように口を開いた。


「その……アイツどうしてる?」

「あいつというのは?」

「と、トボケないでよ! 今アンタ等がメンドー見てる奴よ」

「あぁ、検体一号の事か」

「ケンタ……ッ! そうよ! ソレよ」


 一瞬顔を真赤にしたが、何とか言葉を飲み込み先を促す。

 予想通りの質問ではあるが、さてどうしたものかな?

 私は右目を隠した前髪を指先で弄りながら思案する。


「それを聞いてどうするのかな?」

「ベツに、ただアイツなよっちいから、ビョーキとかしてないかなーって」

「そんなに私達は信用ないかな?」

「そ、ソーイウわけじゃないけど。ホ、ホラ! なんかあったらケンキューに支障が出るしさ」


 慌てて取り繕うが、彼の様子が気になって仕方がないようだ。


「シュガー様も、そのワタシ達よりもヒンジャクだって言ってたし」

「確かにその様だけど。今の所、体に支障はないよ」

「でも、ナンカあってからじゃ遅いし。な、何だったらワタシが世話役変わってやっても」

「それは結構」


 ピシャリと言葉を切って捨てる。

 それにスズは若干怯むが、尚も食い下がってくる。


「で、でも、ワタシのがアイツの扱いは馴れてる思うし」

「それは、君や私が決める事では無い。ペルシア様の判断だ」

「ソレは、そーだけど」

「検体もあの件が堪えたみたいだしね。もう君の事は顔も見たく無いと言っていたよ」


 私の言葉を聞いてスズは絶望的な顔をした。

 やれやれ、そんな顔をされると心が痛むが悪く思わないでくれ。


「そ、そう……ワカッタ。じゃあ、ヨロシク」


 そう言うとスズは今度こそ、話を打ち切り歩いて行った。

 心なしかさっきよりも歩き方に力が感じられなく見える。


「いじめっこ」


 ソーラが私を見て咎めるように言った。


「そう言わないでおくれ、私だって心苦しいんだよ」


 実際彼の世話をスズに任せる、という話も出ていた。

 しかし短い間とはいえ、窮地を共に切り抜けたとすれば、妙な情が生まれてもおかしくない。

 事実彼も、また彼女も、妙に互いを気にしていた。

 スズが彼を逃がす手引きをするとは考えたくないが、結果としては正しい判断に思える。


 しかし、嘘とはいえスズには少々気の毒な事をした。

 別際の顔を思い出すと、なんとも味の悪い気分になる。


 一応、彼にもスズの事を聞かれる度に似たような対応はしている。

 だが彼女に比べると効果は薄いようだ。

 その度に彼の心証を害して、私が嫌われているだけな気がする。


「やれやれ、狡いもんだね」


 彼を騙してここまで連れてきたのは、一応スズなのにね。

 一方的に私が悪者扱いだなんて、不公平な気がするよ。

 

「負け惜しみ?」

「そうだね。子供の心を掴むのは難しい。君の様に見目から入るべきかな?」

「良くない、八つ当たり」

「おっと! 失礼」


 しかし実際彼の扱いは、屋敷内でも微妙に持て余しているのが現状だ。

 本来はラルがもっと多くの検体を用意する筈だったのだろう。

 だが、一人納品するだけで彼は行方知れずとなってしまった。

 次があるかも分らぬ以上、貴重な検体は慎重に扱わなければならないのだから。


 詳しくは知らされていないが、予定ではどうするつもりだったのだろう。

 個体ごとの差異なども含めて研究するのだろうが、まさか解剖でもするつもりか。

 いくら他世界と言えど、同じ言葉を喋る姿の近しい人間にそこまでするものか?

 いや、既にやってる事も誘拐に等しいのだ、ペルシア様ならやるかもしれない。


 ふと背筋が凍る思いがする。

 最近見慣れたあの幼い顔が、血に塗れるのは見たくないものだ。


「……私も人の事は言えないか」


 私の発言にソーラは首を傾げる。

 何でもないと嘯き、私は歩みを進めた。 

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