表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/117

第三騎士団3

 サニャが言った通り、僕は魔法の研究に協力させられた。

「協力」と言うと聞こえ良いが、実際は実験鼠みたいなものだった。

 僕の体をペルシアお抱えの魔法使い達が、興味深く観察するのだ。

 体液をとらされたりもした。


 僕に魔法の実演もさせたいようだけど、流石にまだ警戒しているようだ。

 封魔の腕輪はなかなか外してはくれなかった。


 それ以外は部屋で軟禁状態。

 屋敷にきてからそんな生活が続いていた。




「持ってきた、本、頼まれた」


 ドアをノックしたのち、ソーラが部屋へと入ってきた。

 彼女の手にはいくつかの分厚い本が重ねられている。

 小柄に見えるが、やはりそこは獣人なんだと思う。

 重そうな本の束を軽々と片手で支えている。


「ありがとう」


 僕はソーラに礼を言うと、机に置かれた本を一冊手に取った。

 内容は歴史書だ。


 この世界の歴史を追っていけば、元の世界との繋がりが何か見えて来ると思ったからだ。

 捕まった初日に頼んでいたんだけど、許可が下りるのに時間がかかったみたいだ。


「偉い、勉強する」

「そんなんじゃないよ」


 学校で読む歴史の教科書に比べると、恐ろしいほどに読みにくい。

 だけど、帰る為の手掛かりを得る為だ、目を凝らして文字の海を眺めて行く。



 結論としてこの世界はある時期までは、僕の世界とほぼ同じ歴史を辿っている事が分かった。

 そして、それが分かれるきっかけとなったのは魔法の発見だ。


 過去、人と獣人は互いに協力関係を結び過ごしていた。


 だけど今、僕の世界には獣人はいない。

 ある時期をきっかけに人間に駆逐されだした。

 そう、魔法を見つけたからだ。


 魔法は当時、人間にしか扱えないものだったらしい。

 そんな便利な技術を得た事で、人間は獣人の力を必要としなくなっていったのだ。

 同時に彼等の強靭な力を恐れ、魔法で排除し始めた。


 しかしこちらの世界は、人が魔法を見つけるよりも早く獣人が動き始めたようだ。

 圧倒的な筋力の差により、魔法を持たない人間はあっという間に彼等に支配されたという。

 昔の獣人は今よりも獣の要素を色濃く残し、力もずっと強かったというのもあるだろう。

 そして長年をかけ、人と獣人が交合し今の姿になったとされている。


 つまりここは、獣人が人間を支配した僕の世界とは全く逆の歴史を辿ったと言う事になる。


 奴隷同然の人間と獣人の血が交合する事となったのは理由もわからず、正直信じがたい。

 だけど、その結果にできた種を目にしてる以上、信じるしかないんだろう。



 僕は本を閉じて溜息を吐く。

 ある程度予想はしていた。

 だけど事実として突き付けられると、やはり少なからずショックに感じる。


「大丈夫? 疲れた?」


 ソーラが心配そうに覗込む。

 気付けば机にお茶が入ったカップが置かれていた。

 恐らく彼女が入れてくれたのだろう。


 僕は空元気を見せながら、お茶に口を付けた。

 少し温くなっていたけれど、疲れて渇いた口内を満たすそれは、とても美味しく感じられる。

 そんな折り、ドアをノックして誰かが部屋へと入ってきた。


「やぁ、ご機嫌はいかがかな」

「丁度悪くなった所だよ」


 露骨に顔を歪ませる僕を見て、サニャは肩を大袈裟に竦めた。


「相も変わらず手厳しいね」

「別に、お世話役なんてソーラだけで良いのに」


 実際監視だけなら、彼女だけで十分だろう。

 小さいとはいえ獣人だ。

 魔法の使えない僕なんて簡単に組伏せる事が出来るのだから。


「冷たいね。そこに積んである物の申請は、私がやっとの思いで通して貰ったんだけどね」


 机の上にある本を指して彼女は得意そうに言う。

 確かに、ただの実験鼠に過ぎない僕に破格の待遇がなされているのは彼女のお陰なのだろう。

 ソーラが入れてくれたお茶だってサニャが掛け合ってくれたからに違いない。

 嗜好品のお茶なんて、この世界に来てからはここで飲んだのが初めてだ。


 そう言う意味では、僕は彼女に感謝するべきなんだと思う。

 だけど最初の印象が悪かったせいで、どうにも強く当たってしまう。

 そんな意地を張って顔を背ける僕の額を、横に居たソーラが指で小突いた。


「良くない、喧嘩、仲直り」

「別に最初から仲良くなんか……」

「駄目」


 優しい口調なのに何処か有無を言わせない何かがあった。

 僕は思わず口ごもる。

 赤い瞳が僕をジッと見つめていた。


「わ、悪かったよ。その、本……ありがとう」


 根負けして僕はサニャにそう言った。

 彼女は少し驚いた様な顔をしたけど、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。


「そう言ってもらえると頑張った甲斐があるね。ご褒美にキスの一つでも欲しい物だけど」

「す、するわけないだろ!」

「アッハハハ! 冗談だよ!」


 クソ! 馬鹿にして!

 やっぱりコイツは苦手だ。

 だけど隣でソーラは満足そうにニコニコしていた。


 ふと彼女を見てまた疑問が生まれる。

 こんな小さな彼女でさえ、僕の世界の人間より遥かに強いんだ。

 彼女達よりも凄いとされる昔の獣人達。

 そんな彼等を、魔法を持っただけで本当に駆逐できたのだろうか。


 疑問に思った所で出来たのだから今があるんだろう。

 だけど暫くその疑問がしこりとして残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ