屍肉喰らい4
王都に着くと、思わず感嘆の声が出た。
やはり今までの町に比べると、大きく人も圧倒的に多い。
「それで、お前はここでお別れ?」
そんな僕を横にシスターがスズさんに訊ねた。
そうか、スズさんは元々ここに用事があるから一緒に来てたんだ。
となると、ここでさよならなんだろうか。
そう思うとなんだか寂しい気持ちが去来する。
「マダ時間まであるから、もう暫くはイッショにいるわ」
「ふふーん。なんだかんだで、スズも寂しいのでしょう」
「あぁウットーしい! くっつくな!」
じゃれつくセンリンに悪態を吐く。
そんな二人を見て「やれやれ」と溢し、シスターは歩き出した。
「なかなか上手くはいかないね」
「そうね」
あれから王都を周り、ダイアーの情報を集めていた。
だけど、彼に関する情報は全くと言っていいほど手に入らなかった。
シスターの顔を見上げるが、いつものように無表情だ。
最初からあまり期待はしていなかったのかもしれない。
「そういえば、スズの用事は良いのですか?」
センリンが思い出してそう訊ねる。
確かにあれから結構な時間がたっていた。
スズさんはふと空を見上げる。
「ソーネ。そろそろかしら」
そう小さく呟いた。
すると。
「最後にチョッと付き合ってくれない?」
僕達を見てそう言った。
「もちろん」と空かさず答えてシスターを見る。
彼女は溜息をついて言った。
「ま、いいんじゃない?」
王宮の見える大きな広場。
そこに一人の女性が立っていた。
彼女は姿勢を伸ばしてスズさんを出迎えた。
「紹介するワ。サニャよ、ジョーシみたいなものね」
サニャと呼ばれたのは、凛々しい女性であった。
赤毛の短髪ながらも、前髪が右目を隠すほど伸びている。
獣耳はなく、背中には鳥の様な黒い羽が生えていた。
「サニャだ。どうやら彼女が世話になったようだ」
サニャさんは、背を伸ばし僕達に挨拶をする。
別段大きい訳ではないけれど、力強い声色に少しビックリしてしまう。
センリンは両手を合わせ頭を下げて返す。
スズさんが付き合って欲しいと言うのは、彼女を紹介したかったのかな?
意図が分からないけど、僕もおずおずと挨拶を返す。
するとサニャさんは感心した様に僕の前にやって来た。
「ふむ。君か、凄い魔法を使うようだね。彼女から話を聞いているよ」
そう言って手を差し出すサニャさん。
初めて会った人に大袈裟に褒められるのは、ちょっと気恥ずかしくなる。
そう思いながらも、僕は彼女の手を取り握手を交わす。
ガシャン
その時、僕の腕に何かが嵌められた。
なんだか見覚えがある。
そうだ、これは盗賊達も使っていた魔法を封じる道具だ。
でもなんでサニャさんが?
そう思った瞬間、サニャさんは腕を引き自身の腕に僕の体を納めた。
「お前!」
それを見てシスターとセンリンは警戒を強める。
しかし、サニャさんはその様子を不敵に笑う。
「君達の報告も受けているよ。とても強いそうだね」
彼女がそう言った途端、シスター達の背後、その物陰から四人飛び出した。
四人は、一斉に二人へ襲いかかる。
だけどシスター達も、直ぐに迎撃体制に入った。
しかしその瞬間、周囲に聞き慣れたベルの音が鳴り響いた。
それを合図に二人は後ろの四人ではなく、前方へ意識が向いてしまう。
その隙に、二人は簡単に組伏せられてしまった。
「チッ! お前どういうつもり!」
シスターは地面に押さえ付けられながらも、憎々しげにスズさんを睨み付けた。
今のは間違いない、彼女の魔法だ。
しかしスズさんは無言で地面を見つめ、視線を合わせようとしない。
「ご苦労。道中問題はあったようだが、彼を引渡す任務は達成だ」
現在の状況を眺めると、サニャさんは隣のスズさんへそう語った。
「そんな……嘘だよねスズさん」
僕は横にいる彼女にそう訊ねる。
信じられなかった。
だってあんなに、僕達を助けてくれたのに。
僕か盗賊に捕まった時、あんなに心配してくれたのに。
「嘘だよねスズさん!」
「嘘ではないさ。君を王都に連れてくる。それが彼女の任務だ」
うるさいうるさいお前になんか聞いてない!
でも僕が何度名前を呼んでも、スズさんが僕を見ることはなかった。
「ウルサイわね」
何度目の呼びかけだっただろう。
僕の声を打ち消すように、スズさんがそう呟いた。
「そうよ、最初からアンタを捕まえて、ココに連れてくるのがワタシの用事。だからダイアーがココに居たなんてウソまでついたんじゃない! ホントに近くに居たときはアセッたけどその後もノコノコついてきてくれて助かったわよアンタのオモリもイヤになってきた所だしシゴトが終わってセーセーしたわよ!」
スズさんは一気にそう捲し立てた。
一度も此方を見ず、下を向いたまま。
彼女の言葉に僕は頭が真白になった。
涙が溢れてただ嗚咽だけが口から零れた。
そのまま僕は連行された。
どこをどうやってどう連れ去られたのかも覚えてない。
ただただ、自分の無力さが情けなくて恨めしかった。




