焼き鳥
いくら睨み付けたところで羅刹は止まらない。
どころか威圧されてこっちが
後ずさっている。しかし、もう背中には子供達がいる
……くっ!男共はまだか!?……本当に役に立たないんだから!
……さくらときぃを乗せた馬形はまだ遠いのがわかる……、もう、とても間に合わない…………もはや時間稼ぎすらできない……。
今すぐ封印するしか……子供達まで封印するしか無いのか…………例え刺し違えてでも。
それが、今できる最善だった。
最善で、最悪だ。
ギッと歯を食い縛り覚悟をきめる。
その時、背後に倒れる華子の姿を、羅刹は見た。
悪鬼の怒気を浴びてしまった双子は気を失って地面に転がりぴくりとも動かない。
「……!?ねぇぇさぁぁん!?何故だ!目を開けてくれぇぇ!!」
……姉さん!?華子が?
「な!何を言って……!?」
「うぉおおお!誰だ!?誰が姉さんをぉぉぉ!!」
……いらっ……
……何を訳のわからない事を!?
羅刹は突然発狂してわめきだした。
まるでゴミのように投げ捨てられた雪那が地面に転がりあえいでいる。
……プチッ……
「アンタだよっ!!」
怒りに任せて咄嗟に地面を蹴っていた。
封印するには千載一遇のチャンスだったのに、せっかく敵に隙ができたというのに、しかし考えるより先に身体が動いてしまったのだ。もう、やるしかない!
「はぁぁぁぁぁあっ!!」
……ガシッ!
敵の顔面めがけて発車された渾身の膝はいともあっさりとその鼻先で受け止められてしまった。
ボールでもキャッチするように右手で左膝をつかまれる。
「くっ!やぁぁぁぁ!」
……ガシッ!
すかさず右足で左顔面を狙うも左手で掴まれてしまう。
「あら、やだ!?……いやん!」
敵の目の前で大股を広げたまま空中で両足を固定されてしまった。
「…………」
「……も、桃太郎ぅ?」
「………………」
「……ダ、ダメよ、私達親子なんだから……」
「……………………」
「な、なんてね!てへ!」
「………………。」
顔をひきつらせながらダメ元で息子を呼んでみるも、やはり反応はない。
このまま地面に叩き付けられるか又は、股を引き裂かれるか、……できれば後者にはなりたくない。
……この美脚に免じて許してくれないだろうか……
あまりにもどうにもならない状態だと、そんな馬鹿なことまで考えてしまう。
幸い羅刹は前者を選んだようだ。より衝撃を高めるためにさらに身体が持ち上げられる。頭上まで振りかぶって一気に叩き付けるつもりだろう。
…………これは死ぬんじゃないかしら?確かにマシな方だけど、幸いと言える?
……うーん、前向きに考えるなら、この美脚に興奮して変な気を起こさないのは不幸中の幸いだわね……。
録に抵抗も出来ずにただの棒切れのように振り上げられる。
しかしその時、衝撃が走る。
持ち上げたことで羅刹の視界が開けた瞬間の事だ。
全力で飛び込んできた雪那の拳が初めて羅刹の顔面を捉えたのだ。
視界と両手をふさがれていた羅刹はこれ以上無いほど隙だらけだった。雪那はボロボロになりながらもありったけの力を振り絞り、拳を叩き込んだ。
「雪那ちゃん!」
羅刹は衝撃で一歩後退するも両手を放さない。雪那は歯を食い縛り連打を見舞う。
顔面にさらに二発、腹に三発
、そして顎を下から打ち上げた。しかしそれが限界だった。血を吐き出してだらりと両腕を垂らした雪那の拳は自分の血で真っ赤だった。
それでも羅刹は少し後退しただけで、脚を放してはくれない。
「雪那ちゃん逃げて!!」
雪那は首を横に振り踏み留まる。
このあとどうなるのかわかってしまう。自分をこん棒がわりにして雪那を殴るつもりだろう。
雪那もそれが分かっていて、受け止めるつもりなのだ。
再び怒りに燃える羅刹の眼が嫌な光を放つ。
「…………よくも……姉さんをぉぉぉぉ!」
身体がちぎれるかと思う程一気に振り上げられて一瞬意識が飛びそうになる。
しかしその瞬間再び衝撃が!
「あぁねぇごぉをぉ放せぇぇっ!!」
…………ズドン!!!
朦朧とする意識のなか、桃色の巨大な槍のようなモノが羅刹の顔面に高速で直撃するのが見えた。直後の浮遊感と共に、両脚が自由を取り戻す。
そして落下が開始する前に、空中で抱き抱えられた。
そのままトンビにでもさらわれたように上昇していく。
「姉御ぉ!!大丈夫!?」
「…………きぃちゃん!?どーやって……?」
馬形はまだ遠いはずなのに……。
「もちろん、飛んできたよ!私、歩けないし。馬じゃ、遅いから…………、あっ!姉御の馬が遅いとかじゃなくてその…………」
……そうか凧か、馬に引かせて翔んだのね……。
ソレはさくらの母、きぃの得意技だった。大きな凧で風を捉えて操り、自由に空を飛ぶことができるのだ。
馬に引かせることで強引に急上昇して目標を定めると急降下して加速、まさに矢のような高速の飛び蹴りを、羅刹の顔面に食らわせたのである。
彼女は片手だけで縄を掴み、二人分の体重を支えてくれていた。その縄の先には大きな
凧が二人を引っ張り上げている。
「いいのよ、きぃちゃん。助かったわ、ありがとう。本当、死ぬかと思ったわよ。」
「いやぁー、礼には及ばないよ、姉御!桃太郎を皆でボコボコに出来るって言うから張り切ってきただけだから。」
「…………そ……そう。」
……そんなこと言ったかしら……。
話しながら縄で凧を操りくるりと周り、元の位置、立ち尽くす雪那のもとに戻る。
「ユキー!!元気ぃー!?」
「ええ!……見ての通りよ!!」
あれから仲の良い姉妹のように過ごしてきた二人は、笑顔を交わす。
もう、立っているのがやっとなのに強がって見せる雪那。その隣にきぃは優しく降ろしてくれた。
そして彼女は一度だけ地面を蹴るとまた上昇していく。
そしてスルスルと縄をよじ登り、凧を身体にくくりつけた。
彼女は鳥のように空を舞い、羅刹が吹っ飛んで行った方へ滑空を始める。
「ユキー!姉御ぉっ!!後はあたしに任せて休んでて!」
そう言って遠ざかるきぃが懐から出したモノを見て、二人の顔色がかわる。
「「かっ……火輪筒!?」」
「ふっふっふ……覚悟しろ桃太郎ぉ!……くたばりやがれー!!!」
「きぃ!?」
「えっ!ちょっと待…………」
いつの間にか先端に火をつけられたソレは桃太郎……、いや羅刹に向けて投げつけられた。
蹴り飛ばされて地面を転がっていた羅刹がゆっくりと身体を起こす。そして飛んできたソレに素早く反応して掴みとる。更に飛んできたもう一本も掴みとる。
「……?」
「…………??…………!!!」
カッーーーーー!!!
どどーーん!!!
次の瞬間、放たれる閃光と爆炎、そして衝撃が羅刹を包み込む。
その余波は慌てて子供達を庇う二人の背をも襲う。
「「うぅ!……ぎぃ……めぇ!…………ぐぅぅぅ!!」」
爆炎で何も見えなくなる中、
きぃは更に追撃を、爆撃を加える。
きぃは火薬の専門家である。火輪筒は自ら調合と実験を繰り返して開発したお手製の爆弾なのだ。
今、ソレを大量にばらまいている。
彼女は最早別人のようだった。爆破の破壊力に酔って周りが見えていない。
「あーっはっはっはー!食らえ桃太郎!!死ね!死ね!死ねぇ!」
どどどどどどーーーん
「「いやぁー!!きぃのばかぁぁーーー!!」」
子供達を抱えて逃げ惑う二人が見えていない。
「とぉどぉめぇだぁ!大火輪ッッ!!…………追伸、新作が出来たので贈ります。」
どこにそれほどしまっていたのか大量の火輪筒を使いきると最後に大きな玉状の爆弾、大火輪を力一杯投げつけ、今度は凧に縛り付けていた太い筒、砲筒を肩に構える。
彼女は爆風さえもたくみに操り、空中でほぼ直立していた。
そして、最後の大爆発が起きる。カッッ!っと一際強い閃光、それから少し遅れて内臓を抉られるような大爆音が響く。
爆風にジリジリと身を焼かれながら、きぃはゆっくりと地面に降りていく。その姿はいっそ天使のように見えただろう。桃色の忍装束を身に纏う彼女が、その眼をギラつかせながら笑みを浮かべ、砲筒を構えていなければ。
そしてその眼は、爆心地で煙を上げながらまたしても立ち上がる羅刹を捉える。
「……!っそぉこなくっちゃぁね!!行っけぇ!新作!荒砲1号!!」
どん!
しゅばばばばばばーーー……
打った本人が後ろに吹き飛ばされる程の反動をもって打ち出される砲弾。更にソレ自体から噴射、急激に勢いを増したソレは羅刹の反応を置き去りにして一気に迫る。
「ーーーっ!!」
ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!




