ちょっと遠くへ(後編)
直樹さん、ケイくん、湊くんと並び、拝殿にて手を合わせております。
合わせて私と阿形も主祭神へと成果を報告し、無事に気を賜りました。
ありがとうございます。
―――
湊くんの持つ地図を確認しながら、困った時にだけケイくんの持つタブレットで場所を確認する。
気に入った場所を見つけては、タブレットで写真を撮って直樹さんへ送る。
直樹さんも気が乗ったのか、社へ向かう道中の写真を送ってくる。
結は都度、気の流れを掴むための練習。
お社の主祭神には申し訳ありませんが、これほど実りのある時間をいただけたこと、感謝いたします。
『気をつけるのじゃぞ。慣れによる雑さ、見落としが危険に繋がる。我らも引き締めねばな。』
いけません、そうですね。
こういった場面で気づかせてくれるあなたを、私もどこかで補助できていければと思っています。
…その、どこか締まりのない顔でなければ、心からそう思えたでしょう。
「えぇー、もう終わり?もう1箇所回れるんじゃない?」
直樹さんが残念がっています。
まだ明るいですが、帰り着く頃には夕日も隠れ出す距離です。
子供たちも残念そうだったのですが、直樹さんに先を越されてしまい、言葉をなくしたようです。
これは直樹さんの作戦ですかね…?
―――
車の中。後部座席に乗った湊くんとケイくんが寄り添って寝ています。
書き込みの増えた地図と、タブレットの写真を見て今日を振り返る子供たちの声に、
控えめに相槌を入れる直樹さん。
気がつけば地図とタブレットはそれぞれの膝に置かれ、寝息が聞こえ出しました。
「…よかったな。」
車内の鏡越しに、直樹さんの優しい目と視線が重なった気がして、私へ声をかけたのかと思いました。
きっと引っ越した先で、ケイくんも寂しい思いをしていたのでしょう。
子の気持ち。親なら、気付けるものなのでしょうね。
行きよりも遥かに優しい運転は、湊くんの祖父母が待つ家へ到着するまで続きました。
―――
あらかじめ宇美さん達に連絡してあったようで、ケイくんは湊くんの家に泊まるようです。
到着した車を英彦さんが迎えてくれました。
「ほーら、湊、景。風呂入って飯食え。宇美ちゃんが飯、準備しとーぞ。」
食い気よりも、まだ眠気が勝っていそうです。
「…唐揚げとウインナーもあったな。」
湊くんはその言葉にくすくすと笑い、ケイくんは劇的に反応しました。
荷物も持たず車から出たケイくんに合わせ、湊くんも車から出ました。
「おじさん、今日はありがとうございました。」
笑顔を返す直樹さんへ礼をして、湊くんはケイくんを追いかけました。
「直樹くん、今日はありがとうな。」
「いえいえ、こちらこそ。湊くんと一緒にいれて、景も本当に楽しそうでした。…よかったです。」
ケイくんの首から下げられた私に聞き取れたのは、ここまででした。
―――
脱衣所には、お守りが重なるように置かれています。
湊くんとケイくんのお守りは色が違い、取り違うことはありません。
「吽形よ、この状態なら、気を渡し合えるのではないか?」
お守り越しの視点に集中しすぎて、隣の狛犬像から聞こえる声で我に帰りました。
真面目ですかあなた…考えもしませんでしたよ。
しかし…
「阿形、依代やお守り越しの世界に集中しすぎて、こちらが疎かになっておりました…」
「吽形、おぬしは変なところで不器用じゃな…それでは境内の異変に気付けぬぞ。」
ぐうの音も出ませんね…
「ミナト、なんか水弾いてない?」
「ケイ君がちゃんと洗ってないんじゃない?」
「洗ってるし!」
駄目です阿形、お守り側に気を取られます…
―――
「ケイくん、唐揚げばっかり食べすぎ」
「ミナトも食べればいいじゃん」
「ゆっくり食べたいんだよ」
「あっはっは、まだ台所にあるから」
「宇美ちゃん、お茶…おぉ、ありがとう」
「ケイく…あはははは!」
「行儀ん悪かー、もう」
「…ふふっ」
いつもと同じ家で、いつもとは違う空気を、皆が楽しんでいました。
食後は、片付けられたテーブルに地図が広げられ、
テレビにはタブレットが繋げられています。
直樹さんの運転する帰りの車の中で行われた会話が、ここでも繰り広げられました。
宇美さんと英彦さんはお茶を飲みながら、楽しそうにその話や説明に耳を傾けていました。
子供たちの質問にほとんど回答できるあたりは、年季を感じます。
「「すっげー!」」
感嘆の声が出るたびに、満更でもない顔でお茶を啜る姿は、年齢に関係ないものですね。
―――
歯を磨いている二人に、声が届きました。
「二階に布団ひいとるけんねー。ちゃんと寝なんよー。」
「「はーーい!」」
深夜にはまだ遠い時間ですが、宇美さんと英彦さんが寝る時間は、いつも早いです。
私たちは、子供たちの枕元へと置かれました。
「ミナト、明日もみんなで神社いって、みんなであそぼう…」
「うん、みんなで…」
また、明日会いましょう。
おやすみなさい。
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この世界の狛犬
・依代が重なれば、気を分け与えられそう
本作はフィクションです。
作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。
実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。




