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ループ


 ここはケイの部屋。


 部屋の主は頭の後ろで手を組んで、天井を見上げてる。


「なーんかやばくない? 絶対やばいよな?」


 今度は落ち着きなく上半身をくねらせ始めた。

 んー、一応話しかけておくかぁ。“聞いて欲しい”オーラ出てるし。


「……何を気にしてんのか、アタシは何となくは分かるけどさぁ。どしたの急に?」


「急にかなぁ? そうかもなぁ。……んー」


 あれ? アタシ、オーラを見誤った?

 それからしばらく、ケイは同じ体勢で固まっていた。



 いつものように家族との夕食を終えて、ミナトやナギとの通話を終えた後。

 宿題なのか、机の上には教科書やノートが広げられてるけど、手は付けられてない。


 というか、手がつかないっぽい。


 こっち(分け身)の吽形も省エネモード(見守る状態)に入ってるし、何なんだよもう……


「ナギに楓と闇《くらがり》がくっ付いて戦力差が無くなったのはいいんだけどさぁ……いや、うーん、あそこ相性良すぎてズルい気もするけど……」


 口を開けたと思ったら、やっぱその辺の話じゃん。


 二郎討伐では、あのおっとりしたナギが最前線で大活躍。

 子供とは思えない動きと、それをサポートする楓と闇のコンビネーション。アタシも心震えたからな。

 まぁ、でも。


「ケイとミナトのサポートもカッコ良かったよ?」


 境内の阿吽は社と子供たちを守るために依代への接続を完全に断っていた。


 そんな状態でミナトが矢を放ったから、阿形も思わず叫んだんだと思う。

 唯一ミナトについてたお守り(分け身)のおかげで膝をつかずに済んだ感じだった。

 即座に境内の阿形がフォローに入って(分け身に繋がって)、かろうじて二発目を打てたってとこかな。


 それ見てた境内の吽形は大急ぎでこっち(自分の分け身)に繋がりに来てくれたから、ケイの場合は軽口叩けるくらいに余裕ある一撃を放てた。


 ただ。

 ナギの状況に気を取られて、ミナトと連携を取らずに放とうとした二本目の矢。


 “ケイくん、二郎の足を狙ってっ!!”


 そう、ナギを心配しすぎて、二郎(本体)を討とうとしてた。

 アタシが同じ状況でアレを薙ぐ力を持ってたなら、迷わず同じとこ(本体)を狙ったと思う。


 やることが明確になった時、目に力が宿ったケイが一呼吸入れて矢を放ち、二郎の残る足を射抜いた。


「うーっ……」


 あっ、ダメだ。

 ケイもアタシと同じ場面を思い浮かべたのか、今度は頭を抱えて突っ伏しちゃったよ。


『本当に良き連携でしたよ? あの一瞬で分かり合えて、即座に目標を切り替えられたのですから』


「うん、アタシもそー思う。気合い入れ直して放った矢だってカッコ良かったよ」


「そーやってオレを甘やかさないでよ。なんか足りないと思ってるから悩んでんの!」


 お、頭抱えて突っ伏してる割には前向きな姿勢。

 忌憚《きたん》なき意見っての、挙げてみようかな?


「足りないとこ……冷静な判断力かなぁ。あ、アタシには無いよ?」


 突っ込まれる前に言っとく。


『一朝一夕では身につかない部分を挙げましたね……もしかして湊くんを思い浮かべましたか? そうであれば、彼は決断前に一瞬俯瞰して物事を見ている気がします。これはもう性格かと』


「ぬぁーっ……」


 突っ伏した状態から前向くどころか上向いた。

 足りないとこ知りたいって空気だったじゃんよ!


「でもさ。ケイはその一瞬を躊躇わずに踏み出してアタシを包んでくれたよ? ナギの時だってミナトより早く弓を番えてたからナギを怪我させずに済んだ。最高じゃん。アタシはそんなケイが好きだな」


「……」


 何だよ、ケイが動かなくなった。


 ――景〜、早くお風呂入んなさいね〜――


 彩(母親)の遠距離口撃で強制ブレイクタイム突入!


―――


 ケイはうにうに言いながら着替えを持ってお風呂に向かった。

 今日はちょっと寒いし、ゆっくり温まって癒されておいで。


「なぁ吽形。そばにいるとそうでもないのに、遠くにいると大きく見えるのって分かる?」


『……謎かけですか?』


 ちがうし。


 “わかれよ!”って感情を表情に乗せて吽形を睨むと笑顔が返ってきた。

 これずるいよな?


『ふふ、冗談です。ケイくんの心境を言っているのですね? ちなみに、私の場合は阿形の存在がそれに近いですね』


「知ってた」


『ふふふ、でしょうね』


 改めて思い直すと、やっぱ阿吽はデカい気がする。側にいて当たり前になるのって危ないな。


『結。私はあなたや楓に対しても、そんな気持ちを持っておりますよ?』


 おっ、それを早く言えよ。

 今のアタシはその言葉を聞きたかった。

 

 一人だけ離れた場所にいるケイだから、ミナトやナギから距離を埋めるような分かりやすい言葉が欲しいんだろうな。


 ……乙女か? これアタシが思い込んで突っ走ってるだけかもしんない。


―――


 そうこう考えてると、ケイがお風呂から上がって部屋に戻ってきた。


「ふぁ〜。結、吽形! オレはオレで頑張ってるからいいよね? んはははは!」


 何だよオマエっ! 心配してたのに笑顔がうつっただろっ!


『んふふふっ……』

「……っあはははは!」


 アタシら巻き込んで悩ませてたのに、何だよ馬鹿っ!


 いや、それでいいか。一緒に悩んで、最後に笑い飛ばせる馬鹿でいよう!



「……でも、あっちは縁《よすが》が便利すぎて、そこだけズルいと思うんだ……」

「あっ、あいつは便利だよねぇ。アタシ、出会う前から思ってた」


『アレ(縁)は自分の利益にならなければ動きませんよ? 意図せず操れるのは湊くんだけかと……』


「やっぱミナトかぁ……」


 ……振り出しに戻ったんだが?


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