第5話 報告(前編)
===ザイラス===
森の奥深くに、ひっそりと小屋が建っていた。
古びてはいるが、造りはしっかりしている。
長い年月を耐えてきたことをうかがわせる。
その小屋に、この日――八つの影が訪れた。
救世烈団。
世界最強の英雄たち。
彼らを迎えたのは、エルフの男性だった。
若々しい面影を残しながらも、肌には細かな皴が見受けられる。
長命種であるエルフは、死の間際でさえ外見がほとんど変わらない。
それを踏まえれば、かなりの年齢であることがうかがえる。
彼の名はザイラス。
レオンの“育ての親”だ。
「君たちは……」
彼は、突然の訪問に驚いた様子を見せた。
だが、すぐに何かを悟ったように表情を曇らせた。
「レオンは、どうなりました?」
「……申し訳ありません」
アレクは、深く息を吐くように言った。
それが答えだった。それで全てが伝わった。
ザイラスが取り乱すことはなかった。
深く息を吸い、心を落ち着けようと努めながら、静かに言う。
「……どうぞ、中へ」
ザイラスは彼らを招き入れた。
===報告===
応接室には、重苦しい空気が漂っていた。
ランプの小さな明かりだけが、部屋の中をかすかに照らし、影を揺らしている。
ザイラスは、古びた椅子に腰を下ろした。
「皆さんも、適当に座ってください」
そう言われ、アレクだけがザイラスの正面に腰を下ろした。
他の七人は、アレクの後ろに立ったままだ。
「レオンは、どうなりました?」
静かで、それでいて重みのある声だった。
アレクが慎重に言葉を選びながら答える。
「申し訳ありません。力が足りず、レオンはダンジョン探索中に命を落としました」
「……そうですか」
ザイラスは、ゆっくりと両手で顔を覆った。
その肩がわずかに震えている。
「本当に、申し訳ありません」
アレクは深く頭を下げた。
仲間たちもまた、視線を落としていた。
時折、“嗚咽のような声”が漏れ聞こえてくる。
「皆さんにレオンを同行してもらえるよう頼んだのは私です。その時点で、こうなることは、覚悟していました」
「こうならないようにするべきでした」
アレクが即座に応じた。
その声には、微塵の揺らぎもない。
「詳しい話を聞かせてもらえますか?」
「はい。勿論です」
アレクは、あらかじめ用意した“物語”を話し始めた。
「我々は、深層第9区画に行きました。そこで、未知の魔物に遭遇したのです。“ナイフ”のように鋭い爪を持ち、“槌”のように重い一撃を繰り出す魔物でした。さらには、“呪い”のようなものも使っていました」
その言葉に、オルディナが小さく嗚咽を漏らした。
俯きながら、口元を抑え、身体を震わせている。
アレクは話を続けた。
「我々は逃げることも出来ず、防戦一方となりました。その際、レオンが前に出たのです。俺たちを逃がすために、囮になろうとしていました。俺たちは止めようとしましたが、その時には、既にレオンは魔物の攻撃を受けてしまっていました。魔物はレオンの身体を加え、ダンジョンの奥へと向かって走り去りました。残ったのは、これだけでした」
ガロウが机の上に、布で包まれた“何か”を置いた。
アレクは丁寧に布を開くと――レオンの腕が現れた。
「申し訳ありません。最善は尽くしたつもりですが。全ては、我々の力不足です」
ザイラスは、震える指でその腕に触れていた。
冷たく冷え切っている。
命の気配が完全に消えていた。
沈黙がおちだ。
重く、深く、息が詰まるほどの沈黙。
やがて、ザイラスが口を開く。
「遺体は、見つけられませんか?」
「第9区よりも先は、俺たちも到達できていません。おそらく、レオンの遺体はそこにあるかと。回収は難しいと思います」
「貴方たちは、レオンの死を確認したのですか?」
「いえ、ですが、即死であったと考えています。あの状況で生きている可能性は低いかと。彼は回復魔法を使えません。止血をする余裕もないでしょう。即死を免れたとしても、生きている可能性はないと判断します」
ザイラスは深く息を吐いた。
「分かりました。では、いつかあの子を見つけてやってください」
「勿論です。最善を尽くします」
「君たちは、これからどうするんだね?」
「ギルドに行って、今日のことを報告します」
アレクがそう答えると、ザイラスは顔を上げた。
「まだ報告していなかったのか?」
「貴方に最初に伝えるのが筋だと考えました」
「……そうか。ありがとう」
「それでは、俺たちは失礼します。また、後日うかがわせていただきます」
アレクは立ち上がると、他の面々も動き出した。
一人ずつ小屋を出て行き、最後にアレクが扉に手をかけた時――。
「アレク君」
ザイラスが呼び止めた。
「君たちはよくやってくれた。レオンを君たちに同行させてほしいと頼んだのは私だ。君たちには、感謝している。レオンもきっと、誇りに思っていることだろう」
「……勿体ないお言葉です」
その言葉を最後に、アレクも小屋を出た。
扉が閉まり、静寂が訪れた。
残されたザイラスは、椅子に身体を預け、深く息を吐いた。
レオンが死んだ――。
そのことをどうしても受け入れることが出来なかった。
「レオン……。君が死んでしまったら、私はどう生きていけばいい……?」
静まり返った小屋の中、ザイラスはただ一人、そう呟いた。




