表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

子犬のマーチ

【書籍化記念】読んでくださってありがとうございます!

 おっでかけ、おっでかけ!

 いつもの時間より少しだけゆっくり起きたお兄さんが、わたしのお世話と自分の支度を整えて準備万端になっている。これは、絶対、お出かけである。

 まだリードもお散歩バッグも触っていないけど、絶対に絶対にお出かけだ。わたしがお留守番じゃないやつ。昨日、おやつをバッグに入れていたもの。わたし、見ましたよ!

 ソファにいるお兄さんの周りを、反復横跳びも織り交ぜながら走り回ると観念したとばかりにお兄さんはわたしの頭をポンポンした。


「そろそろ行こう」


 やったー! お出かけだー!

 お兄さんお兄さん、今日はどこに行くんですか? お散歩はもう行きましたもんね。大きい公園ですか? それとも一緒に入れるテラスのお店??

 玄関までチャカチャカ音を立てながら、お兄さんを追い越したり戻ったりまとわりつきながら歩いて、リードをして、お兄さんも鞄を持って靴を履いて。

 近くのコンビニまで行くと、白い車からお友達さんが手を振っていた。

 わあ! 車でお出かけですか! やったあやったあ!!


「ムギちゃん、久しぶり~」


 よしよしと頭を撫でてくれたお友達さんは、お兄さんに助手席を示した。

 白い車は、タイヤの周りとか屋根のところに黒いラインが入っていてツートンカラーのようだ。どっしりしたフォルムで、中も広そう。アウトドアとかで活躍しそうなタイプの車で、座ったお兄さんの膝に乗ると窓から外がしっかり見えた。

 すごいすごい。車持ってたんですね。


「引越しは済んだのか?」

「うん、先週末になんとか。いやー、何回やっても面倒だよなあ」


 あら、お友達さんお引越ししたの? 遠くに行っちゃったんだろうか。それは嫌だなあ。もう会えなくなっちゃうの?

 わたしがお兄さんとお友達さんの顔を交互に見ていると、ゆっくり車を走らせたお友達さんが苦笑を浮かべた。


「通勤もちょっと遠くなったけど、ほぼリモートだしまあいいかなと。ムギちゃんには変わらず会いに行くから、俺のこと忘れちゃダメだよ」

「俺は別に構わないが」

「……お前には言ってないの」


 しれっとしたお兄さんに嫌そうな顔をして、信号で停まったのに合わせてわたしの頭をもしゃもしゃするお友達さん。

 車は軽やかに走って、たまに行く大きな公園の方向から途中で進路を変えた。

 どこに行くんだろうと外を眺めていると、しばらくしてわたしも名前を知っているホームセンターの駐車場へと到着した。


「カーテンと、収納ボックスほしいんだよねえ。崇仁はなんだっけ? テーブル?」

「作業用のデスク。ちょうどいいのがあればだが」

「家具屋のほうがいいかもな。まあ、比較は大事ってことで」


 ちょっと都心から離れているからか駐車場がひ広かった。ドッグランのスペースまである!   

 開店時間からそれほど経っていないのに、もう車がたくさん停まっていた。

 店の入り口でカートを取ったお兄さんは、わたしを抱っこして中に下ろしてくれる。ペット用らしく、シートまで準備されていた。わたしはおりこうさんだから、ちゃんとその上にお座りします。


「ムギちゃん、こういうとこ初めてだろ~。他にも犬連れてる人多いなあ」

「まさか、自分がそうなるとは思わなかった」

「確かに! 一緒に買い物できるって新鮮だな」


 ふたりしてしみじみしてる。わたしも犬視点でホームセンターに来ることになるなんて思ってなかったなあ。


「ひとまず、カーテンか。収納系も近くにあるだろう」

「奥のほうかな。ムギちゃん、行こう」


 はーい!

 びゅんびゅん尻尾を振ると、お兄さんがカートを押してくれる。

 なるほどね、引っ越ししたからホームセンターに行きたくて、ホームセンターならわたしも一緒に行けて、大荷物になるから車なのかあ。

 お兄さんは家具が揃っているはずだけど新調するのかな。前のお部屋のときのものをそのまま使ってますもんね。


 カーテンを前に、お友達さんは腕組みして考え込んでいて。お兄さんはカーテンを買わないのにペラペラといろんな生地を触ったり柄を見たりしている。

 やっぱりブラインドかロールスクリーンも考えたほうがいいかなあ、なんてお友達さんが言うと、お兄さんが窓の寸法は? と尋ねてふたりしてあーでもないこーでもないと作戦会議が始まった。

 ブラインドもスクリーンも置いてあったけど種類が少なかったから、結局今日は買わないことにしたみたい。

 隣の列にあった収納ボックスをふたつカートに乗せてから、今度は机が並んでいるところへ。


「デスク、買い替えるの?」

「できれば。急ぎではないが、学生時代から使っているやつだから使い勝手が悪い」

「あー、わかるわ。合わなくなるよなあ。サイズは?」

「奥行きはいらない代わりに、幅が広いものがいい」


 見本のいくつかを比べて、高さ調節ができるとかできないとか、引き出しがどうとか、お兄さんの部屋の写真をスマホで確認しながらまた作戦会議をしていて楽しそうである。

 家具選びって楽しいですよねえ。わくわくする。

 でも結局、決め手に欠けたのかお兄さんもここでの購入は見送りに。

 慎重に決めないとですもんね。お気に入りが見つかるといいですね。

 わたしもわふわふ会議に参加すると、ふたりからなでなでが返ってきた。


「ついでだから、他の店も見る? そのあとで飯食べ――」

「おがあざぁぁぁぁんっ!!」


 お友達さんが最後まで言う前に、小さい子の叫び声が響いてふたりの足とカートが止まる。

 今開いたエレベーターから、女の子が大泣きしながら出てきてみんなで顔を見合わせてしまった。後ろに大人の姿はない。


「ど、どうしたの? はぐれちゃった??」

「上から来たのか?」


 戸惑いながらも膝をつくふたりに、女の子はぼろぼろと涙をこぼした。


「い、いなくなっちゃった……! おかあさんんんっ」


 エレベーターの乗り降りではぐれちゃったのかな??

 大丈夫ですよ! お兄さんもお友達さんも、こう見えてやさしいですよ!!

 わふわふ、くぅんくーん。

 カートの中で立ったり座ったり、くるくる回ったりして女の子に話しかけると、うるうるの目がこっちを見て鳴き声がピタリと止んだ。


「わ、わんちゃん!」


 そうです、犬です! コムギです! こんにちは!

 くんくん、きゅうん。

 カートに近づいてくれたので、びゅんびゅん尻尾を振り回す。


「さわってもいいですか?」

「どうぞ」


 まだ小学校には行っていないほど小さいのに、しっかりお兄さんに聞いてからわたしへ手を伸ばしてくれる。

 カートの隙間から指を舐めると、ふへへと女の子が笑った。上からふたつ、大きめのため息がこぼれていたけど、わたしは気にせずぺろぺろした。


「あ! おかあさん!」

「い、いたっ! よかった……! す、すみません」


 そうこうしていると、階段から息を切らせた女の人が走ってきて、女の子の目が輝いた。ばっと勢いよく走って飛びついた女の子を、その人はしっかり受け止める。

 お母さんだ、すぐ見つかってよかったね。


「本当にありがとうございました……!」


 手をつないでいたけど、エレベーターからおりるときにすり抜けてしまって、他のお客さんに紛れたままドアが閉まってしまったらしい。

 意外と手をつないでいても、相手はお子さんですもんね。わたしのリードみたいに絶対じゃないもんねえ。

 気づいた人がドアを開けてくれていたらよかったけど、きっとうまくいかなかったんだろうなあ。お母さんも大変ですね。女の子も大変だったねえ。

 何度もお礼を言うお母さんに、気にしないでください、大丈夫です、よかったですね、とお兄さんたちのほうが焦ってたくさん言っていた。


「あ、焦った~」

「……大事にならなくてよかった」


 親子の姿が見えなくなると、ふたりはまた大きな息を吐き出した。

 ちょっとのことだけど、びっくりしましたもんね。お疲れ様でした。わふわふ。


「コムギ、えらかったな……」

「本当、ムギちゃんいてくれてよかった……」


 えっへん! 泣き止ませられました!

 ふたり分のなでなでをしてもらってから、なんとオヤツとぬいぐるみまで追加で買ってもらい、わたしはホクホクしてホームセンターをあとにすることになる。

 ひとまず、休憩しに行こう。お友達さんがそう言って、テラス席のあるカフェを目指してまたドライブが始まった。

 まだまだ今日も楽しいことがたくさんありそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
書籍化本当におめでとうございます 連載中から大好きで心が暖かくなる物語をありがとうございます 早速予約しました(⌒‐⌒)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ