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恋する騎士  作者: 桜ありま
第一章 メテルの収穫祭で
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05-Ⅱ

 


 リーヴィは不思議がりながら、差し出される花輪を無意識に手を伸ばし両手で受け取った。




「欲しかったのでしょう? 凄い顔をしてましたよ」

「ありがとう……ござい、ます」


 ス、スゴイ顔って一体どれだけ自分は物欲しそうな顔を……。


 目の前の人物に行動を起こさせるほどなのだから、余程だったんだろう。淡々と語られるだけに、それが身にしみる。

 サルキオス様の方を見れなくて、リーヴィは手渡された、カラムの葉と花で作られた冠を視線を落とした。

 花はよく見ると……普通より色素が薄くアイボリーに近かった。

 そして構造は二連。



「あの、でもっ。

 一番初めに女神の幸運を手にしたのはサルキオス様ですから、これはサルキオス様のものですよっ!」


 リーヴィがサルキオス様に返そうと花輪を差し出したが、相手は手ではなく、感情がこもっていないような、冷たい目を向けるだけだ。


「私は興味がありませんから」


 そう言うだろうとは思ったけれど、リーヴィとしてはそうはいかない。

 この花輪はとても価値のあるものだ。

 ……相手には全く価値のないものだとしても。


「これって、安らぎのお守りでもあるんですよね、やっぱりサルキオス様が持っていないと」


 リーヴィは前に、この祭りで撒かれるカラムの花の意味は「幸運と健康」が主流になっているが、もうひとつ「安らぎ」という意味もあると聞いた事があった。


「何故私が?」

「だって、休日でもお仕事の事を忘れないサルキオス様には、ピッタリです。

 受け取ってください。今日は本当にサルキオス様にはご迷惑ばかりお掛けして。

 そしてサルキオス様がここに連れてきてくれなかったら、こんなすごい物手にいれられませんでしたし……」


 今日は散々、サルキオス様に世話になっている。

 一般市民として接してもらうばかりで心苦しい。


「なにより私からの今日のお礼……といったら駄目ですか?」

「しかし、貴女は欲しかったのでしょう?」


 何故、そんな事を言うのか理解できないというように、サルキオス様は眉を潜めた。


 確かに花冠は欲しかった……けれど。

 リーヴィは少し考えてから、手にある花輪の構造を思い出した。


「だったら、半分にしますから受け取ってもらえますか?」

「?」

「ほら、これちょうど、二連にれんになってますよ」


 崩れないように、そっと花輪を一つから二つに増やす。

 一つでも立派な花輪だ。

 その一つを、サルキオス様に差し出す。


「これで、おあいこですから。遠慮しないで受け取ってください」


 必死でそう言うリーヴィに、サルキオス様はひるんだ表情を初めて見せた。

 微かな変化に、やっぱり押し付けがましかったのかとリーヴィが不安げな顔をすると、ため息が聞こえ少しためらった様に手が伸びてくる。


「わかりました」


 事務的にそう言われたが、サルキオス様の手にしっかりと握られた花輪を見て、リーヴィの顔はにっこりと微笑みに変わる。



「サルキオス様に、メテル様の祝福がありますように」



 リーヴィは、左手を胸に当てて目を伏せる。

 メテル様の祭り。

 そして今日一番の花輪をもってそう言えば、とてもご利益があると思った。

 相手は自分より重要な任務もこなす騎士なのだから。


「……有難うございます」

「いいえ。お礼をいっても足りないのは、私の方ですから」

「先ほどから貴女は、お礼をいっているか謝ってばかりですね」

「え、だってサルキオス様には今日はとてもお世話になりっぱなしでしたから」

「……そうですか?」

「そうですよ!」



 自信満々に、世話になったと主張するリーヴィにサルキオス様は少し困ったように目をそらした。

 リーヴィは生垣ぎりぎりに足を進めて、広場の方を見下ろす……気がつけば、パレードも終了していたらしい。解散の合図のように、ざわざわと人の波がばらけて動き出す。


「こんなにいい場所で、メテル様の神輿が見れるなんて……実はサルキオス様の秘密の場所とかだったんじゃないですか?」 

「いいえ、ただこの建物は私の持ち物というだけです。いつもならヨネスやら……先ほど会った人物ですが、他の騎士の者もよく来るのですが、今日は居なかったようですね」

「そうなんですか……」


 また、ヨネス団長にからかわれたり、他の騎士にあわなくてよかったと思いながらつつ、サルキオス様のさらりと「自分の建物もちもの」発言に軽い衝撃を受けるリーヴィ。

 この場所は中央広場の一等地だ。

 リーヴィが住んでいる田舎とは比べ物にならない程の価値があるだろうと言う事は、世間知らずのリーヴィにも容易に想像がついた。

 本当に、騎士の位とは別に、住む世界が違っている程の身分の差。

 こうやって会話していることが信じられない相手なのだ。


 ――どおりでこんないい場所なのに、誰も来ないんだ。


「今年は……休日だったのですが。やはり落ち着かず、自主的にいつもと同じ巡回ルートを通ってしまっていました。ですから貴女を連れて来るのはどうしようか迷ったのですが」


 サルキオス様が言葉を、切る。


「迷子の件もありますし……私からのお礼のつもりです。結局は貴女の探し人を見つけ出す事もできなかった事ですしね」

「!?」

「ですから、貴女にお礼を言われるようなものではないのですよ」


 ……サルキオス様。


 リーヴィは、今までで一番の罪悪感に苛まれた。

 今まで何度も機会があったのに。

 サルキオス様に「自分は騎士ぶかです」という事を告げなかった所為で、一般市民への破格の対応をされ続けていたのだ。自分は。


 リーヴィは気まずい思いから、サルキオス様の顔が見られない。

 顔は広場の方を向いたまま話し出す。


「あの、サルキオス様が本当にそんな事を感じる事はないんです。だって私、私はっ……」



 ――――騎士ですから。 



 そう、言いかけた口が止まった。


 伏せた目に映る広場の人混み。

 その中に見慣れた、揺れる銀の髪。

 

 フレデリカ!?


「サルキオス様っ。見つけました!!」


 興奮気味に、リーヴィは叫んだ。

 人ごみからちらちらと見える服装は、蒼の騎士団員の制服。

 独特に輝く銀の髪は、間違いないフレデリカだ。



 早く行かなきゃ……。



 でも、このままサルキオス様の前から退出していいものだろうかと、リーヴィがおろおろしていると。 それを察したように、サルキオスは言った。


「私の事はいいですから、早く行きなさい」

「……すみませんっ! では……私っ、これで失礼いたします」


 流れる人ごみは早い。

 見失わないように急がなければ、と。失礼にならないように慌ててリーヴィはお辞儀をする。


 今度こそ本当に、サルキオス様とはお別れだ。


 サルキオス様は花輪を持つ手もそのまま。

 まるで物語で騎士が姫君に忠誠を誓うかの如く、リーヴィに礼をした。


「貴女にも、女神の加護がありますように」

「はいっ」


 笑顔でお礼代わりに反射的に返事をし、駆け出す瞬間。

 リーヴィは急ぐあまり、まぼろしを見たのだと思った。




 顔を上げたサルキオス様が……少しだけ微笑んでいるように見えるなんて。



 

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