23 ポーラからのプレゼント
「いやー、それにしてもアレスは凄いよね! まさかあんなの作っちゃうなんてさ」
「あはは、ティア、嬉しいのはわかったから少し落ち着きなさいよ」
風呂場に俺とポーラの声が響く。興奮してアレスを褒める俺と、それを宥めるポーラという形だ。
あれから、アレスが鉛筆を作ったという素晴らしい知らせを聞いた俺のテンションは上がりっぱなしだった。なんというかもう、踊りだしたいぐらいいい気分だ。
なんだか俺が子供でポーラが大人に見えてしまうようだが、これはあれだ。きっと、大人の男である俺は感情の起伏が緩いから、その分喜んだときの爆発のエネルギーが凄いんだとかそんな感じだろう。そうに違いない。
いやでも、そろそろテンション戻さないとな。一人だけ異様にテンションが高い俺を見て、アレスやハインツさんもちょっと引いていたし。まあハインツさんはともかく、アレスに引かれて嫌われるのだけは嫌なのでそろそろ自重しなくては。
俺は大人の男だからな! きちんと自制心を働かせることができるのだフハハ!
「……ふう。よし、落ち着いたっと。どう? ポーラ」
「あはは……気持ちいいわよ、ありがとう。次はアタシが背中流してあげるわね」
「ん、お願い」
「ティア、いいかい?」
風呂から出た俺が自室に戻り、ベッドの上でうつ伏せに寝転がりながらポーラに買ってもらった本を読んでいるとアレスがやってきた。何の用だろ?
「いいよー」
「それじゃ失礼」
とりあえず許可を出すとアレスが入ってきた。アレスはベッドの上で寝転がりながら足をパタパタさせる俺を見つけると、指で頬を書きながら苦笑する。
「ティア、見えてるよ? 昔は違ったかもしれないけど、今のティアは女の子なんだから気をつけなきゃ」
見せてんのよ。ふふふ、見た目だけなら極上の美少女のパンチラだぞ? 嬉しかろう。中身? 気にするな。
いやあ、アレスは可愛い反応を返してくれるから弄りがいがあるなあ。とても楽しい。ポーラが相手だとこうはいかないもんな。あいつすぐ襲い掛かってくるし。
でも、その点アレスなら安心だ。アレスはどこぞの変態娘と違って面白半分でエッチな悪戯かましてこないからな。どこぞの変態娘と違ってな! ふふふ、ここでポーラに弄られ続けたストレス発散をさせてもらおうじゃないか。
「普段は気をつけてるからだいじょーぶ。アレスになら見られても問題ないしね。それよりも何の用?」
「僕相手にも気をつけてくれると嬉しいんだけどなあ」
ハハハこやつめ。しっかり見ておいて何を言うか。
いや、でもまあ、ちょっとだけ恥ずかしくなってきたし、やっぱここらへんでやめておこう。
足をパタつかせるのをやめ、四つんばいでベッドの端まで這って動く。そうしてベッドの端に腰掛けてアレスにドヤ顔を決めてやる。ドヤった理由は特にない。
「明日の予定なんだけどさ、ポーラが討伐系の依頼をやりたがってるんだけど……ティアはどうする? 一緒に来てもいいし、面倒なら家にいてもらってもかまわないし」
「実績作りとかはもういいの?」
まだトロールとオークしか倒してないんだけど。ドラゴンとかグリフォンとか、あとバシリスクとかそんな感じの大物倒してないんだけどいいのかな。
「うーん。もう目ぼしい依頼は残ってないはずだしなあ。ゴブリン退治とか平原の魔物退治とか小さな依頼しか無いし……それに、もうちょっとすると洞窟にある遺跡調査の護衛依頼が出てきてね? 新しく発見した遺跡を調査する学者を守れって依頼なんだけど、その依頼に土竜が出てくるんだ。そいつをティアに倒してもらおうかなって」
土竜かあ。確か……細長い体を持つ、ドラゴンの一種とされている魔物だったな。日本人的にはもぐらをイメージしちゃうけどけっこう別物だ。
ドラゴンの一種だけあって巨体だし、パワーもその体相応のものを持っている。まあ俺のほうが圧倒的に上だけど。
そして鋭いかぎ爪の一撃は全身鎧ごと人間を引き裂いてしまうほどであり、かなり強力な魔物だ。まあ俺には効かないんだけど。
まあ弱くはないんだけどね! 相手が悪すぎるな!
「名声稼ぎによさそうな相手だね。でも何で知ってるの?」
これも未来情報だろうが、遺跡調査の護衛なんて地味な依頼はアレスには相応しくないしな。まさか依頼を受けて遭遇したなんて事はないだろう。土竜の被害が多くて話題になったとか?
「護衛対象の学者が父さんの知り合いでね」
「なるほど」
把握した。まあコネで頼まれたのなら仕方ないよね。アレスは強くて優しくて気が利くから、指名したがる気持ちはわかる。俺がその学者だったら絶対に指名してるね。間違いない。
……でも、理解はできても、それが納得できるかどうかはまた別の話だ。
アレスにこんなしょぼい依頼をするような愚か者には相応の罰を与えてやらなくてはね。
本来なら即座に殺してるところだけど……ハインツさんの知り合いだからそれはまずいしなあ。
とりあえず、腕と足を一本ずつ貰っておくか? 学者なんだし腕が一本残ってれば問題ないだろ。足を一本残してあげるのはサービスだ。アレスを軽く見た罰にしてはちょっと温いような気もするけど、まあこんなものかな。うん、決定!
「まあ、そういうわけでゴブリン退治とか小さな依頼は別に受けなくてもいいわけだけど……ティアはどうする?」
アレスの言葉に軽く腕組みをして少しだけ考える素振りを取る俺。
まあもう答えは決まっているんだけど、アレスの反応が気になったのでなんとなく。
ついてきて欲しそうな顔をしてくれたら全力で飛びつく所存だったんだけど、悲しい事にアレスの表情には変化なし。社交辞令でもいいから一緒に来て欲しいって言って欲しかったのに。
「アレスは行くの?」
「もちろん行くけど」
「じゃあ行く」
アレスやポーラがいないのに一人で留守番してても暇だしね。
そう思い、アレスの返事に速攻で答える。
「そっか。なら明日は朝食後に騎士団の詰め所に行って、依頼を確認する予定だから」
「わかった」
アレスの話に頷いて答える。
そうだな……せっかくだし新しく買った硬鞭の使い心地を試してみるのもいいかもしれないな。
当たり前だけど、いきなり強敵相手に実戦投入するよりも何回か雑魚相手に使って慣れておいてからのほうがいいし。
「そうそう、ティア。ポーラのことだけどさ……」
「ティアー? いるー?」
アレスがポーラについて何か語ろうとした瞬間、扉がノックされた。
この声はポーラか。噂をすればなんとやらだね。まさか異世界でも共通の法則だとは。
まるで話を聞いていたかのようなタイミングで現れたポーラに、思わずアレスと顔を見合わせて苦笑してしまう。
そうして俺とアレスが笑いあっていると、突然部屋の扉がガチャリと開いてポーラが入ってきた。手にはなにやら、シンプルな包装がされた平べったい長方形の箱を持っている。
……まだ返事してないのに。流石ポーラと言うべきか。
「入るわよー。あら? いるじゃないの。しかもアレスまで。まったく、いるなら返事しなさいよね」
「返事してないのにいきなり部屋に入ってくるのはどうかと思うんだけど」
「アタシとティアの仲だしいいじゃない」
白い目でポーラを見やるが、当の本人はまったく気にした素振りを見せないのが腹立たしい。
ええい、プライバシーの侵害だぞ。
「そんなことより、はい。ティアへプレゼント」
ポーラが俺のほうへと近寄り、持っていた箱を手渡してきた。存外軽いな。
というか買い物のときはずっと一緒にいたはずなのに、いつの間に買ったんだ?
そう俺が疑問に思っているとポーラがネタばらしをしてくれた。
「ま、ここのメイドに頼んで用意してもらっただけなんだけどね。お金はアタシが出したけど」
なるほどね。でも、ポーラからは貰ってばかりな気がするな。なんだか悪い気がする。何かお返しできることないかなあ。
「えっと……いいの? 今日も本を貰ったばかりなのにさ」
「いいのよ、気にしなくて。大人しく受け取りなさい。……でもそうね。なら、アタシから一つお願いしようかしら」
「ポーラ……」
優しく微笑みながらそう言ってくれるポーラに胸の奥がじーんとして、思わず名を呼んでしまう。
そんな俺を見て、ポーラは優しい笑みを浮かべたままゆっくりと頷いた。
「うん、何でも言ってよ。何でも聞くからさ」
「ふふふ、大した事じゃないわよ。ただ……今渡したそれを毎日使ってもらえたらなって。せっかく渡したのに使ってもらえなかったら悲しいしね。いいかしら?」
何を水臭い。ポーラからのプレゼントだ、多少使いにくくても毎日使うに決まっているから安心して欲しい。
それにしても毎日使うってなんだろうな? まあ、何でもいいか。俺に害のあるようなものではないはずだ。
「これを……? うん、わかった。毎日、大切に使わさせてもらうよ!」
俺の返事を聞いて「よかった」と嬉しそうにポーラが微笑む。そしてそんな俺たちを見てアレスも優しい笑みを浮かべる。
「よかったね、ティア。僕からも礼を言わせて貰うよ、ポーラ。ありがとう」
「どういたしまして」
「ねえねえ、開けていいかな?」
「ええ、どうぞ。気に入ってくれるといいんだけど……」
ポーラからのプレゼントを俺が気に入らないわけないじゃないか。たとえ気に入らなかったとしても、全力で気に入ってみせるさ。
そう思いながら箱の包装を丁寧に剥がし、包装紙をベッドの上に置く。わくわくしながら箱を開けると、そこにあったのは――。
「……な、なにこれ」
「うふふ、可愛いでしょ? ティアに似合うと思って」
箱の中から出てきたのは、黒いベビードールだった。
いや、ただのベビードールならいいのだが、生地は薄くて透けてるし、オープンフロントというやつかパンツの部分は丸見えだ。まったく隠されていない。
唯一の救いは、胸元の部分はレースがあしらわれていてお洒落なところだろうか。
最高潮に盛り上がってたテンションが一瞬で急降下した。ベビードールを両手で吊り下げ、笑顔のまま固まってしまう俺。アレスも固まっている。ポーラだけはすっごくイイ笑顔だ。
そうして、まさかの事態に固まって動けない俺に、悪魔の笑みを浮かべたポーラが囁いた。
「『うん、何でも言ってよ。何でも聞くからさ』『毎日、大切に使わさせてもらうよ!』」
「……! ちょっ、えっ、ああっ! うわああああああああ!」
返せ! 俺の感動を返せ! ポーラを信じた俺が馬鹿だった!
「アレスゥ! アレスからも何か言ってやってよ!」
「……ポーラ」
俺の叫びを聞いてアレスがポーラの近くへとすっと動いた。やはり頼れるのはアレスだけだ。
「ナイス」
親指を立ててサムズアップし、それをポーラのほうへと突き出すアレス。ポーラも同じくサムズアップした手を突き出して、二人の右手がぶつかり合う。
死ね。全員死んでしまえ。




