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22 アレスの新商品

「お帰りなさいませ。ティア様、ポーラ様」


「クレイさんただいまー!」


「出迎えありがとね」


 屋敷に戻ると、クレイさんが出迎えてくれた。今は夕方の少し前ぐらいか。アレスの来客とやらはどうなったんだろうな。


「クレイさん、ロバーツ商会の人は来たの?」


「はい、お二人が出かけてからしばらくして来訪されました。今はもうお帰りになられてますが」


 そっか、なら鉢合わせとか気にしなくてよさそうだな。


 そのまま廊下を歩き居間に入ると、ソファーに腰掛けてティーカップ片手に読書しているアレスの姿があった。

 そして、アレスの前にある机の上には何かが収められているらしき紙の箱が三個置いてある。なんだろうな、あれ。


「おかえり、ティア。どう? 町は楽しかった?」


「ただいま。うん、楽しかったよ!」


 にこやかに微笑みながら出迎えの挨拶をしてくれるアレスに、こちらも笑顔で返す。

 まだちょっとしか歩いてないけど、活気があって、明るくて、いい町だった。流石はアレスの住む町だな。


「ほら、予備の武器としてこれ買ったんだ!」


「へえ、硬鞭か。剣が通じない相手用にってことだね。うん、いいんじゃないかな?」


 買ってきた硬鞭を取り出してアレスに見せる。流石はアレス。一目見て俺がこれを買った理由に気付いたらしい。


「それでさ、アレスにちょっとお願いがあって。この硬鞭なんだけど……」


「ああ、普段使わないときは僕の魔法の袋に入れておいて欲しいんだよね? かまわないよ」


 アレスが俺の言いたい事を一瞬で察してくれた。いい。なんだかツーカーの仲っぽくてすごくいいな今の!


「……へぇー。アタシへは挨拶も何もなし? 寂しいなぁー」


「ふふっ」


 俺とアレスが笑顔で語り合う中、一人放置される形になっていたポーラが頬をヒクつかせる。

 なんだか拗ねるポーラが可愛くて、つい笑ってしまった。


「あ、今笑ったわね? 今アタシを笑ったのはこの口かしら? この口かしら?」


「ふぉめんー!」


 あ、と思ったときにはもう襲い。素早く接近してきたポーラに頬を引っ張られてしまう。

 くそう、人をオモチャみたいにしおって! そのうちぎゃふんといわせてやる!


 ……すいません、反省してます。反省しました。もう反省したからいい加減ほっぺ離して!


「あはは、ポーラ、ストップ。そこらへんで勘弁してあげなよ。あ、あとおかえりポーラ」


「ティアに比べてずいぶんと適当な挨拶ね。まあいいわ。まったく、この子はすぐ人をからかうんだから」


 開放されたので慌ててポーラから少しだけ距離をとる俺。

 すぐ人をオモチャにするポーラには言われたくないです、はい。


「だからっていきなりほっぺた引っ張らなくてもいいじゃないか。伸びたらどうしてくれるのさ」


「え? 嫌だったの? ホントにぃ? 満更でもなさそうな顔してるから、てっきり喜んでるものだと思ってたんだけどなぁ?」


「なっ!」


 ニヤニヤと笑いながら、猫撫で声でポーラが指摘してくる。ちょっと待って、何を言い出すんだいきなり!


 いやまあ確かに嫌いじゃないけどさ。すごく仲のいい友達同士って感じがするからこういうスキンシップ嫌いじゃないし、むしろ好きだけど!

 まさかのポーラに内心を見透かされていた事実を知り、恥ずかしさが爆発する。


「う、ううぅ……」


「あはははははは! 顔真っ赤! かーわいー! よーしよしよし!」


 恥ずかしさのあまり混乱する俺をポーラが抱きしめ、頭を撫で回してくる。

 くそう、笑うなよ……。ああでも、こうやって撫でられるのは悪い気分じゃないな。頭がふわふわして気持ちいい。


 そのままポーラのなすがままに撫で回されていてた俺だったが、しばらくして、一通り撫で回して満足したらしきポーラが撫でるのをやめて俺を解放してくれた。

 我に返った俺は慌ててポーラから距離を取る。


「ふふふ、かわゆいのお」


「うんうん」


 満面の笑みを浮かべるポーラと、それに同調するアレス。


 くそう、アレスまでポーラ側に回ったか。というか仮にも元男だってのに何をやっているんだ俺は。

 いかんなあ、ポーラと出会ってからどんどんおかしくなっていってる気がする。


「ぐ、ぬぬ……それよりもさ、ロバーツ商会の人との用事ってなんだったの!?」


「おお、強引な話題転換ね。でもちょっといじめすぎたかしら?」


「これ以上いじめると、ティアが泣いちゃうからこのへんにすべきだね」


 泣かないわ! むしろお前ら二人を泣かせてやろうか、物理的に!


 いい加減に主導権を取り戻さないと不味い事になりそうだと判断したので、全力で不機嫌な顔を作って二人を威嚇する。

 ふふふ、怖いだろう。俺がその気になればお前ら二人なんて一瞬で沈められるんだからな。


「そうね、これ以上は我慢できなくなりそうだしやめておきましょっか」


「だね」


 俺の不機嫌な演技を信じたか、アレスとポーラの二人が両手を上げて降参ポーズを取る。

 うーん、弄るのをやめて欲しかったのは確かだけど、ちょっとやりすぎたかな? 空気読めない奴と思われてなければいいんだけど。


「まあ、用事ってのはこれのことさ」


「どれどれ?」


 アレスが机の上にあった紙箱を手に取ってこちらに示す。俺とポーラが確認しようとアレスに近寄ると、アレスは一度頷いた後に箱を開いた。箱の中から出てきたのは――。


「木の棒? 真ん中に入ってる黒いのは何かしら」


「え? これって……」


 鉛筆……だよな? うん、前世でよく見た鉛筆そっくりだ。

 驚いた俺がアレスの方へ顔をやると、アレスはしてやったりという顔を浮かべていた。


「これは鉛筆と言ってね、筆記用具さ。これをこの削り器で削ってやると……」


 そう言って別の箱をあけ、中から正方形の木の箱を取り出したアレス。木の箱には円錐形の穴が開いており、アレスはその穴に鉛筆を突っ込んでくるくると回す。


 うん、完全に鉛筆と鉛筆削りだ。でもどうしてアレスが? まさか自力で考えたのか? 凄いな。


「ほえー」


 鋭く削られた鉛筆を見てポーラが感心した声を漏らす。形状からどう使うのか理解したのだろう、その目は説明の続きへの期待に彩られている。


「で、こうやって削った鉛筆で文字を書くのさ。……こんな感じにね」


 アレスが上着のポケットから白い紙を出してサラサラと文字を書く。紙の上には、インクには及ばないものの、それなりの濃さの黒い文字が残されていた。


「使っているうちに芯が磨り減って書きにくくなってくるから、そのときはまた削るのさ。いちいちインク壺にペンを付けるより楽だし、外でも気軽にメモが取れるんだ」


「すっごーい! え、何? これ自分で考えちゃったの? やるじゃないアレス!」


「おー……」


 まさかここまで完全に鉛筆を作るとは。確かに作り方は黒鉛と粘土を混ぜ合わせ、焼くだけと材料さえあればこの時代でも作れそうだけど……。

 でも焼き時間とか材料の分量とか、色々と面倒くさいだろうに。よく作ったもんだなあ。


「はは、ありがとう。でもそれだけじゃなくてね。この鉛筆で書いた文字は、パンでこすると消せるんだ。小さなミスなら消して、書き直すことができるわけだね」


「すごいわね……」


 ポーラが目を輝かせてアレスを賞賛する。うん、俺も同意見だ。剣の腕も超一流で、こんな発明までしちゃうなんてアレス凄すぎるだろう。尊敬しちゃうな。


「前々から研究してたんだけど、ようやく完成してね。これを新商品として売り出そうと、その話をしていた訳さ」


「やるじゃんアレス! すごい、本当にすごいよ!」


 興奮したせいか、思ったより大きな声が出てしまった。でも仕方ないよね。自分の友人がまさかこんなに凄かったなんて知ったら誰だって興奮するだろう。

 嬉しさのあまり、ついアレスの手を取って上下にブンブンと振ってしまう。


 ああ、それにしてもこんな愉快な気分になったのはいつぶりだろうな。うん、とても愉快で気分がいい。


「あ、はは。ありがとう、ティア」


 少しテンションを上げすぎたか、アレスの笑顔がなんだかぎこちない気がする。

 自分でもはしゃぎすぎだとは思うが、今日ぐらいは見逃して欲しいなと。

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