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この日、皇家主催のパーティーが行われようとしていた。
毎年行われるこのパーティーは、今までパパが出席していたけれど、今年からはパパと一緒にリディも出席することになった。
「パパ」
帝都のラヴァルディ公爵家の屋敷にて、玄関ホールにいるパパにリディは声をかけた。パパはリディを見て、一瞬だけ驚いたような顔をし、すぐに口角を上げて笑みを浮かべた。そして、パパはリディの手を取り、リディの手の甲にキスをする。
「今日は大人びているな。綺麗だよ」
「ありがと!」
パパの言う通り、今日のリディは、少し大人びたドレスを着ていた。化粧もドレスに合わせて、大人びた化粧をメイドに施してしてもらった。他の国にはあるらしいが、帝国には、貴族の令嬢の社交デビューというものがない。だが、リディにとって、今日の皇家主催のパーティーは、ラヴァルディ公爵家の後継者としてのお披露目にも近い意味合いがあった。リディは帝都でのパーティーには普段参加しないので、今日のパーティーでリディを初めて見る、という貴族も多いのだ。
「今日は、俺から一瞬たりとも離れるな」
「え……、令嬢たちとお話とかしたら駄目?」
「してもいいが、俺から離れるなと言っているんだ」
「パパが傍にいたら、令嬢が誰も私に近寄らないんじゃないかな? もしかしたら、私の婚約者候補になるような子息とかも近寄れないんじゃ……」
「俺がいるだけで近寄っても来れない男など、リディの婚約者候補になどさせると思うか?」
「……」
なるほど、パパは令嬢というより、子息たちを近寄らせたくないのか。実はまだ恋人が欲しい感情が残っているリディは、今日のパーティーで少しだけ希望を持っていたのだが、たった今、希望はどこかに去ってしまった。よし、今日は諦めた。
リディとパパは皇宮のパーティー会場に向かった。パパのエスコートで会場に入ると、そこかしこの貴族たちの目がリディとパパに向いている。リディは小さい声でパパに口を開いた。
「待っていれば、誰かが声を掛けに来るかな?」
「待つ暇もないくらい、すぐに近寄って来る。……ほら見てみろ」
パパの言う通り、ラヴァルディ公爵とその後継者に挨拶しようと、貴族たちが近寄ってきた。大抵は、パパと多少のやり取りがある貴族が最初に話しかけてくるらしい。後継者としてリディは紹介されながら、笑みを浮かべつつ相手をする。ここ数年、ラヴァルディ領の貴族との対応で少しは慣れているので、帝都の貴族ともリディはすんなりと相手ができている。まあ、パパが傍にいるから緊張しないだけかもしれないが。
そのように貴族の相手をしている内に、皇族が入場してきた。皇帝、皇太子夫妻、皇子レオポルド、そして――。つい先日、皇子として正式に認められたと聞いたリュカである。
リュカがシメオン元皇太子の息子だとベルリエ公爵が示してから、十日ほどが経過していた。皇家が事実確認をし、つい昨日、リュカが皇子と正式に皇帝が認めたと表明したことをパパから聞いた。そして、今日のリュカのお披露目である。今日のパーティーは毎年決まっているパーティーなので、もしかしたら、ベルリエ公爵は、このタイミングのお披露目を狙っていたのだろうか。
リュカが皇子だと示されてから、リュカとレオは一度も学園に来ていなかったので、リディは久しぶりに二人を見た。
そして、リュカを見て驚いた。リュカの髪の毛は金髪に近い蜂蜜色だったはずなのに、皇族の色である銀色になっている。リディはパパに手の指をひらひらと上下に揺らして合図し、リディに近づけてくれたパパの耳に手を添えて、小さい声で口を開いた。
「リュカって、もしかして、ずっと光の魔法で髪の色を変えていたのかな」
「……そうだろうな」
リュカの髪は染めていたわけではないだろう。元の銀髪の色に戻すのは、髪が新しく生えないと難しいから。
リディが過去の回帰のほとんどで、光の精霊ララにリディの髪色を金髪に変えてもらっていた。それと同じことを、リュカはこれまでしていたのだろう。リディの場合は、元の黒い髪は珍しい色で目立つから、黒髪より国民に多い金髪にして目立ちたくない、という理由があった。また、聖女といえば黒髪だと印象が悪く、金髪の方が聖女っぽい、という安易な理由もあった。でもリュカの本来の銀色の髪は、皇族にしかない色だ。これまで隠すしかなかったのだろう。
リュカの近くには、ベルリエ公爵が控えていた。パパがあの人がベルリエ公爵だと教えてくれた。リュカとはまったく似ていない。
リュカが皇子と正式に認められたことで、貴族の中には、レオとリュカのどちらに付くべきか、というような話題がすでに上がっているようだ。
現在の皇太子はレオの母であるシャルロット皇女だ。その次の後継者なら、本来ならレオである。ただ、リュカが元皇太子だったシメオン殿下の息子で、しかも母が上位貴族のベルリエ公爵家ともなると、後継者の勢力図が少し変わって来るという。レオの父は伯爵家筋だった。後ろ盾の大きさは、かなり今後に関わってくる。
レオの代では、これまでないと思われていた後継者争いが起きるのだろうか。二人とも友達なので、リディとしては争って欲しくない。
その日、リディはパパと皇族に挨拶をしたが、ラヴァルディ公爵家としては皇子のどちらにも付きません、という意味合いで、レオとリュカとは、パパと平等の挨拶をするだけに留めるのだった。




