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「リディ様、お客様がいらっしゃっていますが……」
同じクラスの子に困惑気味に声を掛けられたリディは、廊下を見て、そのお客様とやらに同じく少し困惑する。
お客様とは、レオとリュカである。どういう組み合わせ? どちらとも友達ではあるが、実はこの二人が揃っているところで会うことが、ほとんどない。それぞれと別に会うことが常だったのに。
レオは生徒会長でリュカは副会長であり、二人は昔から剣の訓練などでも一緒になることがあると聞いてはいる。三年生のクラスも同じ魔法クラスだ。だから、この二人からすれば、一緒にいるのは普通なのかもしれないけれど。リディには戸惑いしかない。
リディは、廊下から教室をにこやかに見ている二人の元へ向かった。
「どうしたの? 二人とも。二人が一緒に来てくれるなんて珍しいね」
「レオポルド殿下とは、この教室の前で会ったんだ」
「リュカとは別々に来たんだけどね」
「そ、そうなんだ?」
なんなんだ。二人は笑顔ではあるけれど、ちょっと怖いんですけど。
「リディ、昼食を一緒にどうかな?」
「レオポルド殿下、俺も今、そう言おうと思ったんですけどね」
「……」
これはどう返せば正解なんだろう? ただ、なんとなくだけど、三人で食べるのは、ものすごく注目を浴びそうなので避けたい。よく考えたらこの二人、現在の学園人気の一位と二位だったりするのだ。どちらか一人ならまだしも、二人一緒に食事をするなんて、注目され過ぎて食事の味がしなさそう。
「うーん……じゃあ、昼食じゃなくて、今日の学園の帰りに三人でカフェに行く? 昼食は、ルルやフェルナンと行こうと思っていたから」
「……うん、そうしようか」
「分かった」
よし、とりあえずは、みんなに見られながらの食事は回避できそうだ。とはいえ、多少の噂は出そうだけれど。リディが皇子と公爵令息を、闇の魔法を使って脅しているとか、召使扱いしているとか思われたらどうしよう。
放課後、帝都の街のおしゃれカフェにやってきた。馬車はそれぞれの家の馬車でやってきた。カフェは個室が空いていてよかった。
三人でお茶とケーキを頼む。リディはケーキを三つ頼んだ。どれも美味しそうだ。
「それで、二人とも、何か話があった?」
「この前、リディを陥れようとした事件があったでしょう。あれから何か嫌がらせとかされていないか、心配になって」
「俺もレオポルド殿下と同じだよ。リディに何かあったら、俺が嫌だから」
「え~二人とも、心配ありがとう! でも、あれから何もないよ。平和平和」
あれから十日以上経ったけれど、本当に平和なリディであった。リディのクラスは仲がいいため、普段から何も問題ない。先日のことも噂は回っているけれど、ラヴァルディ公爵家のリディが陥れられようとしたことで、おおむねリディ側に同情が集まっている。
どうやら、リディを陥れようと実行した三人は、ローズ・ベルリエと今は一緒にいないらしい。ルルとフェルナンがそう教えてくれた。もしかしたら、三人はローズ・ベルリエとは仲違いでもしたのかもしれない。
「そう。それなら良かった」
「レオもリュカも優しいんだから。二人が人気があるの分かるわ。可愛くって文武両道で、優しくて頼りがいがあるんだもの。そういえば、二人は婚約者っているの?」
「……リディ、俺が可愛い、という評価は、まあこの際置いておくとして、リディが俺の人気がどうとか婚約者がどうとか、聞いてくるの珍しいね!? レオポルド殿下は聞かれたことありますか?」
「いや、俺もない」
「あれ? そうだっけ? うーん、まあ、でも、今までそういうの興味なかったし、聞いたことなかったかも!」
「「今は興味があるってこと!?」」
おぉう……何でそんなに二人とも前のめりになるんだ。
「ちょっとだけね! この前、手紙もらって、少しドキドキしたっていうか」
「は?」
「手紙って、誰に!?」
「あ、違う違う。やっぱり手紙っていうと、告白の手紙かと思っちゃうよね! 私もそう思ってドキドキしちゃったけど、違ったの! 間違いの手紙だった! あはは!」
間違い、というか、本当はエミリー・カリエの謎の閉じ込められるための呼び出し手紙だけれど。ここでそれを言うつもりはない。
「間違い……」
「誰がそんな紛らわしいことを……」
二人はイラっとしているようだ。リディのために怒ってくれているのかな。
「パパにもね、同じ話をしたの。手紙貰うとドキドキするね、って。そしたらね、もしまた私を呼び出そうとする手紙を貰ったら、その場で燃やせとか言うのよ!」
「そうしたほうがいい」
「切り刻むでもいいと思う」
「いや、何でよ。ちょっとくらい、呼び出されてみたいよね?」
「それが、もしかしたら、リディを騙そうとする手紙かもしれないよね? 危ないよ」
「リディをまた嵌めようとする奴かもしれないじゃん。行ったらダメだって」
「えー……二人とも、パパみたいなこと言う……」
手紙でもう騙された後です、なんて、パパもレオもリュカにも言っていないから、知らないはずなのに。なんでわかるんだ。リディって、そんなに騙されそうな顔をしている?
「私のクラスの子ね、恋人いたり婚約者いたりする子が、まあまあいるんだ。だから、私も恋人欲しい」
「「ちょっと待って」」
「もう! 二人とも、またパパみたいな顔してる! この前、パパに恋人欲しいって言ったらね、まだ私には早いとか、パパにキスしてって強請る子供に恋愛はまだ駄目だとか、意地悪ばっかり言うの! パパって、学園にいたころは恋人たくさんいたって聞いたのに! パパばかりずるい! 二人もそう思うでしょ!?」
レオとリュカが、急にリディの片手ずつを握った。
「リディの恋人になら、俺がなるから」
「いや、俺がなる」
リディは二人の手から自分の手を抜いた。
「二人とも、やっぱりパパと同じこと言う!」
「「え」」
「そんなに恋人が欲しいなら、パパが恋人ごっこしてやる、とか言うのよ! そういうことじゃないの! パパはパパでしょ! パパはいつも何もなくても甘やかしてくれるから、パパは大好きだけど、パパと恋人ごっこしたいんじゃないの~! パパじゃない人に甘やかされたいって言ったら、じゃあ、お兄様と恋人ごっこしろって言うし~! そうじゃないのに!」
「いや、俺はそういう意味で言ったんじゃないよ」
「俺もそうだけど」
ぐちぐち言っていると、二人が再びリディの片手ずつを握った。
「リディはもし俺が求婚したら、結婚してくれる?」
「俺もリディと結婚したいって言ったら?」
リディは目をぱちぱちと瞬いた。結婚? なんだか急に話が飛躍したような。リディが欲しいのは恋人で。
しかし、少し考える。皇子であるレオや公爵令息であるリュカと結婚。いやいや。
「そんなの無理でしょ~」
「「何で!?」」
「私、ラヴァルディ公爵家の後継者だよ? だから、お婿さんをもらうんだ! 二人ともそれぞれの家の後継者なんだから、後継者じゃない人をお嫁さんにしなきゃ!」
もう、二人とも、面白い例え話をするんだから。
「いや、ちょっと待とうか、リディ」
「そうだよ。最近は、後継者同士の結婚なんて、多くはないけど、ありえない話ではない」
どの伯爵と子爵が結婚している、どの侯爵と伯爵が結婚している、などと二人は例を上げていく。
「あら、本当ね?」
「ね、だから、俺とリディは結婚できるよ」
「俺とリディもね」
「そうかぁ。でもね、パパがしばらくは恋人は作ったら駄目って。パパかお兄様との恋人ごっこ以外はしちゃ駄目って言うから、しばらくは恋人作れないと思う!」
「「……」」
パパがリディに恋人ができるのを嫌がるのは、パパがリディが好きすぎるからだと思う。愛されているのは嬉しいので、もう少しだけ、パパの言うことを聞いてあげるのだ。
若干暗い雰囲気になっているのには気づかず、吐き出したい愚痴も言い終わり、リディは甘いケーキを堪能するのだった。




