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リディが今日学園に来ると、手紙がリディの使用する机の中に入っていた。何だろう? と、隣にいたルルと顔を見合わせ、手紙を見ると、こんなことが書いてあった。
『リディ・ラヴァルディ公爵令嬢。お話があります。放課後、防音室で待っています』
「ま、まさか、告白!?」
隣にいたルルが、わくわくした声で反応した。告白といえば、一般的には『愛の告白』だと思う。恋愛とはほど遠い生活をしていたリディは、少しだけドキッとしてしまう。だって、リディだって十六歳。同じクラスの子の中には、恋人がいたり婚約者がいる子もいる。今まで恋愛に興味がなかったリディも、この手紙で急に乙女心が芽生えた気がする。
放課後、リディはドキドキしながら、防音室に向かった。防音室とは、音楽の授業で使用したり、音魔法の訓練で使用したりする部屋だ。音魔法を使える人はかなり少ないらしいので、音楽の授業で使う場合が多い。
しばらく待っていると、防音室の扉から音がした。しかし、誰も部屋には入ってこない。それどころか、なぜか鍵が閉まる音がした。
「……嫌な予感しかしないんですけど」
リディが扉に向かうと、案の定、鍵が掛けられ、リディは部屋に閉じ込められてしまった。
盛大に溜め息を吐きながら、リディはその場でしゃがんだ。これはどう考えても、イタズラ、もしくはいじめだろう。
手紙には、愛の告白だなんて書いていない。なのに、勝手に告白だと勘違いしたとは。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
さて、反省は後だ。閉じ込められてしまったので、とりあえずはこの部屋から出なければならない。しかし、防音室は窓がなく、窓からの脱出は不可能だ。また、大声を出しても、防音室なため、誰も気づかないだろう。
どうしたらいいんだろう。
なんて、今回に限ってリディが思うはずがない。リディは闇の魔法で煙を出し、鍵のかかった扉の下から煙を廊下へ出した。そして、煙を伸ばし、鍵穴へ煙を入れる。煙を固形化させて鍵にすると、あっさり鍵を開けた。
廊下の遠くに人の気配がする。きっとリディを閉じ込めた犯人だろうが、リディはどうでもよかった。
「……帰ろ」
『あの子、放っていていいの?』
頭の中に光の精霊ララの声が聞こえる。しかし、こんな子供騙しに引っかかるリディが悪いのだ。人の気配から十分離れてから、リディは口を開いた。
「ララは鍵を掛けたのが誰か分かった?」
『エミリーって子よ。リディが部屋から出てすぐ、ちらっと後ろ姿が見えたわ』
「なるほど。それだけわかれば、もういいよ。なんだか、彼女には目の敵にされている気がする」
『どうしてかしら』
「わかんない。聖女だった時は、別の聖女の子に嫌われたこともあるけどねぇ。鍵をかけたのを見ていないから、問い詰めても、しらを切られたら終わりだもの。今日はこのまま帰りましょ」
エミリーが何をしたかったのか分からないが、あのまま閉じ込められて、別の何かを仕掛けられるのも面倒だ。しかし、しばらく、呼び出しなどは気を付けた方がいいだろう。
その日、リディは何事もなく帰宅した。
次の日、ルルに「告白だった!?」とキラキラの目で問われたリディは、騙されて閉じ込められたとは言い出しにくく、「ただの間違いの手紙だった」と誤魔化した。
その日の昼食、リディはルルと食堂で昼食をした。昼食を終え、話しながら食堂を去ろうとしたところ、リディは前から歩いてきた子にぶつかった。ぶつかった子が持っていた飲み物が、たっぷりとリディの制服にかかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「いいのよ」
ぶつかった子が謝ってくれた。ただ、飲み物がコーヒーだったのか、リディの制服に黒いシミが広がる。唯一の救いなのは、コーヒーがすでに冷えていたコーヒーだったことか。
「リディ! 大丈夫? 熱くはない?」
「冷えたコーヒーだったみたい。大丈夫」
ルルが、リディの汚れた制服をハンカチで拭いてくれる。リディも自身のハンカチで拭いていると、知らない声が響いた。
「ちょっと! リディ様になんてことするの? 平民の分際で!」
「そうよ! ラヴァルディ公爵家の令嬢に、這いつくばって謝りなさいよ!」
見知らぬ女生徒二人が、ぶつかってきた子にそう言った。いや、あなたたち、誰ですか。
ぶつかってきた子は涙目で、躊躇なくその場で床に這いつくばった。
「申し訳ありません! お許しください! お許しください!」
いや、あなたも、言われたからって、なぜ素直に這いつくばるんだ。
「何がどうなっているの?」
ルルが戸惑い気味にそう呟いた。リディの気持ちも一緒だ。急に演劇にでも巻き込まれたような感覚がある。
何の騒ぎだと、人が集まってきた。みんなリディと這いつくばっている子を、怪訝な目で見ながら、こそこそと何かを話している。「まさか、ラヴァルディ公爵令嬢があんな子だったなんて」「いくらなんでもひどいわ」「やっぱり闇の魔法一族って、怖いのね」と小さい声で言っている。「這いつくばれ」と言ったのはリディではないのに、この状況では、間違いなくリディが言った、もしくはリディの友人が言ったのだと思われていそうだ。
リディは這いつくばっている子に近づいて、手を差し出した。
「私は怒っていませんので、立ってくれませんか? それと、そこの逃げようとしているお二方、少し待ってくださいね」
騒ぎにするだけしておいて、しれっとこの場を去ろうとしていた、見知らぬ女生徒二人にそう声をかけた。みんな、誰のこと? と首を傾げていたけれど、リディの視線で、すでに離れかけていた二人だと気づいたようだ。集まっていた人が、その二人を中心にさっと人が離れ、二人が目立つ。その二人は逃げられなかったことに、青くなりつつも困惑していた。それはそうだ。逃げられないように、リディがこっそり二人の足の裏を影で縫い付けたのだから。今はもう影を解除しているが。
「あなたたち、誰ですか? 私の同じクラスでもないし、友人でも知人でもないですよね。なのに、なぜあの子に謝れだの這いつくばれだの言ったのです? しかも、言うだけ言って、私に注目が浴びたら逃げようとしましたね」
女生徒二人は、何も言い返せないのか青い顔をしているだけだ。
「何の集まり? ……リディ、どうかしたの?」
「リュカ」
怪訝な顔でリュカがやってきた。ますます顔を青くする女生徒二人を見ながら、リディは事情を説明する。
「なるほど。つまり、君たち二人は、リディが横柄に見えるように嵌めようとしたということかな」
「ううん、リュカ。二人ではなくて、三人」
「うん?」
「私にぶつかってコーヒーをかけた子も、たぶんお仲間」
急に自分に矛先が向き、眉を下げて可哀想な子のように見えていたぶつかった子は、青い顔をした。
「わたしはそんな! 仲間だなんて!」
「這いつくばれなんて言われて、すぐに這いつくばる人はいないと思うの。普通は言われても、最初は戸惑うでしょ?」
「戸惑いました! 戸惑いましたが、あの二人が怖くて!」
指されたその二人は、ぶつかった子を睨んだ。少なくとも、女生徒二人は「平民」と声をかけていたから、ぶつかった子と二人が知り合いなのは間違いない。
「……なるほど。少なくとも、君たち二人は、故意に騒ぎを起こしたことは間違いないようだね。二人は今から一緒に来てもらおうか。それと、リディにぶつかった君も」
「わ、私もですか!?」
「君も騒ぎを起こした一人だよ。事情は詳しく聞かせてもらうから」
リュカは近くにいた知人を呼び、三人を連れて行くように指示した。リュカは生徒会副会長だからか、どうやら生徒会でこの件は預かることにしたようだ。
近くに集まっていた子たちは、リディが嵌められそうになったと知り、今度はリディには同情の視線が集まった。とりあえず、誤解は解けたようで安心である。
「リディは医務室に行こうか」
「ん? ……ああ、大丈夫。コーヒーは冷えたコーヒーだったから火傷はしていないの」
「そう? じゃあ、俺の着替えを貸すよ。生徒会室に制服の替えを置いているから」
「ありがとう。でも、大丈夫。前に魔法の訓練でずぶぬれになったことがあって、それからは着替えも持ってきているんだ」
「……リディはもっと、俺を頼っていいのに」
「何を言っているの。頼ってるよ。ほら、さっきの子達、リュカに後は頼もうとしているから」
「……もちろん、彼女たちは俺に任せて」
リュカはリディの頭に手を置くと、そのまま去っていった。
さて、あの三人は、なぜリディを嵌めようとしたのだろうか。分かればいいのだけど、とリディは着替えるために、ルルと教室へ戻るのだった。




