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「このように、地上に出現する穴は自然現象であり、穴は地下世界へ繋がっています。魔獣や魔物がその穴を通り、地上へ出没します。地上へ出没した魔獣は、地下世界にいる時より狂暴になると言われています」
リディの魔法クラスの授業では、魔獣について先生が講義をしていた。
「そのあたりは、ラヴァルディさんのほうが詳しいでしょう。ラヴァルディさんから見て、魔獣はどのように変化しますか?」
「そうですね……。魔獣は地下世界に突如現れる穴が何なのかを知りません。いつも通る道を通っただけのつもりで、穴を通ってしまいます。気づいたら、見知らぬ地上に出てしまうのです。いつもと違う環境、人、動物。そういったものに混乱し、恐怖し、傷つけられるのを恐れて先に攻撃してきます。狂暴になる、というより、魔獣たちは見知らぬ私たちを恐れているだけなのだと感じるときがあります」
「なるほど。もし、私たちにも同じことが起きれば、同じようにするかもしれません。いきなり地上から地下世界に行ってしまえば、見知らぬ魔獣に恐怖を抱き、攻撃してしまうことでしょう」
地上に現れた魔獣は、討伐していいと帝国では決まっている。だから、魔獣を討伐するのだ。リディやパパは闇の魔法で魔獣を地下世界へ送り返す方法も使えるから、討伐しないで送り返す方法を使うことが多い。
東北の地ラヴァルディ領以外で出没する魔獣は、光の魔法の一族、国所属の騎士、魔獣討伐専門ギルドの傭兵などが討伐することが多い。ただ、魔獣が現れた場所に討伐専門の騎士がいるとは限らない。だから魔力のある人は、目の前に魔獣が現れたらどうする、という対処法をこのようにして学園で学んだりするのだ。
また、魔獣は討伐するものだが、生け捕りにする場合もある。魔獣を加工すれば、それなりの武器を作れることもあり、国に魔獣を研究する専門機関もある。
「今日は、魔獣の討伐で、最近は欠かせない聖女についても紹介しておきましょう」
先生が声を掛けると、教室にリュカと、先日聖女だと紹介されたエミリー・カリエ子爵令嬢が入ってきた。
「数年前まで、魔獣討伐で傷を負った場合、神殿の聖女に怪我の治癒を依頼していました。ですが、ベルリエ公爵のご意見で、魔獣の討伐チームには、治癒班として聖女に入っていただくのがよいだろうということになり、最近では、聖女の皆様も魔法クラスに入学いただいています」
リディは、そういうことか、と思いながらエミリーを見た。先日、エミリーが魔法クラスだと自己紹介をしていたが、神聖力が使える聖女は魔法は使えないため、聖女が魔法クラス? と少し疑問に思っていたのだ。
リディが過去の回帰で聖女であった時、聖女がリンバルム学園に入れる、という話は聞いたことがなかった。
「聖女のエミリー・カリエです。みなさんが、もし魔獣討伐に行かれることがあって怪我をされた場合でも、私が完璧に治癒致しますので安心してください」
クラス中から拍手が上がる。リディはエミリーを見ながら、そんな大口叩いていいの? と苦笑してしまう。すると、エミリーがリディを見て、少し悲しそうな顔をしながら口を開いた。
「ラヴァルディ公爵令嬢、そのように笑われてしまうと悲しいです。聖女の力が大したことない、と言いたいのでしょうか。ラヴァルディ公爵家の血には効かない力ですから、見下したい気持ちは分かりますが、それでも悲しいです」
「え?」
いつ、リディが見下した。苦笑はしていたが、決して見下そうと思ったわけではない。しかし、エミリーの一言で、クラス中が困惑の顔でリディとエミリーを交互に見た。
リディは短く溜め息を吐く。仕方ない。
「誤解です、カリエ子爵令嬢。確かに、ラヴァルディである私には、聖女の神聖力に効き目はありません。ですが、他の方々に効力があることは認識していますし、見下す気持ちはありません」
「ですが、笑われたではありませんか」
「笑ったのではありません。カリエ子爵令嬢の言い方では、怪我をすれば必ず治してもらえると言っているように聞こえたので、みんなが誤解するのでは、と心配して苦笑しただけです」
エミリーは気づいていないようだが、エミリーの隣に立つリュカは、冷たい目でエミリーを見ている。
「聖女の力は万能だと思われがちです。確かに聖女は、神聖力で怪我の治癒はできるでしょう。ですが、神聖力の治癒とは、その怪我した人の怪我を治したいという意思に強く影響されます。ですから、切り傷などの見た目で分かりやすい怪我は治癒しやすいです。では、例えばですが、昔、魔獣討伐で体を強く打ち、足を怪我した人がいました。その方は、治癒しなければ、そのうち歩けなくなってしまいます。カリエ子爵令嬢なら、どうのようにしますか?」
「……もちろん、怪我した足を治癒させます」
「ええ、それは間違っていません。ただし、その人は足の怪我を治癒してもらってもなお、歩けなくなりました。なぜだと思いますか?」
エミリーが眉を寄せた横で、リュカが口を開いた。
「歩けなくなった原因は他にあった、ということかな、リディ」
「そうなの、リュカ。その人は、体を強く打ったことで、足を怪我していただけでなく、背中や腰を強打したことによる背骨の損傷など見えない傷も負っていました。そちらの治療もしてあげる必要があったのです」
リディはエミリーを見た。
「聖女は、目に見える怪我や、相手が訴える痛みなどから、治癒を施します。そのため、実は治癒ができなていない部分があった、という見落としをすることもあります。ただ、聖女とはそういうものです。治癒するだけであって、怪我や病気の専門家ではありません。そういうことは、医師が見てくれますから」
リディの過去の回帰でも、聖女に治癒してもらったのに、痛みが治まらない、と訴える人も時にはいた。聖女に治癒を依頼する人は、勘違いしている人が多い。聖女は万能ではないのに。
「分かってもらえましたか、カリエ子爵令嬢。私は笑ったのではなく、聖女が万能だとみんなが誤解しないでほしい、と心配しただけです」
「その通りだよ、リディ。みんなも、リディの言うように、聖女は万能ではないので、誤解しないようにね。ただ、怪我した場合に、治癒してくれる存在もいるから、心配しすぎないでもいい、ということは覚えておいて」
「はい」
リュカがいい感じにまとめてくれた。クラスの子の声を聞いていると、「そっか、万能じゃないんだ」と、やはり知らない子もいたようだった。
教室の雰囲気が元に戻り、リディはほっと息をつく。せっかくクラスの子達は仲がいいのに、変な空気になるところだった。エミリーには誤解されるような返しをされて、まさかわざとじゃないよね? っと、ちらっとエミリーを窺うと、エミリーは呪いそうな視線でリディを見ていた。
なんで!? さっとリディはエミリーから視線を外す。今日で二回目と、エミリーとは接点が少ないのに、ここまで怖い視線を向けられるとは、ちょっと納得いかないんですけど。そうは思いつつ、恨まれているのかな、やだなぁ、とリディはそれ以上エミリーを見れないのだった。




