55 ※レオポルド視点
皇宮の訓練場で剣の訓練をしていたレオポルドは、訓練の休憩中に近づく侍従の言葉を聞いて、その日の訓練は早々に切り上げた。レオポルド以外にも、訓練場には帝都に住む貴族子息達が訓練をしていた。しかし、その日は練習試合もない。そのため、彼らを置いて訓練場のレオポルド専用の休憩室で着替えると、近道の皇宮の庭を通り、レオポルドのプライベートなドーム状の庭へやってきた。
レオポルドの目当ての人物リディはすぐに見つかった。芝生の上で、猫二匹と一緒に気持ちよさそうに寝ている。
レオポルドは笑みを浮かべた。寝ているリディにそっと近づいて芝生に座ると、リディの横に陣取っている猫のランを膝に乗せた。猫のリンは、リディの胸の上で目を瞑っている。
リディが早めに到着したという知らせを聞いて、慌ててやってきて良かった。リディの寝ているところを見られるとは。猫のランを撫でながら、じっとリディを見つめる。初めて会った時から可愛かったけれど、リディは年々さらに可愛くなっていく。
いつまでも見ていられる。そう思っていると、リディの瞼が揺れた。そしてリディが瞼を開ける。
「……レオ?」
「おはよう、リディ。気持ちよさそうに寝ていたね」
「うーん……ここって、温かくて気持ちいいね。猫になった気分」
「確かに、リディは猫みたいだ」
レオポルドは微笑みながら、リディの隣にうつ伏せになるように横になり、上体だけは起こしてリディを向いた。
「今日は早めに来られたんだね。もしかして、世界樹を見に行っていた?」
「うん。今日も世界樹はすごく綺麗だった」
「そっか」
リディが何かに気づいたような顔をして、レオポルドの左の頭に手を伸ばした。そして、レオポルドの頭から木の葉を取る。
「ふふふ。これ、どこで付けてきたの?」
「あー……たぶん、ここへ来る時に、近道で通ってきた庭で付いたのかな」
急いでいたとはいえ、気づかなかったとは少し恥ずかしい。そう思っていると、リディの頭にも木の葉が付いているのに気づいた。
「リディにも付いているよ」
リディの頭に手を伸ばし、木の葉を取って上げた。きっと、芝生の傍にある背の低い木から落ちたのだろう。
「本当だ。ふふ、お揃いね」
二人で笑いあう。穏やかなこの時間が、レオポルドは好きだった。
リディは、ラヴァルディ領から帝都に来た時は、定期的に会いに来てくれる。他の貴族のように、リディはレオポルドを皇子としてではなく、ただのレオポルドとして接してくれるから、気が楽なのだ。それに、互いに秘密を共有しているからか、リディとの距離は余計に近しいかもしれない。今でも、リディは『叫び草』を見つけたら、こっそりレオポルドに知らせてくれる。すごく思いやりのある子だ。
「そうだ! レオ、前に魔獣討伐に行くって言ってたよね? 大丈夫だった? 怪我しなかった?」
帝国では、魔獣が出やすいのは東北のラヴァルディ領であることは間違いないが、その他の地にも東北ほどではないが魔獣が出る。そういう場合に、皇族も討伐に行くことはあり、皇子のレオポルドも討伐の訓練も兼ねて向かうことがあるのだ。
「大丈夫だよ。怪我もしていない」
「本当? それなら良かった! あのね、もし魔獣が怖かったら、討伐には私が一緒に付いて行くからね!」
「……ありがとう。でも、リディの方が魔獣は苦手だよね?」
「私は魔獣は怖いけど、でも、レオは守ってあげるから!」
うーん。これは。レオポルドは苦笑した。
「リディ、俺は一応、竜人族の末裔で竜人族の力も使えるから、弱くはないよ?」
「……そうだった。レオって、皇子だったね。でも、私はお姉ちゃんだから、レオは守ってあげなきゃって」
やはり、いまだレオポルドをそのように思っていたか。なんとなくそう思っていたけれど。
「リディは今、十二歳だよね」
「うん」
そう、リディは十二歳。以前からずっと、五歳であろうが、六歳であろうが、リディは自分は十二歳だと言っていた。だから、レオポルドよりお姉さんなのだと。しかし、今は正真正銘の十二歳なのだ。
「俺は十四歳だよ。リディより年上なんだ」
「あ! ……そうかぁ、もしかして、弟じゃなくて、兄がよかった?」
「……うん?」
何か、思っていたのと返しが違う。いや、しかし、弟のように守ってあげたいと思われるより、守ることが許される兄のほうが、まだ格上か?
「うーん、そうだね。兄のほうがいいかな。俺はリディに守ってもらわなくても大丈夫。それより、リディを守りたい」
「え! ありがとう! じゃあ、もし魔獣討伐に一緒に行くことがあったら、怖い顔の魔獣がいたら、レオにお願いするね! 私は顔が怖くない魔獣を討伐する!」
「う、うん」
何か、やっぱり思っていたのと返しが違う。
「リディ、俺はリディの兄? みたいでいいんだけれど、友達でもあるよね?」
「もちろん! レオは大好きな友達!」
うん、まあそれなら今はいいか。ただの兄妹認識よりはマシだろう。
「そうだ、リディ。お茶にしようか。美味しいケーキも用意しているから」
「本当!? うん! お茶にしよ!」
嬉しそうに笑みを浮かべるリディが可愛くて、レオポルドもつられて笑う。
レオポルドは先に芝生から立ち上がり、リディに手を差し出した。
「リディ、手を」
「ありがとう、レオ」
リディが立つと、レオポルドとは二歳以上の差を感じる。リディは気にしているから言わないけれど、リディは背丈が低めなので、余計に可愛いのだ。
レオポルドはリディと手を繋ぎ、お茶の席に着こうと移動するのだった。




