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皇宮でレオと会った次の日の朝、リディは帝都にある婦人服の店にやってきた。時々パーティー用のドレスをオーダーメードで作ってもらうラヴァルディ御用達の店なのだ。屋敷に来てもらってもいいけれど、リディは店に並んでいるドレスを見るのも好きなので店に足を運ぶことが多い。
今日はオーダーしていたドレスの仮縫いができたと聞いたので、見た目と着心地の調整にやってきた。仮縫いのドレスを着て、鏡の前に立つ。
「お嬢様、首元はもう少し詰めた方が、綺麗に見えると思いますわ」
「そうね」
真剣にリディのドレス姿を確認しながら、デザイナー兼オーナーが複数人の部下のお針子たちに、指示を出して調整をしていく。
昔はどんなドレスがいいのか分からなかったリディだが、今は服にも好みというものがある。ただ、美しく見える姿というものは、オーナーの方が専門家なので任せっきりだ。
「――痛っ」
首の後ろに針を刺した痛みが走った。
「も、も、もも、申し訳ありません!」
オーナーの指示で首の後ろ側のドレスを仮止めでもしようとしていたのだろう。待ち針か何かがリディに刺さってしまったらしい。青い顔で深々と頭を下げるオーナーの部下。
「い、いいのよ。次は気を付けてね」
結構痛かったけど、誰にでも間違いはある。次に同じことを起こさないでいてくれればいい。
「お嬢様、部下が大変申し訳ありません……!」
オーナーも青い顔をしている。リディはラヴァルディだから、オーナーにとっては余計に気を使う相手だというのは、リディも分かっている。一瞬のことだし、リディも大事にはしたくない。
「大丈夫よ。気にしていないから」
オーナーと部下の人に何度も頭を下げられてしまった。
少し疲れたな、と思いつつ、婦人服の店を出た。その後、次の予定があるため、歩いてそう遠くない目的地へ移動する。
実はこれからリディはリュカと会う約束をしていた。待ち合わせのために、帝都の広場にある公園に来たのである。
婦人服の店に行く時もだが、最近は街に行く時は護衛は付けていない。リディが闇の魔法を訓練したことで、ある程度の危険は自分で対処できるからと、パパに護衛はいらないとお願いしたのだ。最初は駄目だとパパは渋っていたけれど、最近はやっと護衛なしで出かけられるようになった。
「リディ!」
「……リュカ」
少し離れたところから走ってくるリュカを目にした。そして、笑顔のリュカを抱きとめる。
「リディは、いつ会っても小さくて可愛いね!」
「会って一秒で失礼ね!」
笑いながらリュカがリディから体を離した。初めての出会いから数年。リュカはすごく背が高くなっている。最近、リュカと会うと、リディは小さいとからかわれるのだ。
「私だって少しは背が伸びたのに!」
「うーん」
その、どこが? って顔、止めてくれませんか。
「リュカが私以上に背が伸びたから、私の背が伸びたことに気づかないだけ!」
「そういうことにしておこうか?」
仕方ないから折れてあげる、というような顔をリュカがする。リディはむっとした。
「リュカったら! 最近可愛くなくなってるんじゃない? 前は泣き虫で可愛かったのに!」
初めて会った頃は泣き虫だったリュカは、今はまったく泣かないし、可愛かった顔が、年々顔つきが変わり、最近は美少年になっている。そして、リディは最近、からかわれることも多くなってきているのだ。
「泣き虫なんて、いつの頃の話? 俺は成長しているから、もう泣かないよ」
いつの間にか、僕だったのに俺になっているし。
「でも、泣かない俺って、そんなに可愛くない? 可愛くないと、リディは俺が嫌いになるんだ?」
「え!? そんなことは言ってないよ!」
「本当? もう俺とは会わないなんて、言わないよね? リディにそんなこと言われたら、さすがに泣いちゃうかも」
リュカは眉を下げ、悲し気な顔をする。まさか本当に泣くかもと、リディは慌てて顔を振った。
「会わないなんて、言わないよ!」
「じゃあ、俺が好き? 友達をやめるなんて言わないでね。俺から離れないで」
「もちろん、リュカが好き! ずっと友達だよ」
「よかった。約束だよ」
にこっと笑ったリュカは、リディの手を握る。あれ? まさか、泣くフリの演技だったわけじゃないよね?
「リディ、カフェを予約しているんだ。行こう」
「う、うん」
リュカは見るたびに、少しずつ変化がある。周りに合わせるように、急いで大人になっていくような。ちょっと戸惑いはあるけれど、リュカは今も家族関係が良好とは言えないようで、早く大人にならざるを得ないのかもしれない。
カフェに移動し、リディたちは丸テーブルに並んで座った。ケーキとお茶を頼み、リディたちは近況を報告する。
リュカはベルリエ公爵家の後継者なだけあり、勉学、剣、武術、魔法訓練など、毎日忙しい。リディもラヴァルディ公爵家の後継者だから、リュカと似たような感じで忙しいけれど、リュカほどではない。
リュカは、帝都に住んでいるから、帝都に住む他の貴族との交流も積極的に行っているようだし、最近はパーティーなんかも出席しているらしい。
リディも他の貴族との交流は少しはあるが、それはほとんどラヴァルディ領の貴族に限られる。令嬢たちとお茶会をすることもあるが、年に数回程度であるし、大々的なパーティーにはまだ出席したことはない。
「そういえば、リディは昨日って、もしかして、レオポルド殿下と会った?」
「……? うん、よく知っているね」
「やっぱり、そうなんだ。レオポルド殿下が、剣の訓練の途中で帰っていったから、リディに会うんじゃないかって思ったんだ」
「そういえば、リュカも皇宮の訓練場で剣の訓練をしてるって、言ってたね」
皇宮では、貴族の子息のために訓練場を解放していると聞いている。実力のある剣の師匠がいるらしく、剣を扱う子供たちの技術を底上げする目的もあるのだろう。
「……リディの手紙に、次のリディの誕生日にはパーティーをするって書いてあったけど」
「そうなの。今、準備しているところで」
「レオポルド殿下も招待しているの?」
「ううん。パパが今回はラヴァルディ領の令嬢だけ呼ぶように、というから、子息は一人も呼んでいないの」
「……そうなんだ」
リュカは、ほっとした顔をした。やはりリュカはレオを気にしているのだろうか。
リディは帝都の令嬢や子息の情報は聞くことは少ないが、それでも、リュカやレオの噂は知っている。
レオは皇子ということもあり、昔から有名だ。文武共に優秀で、魔法も得意。そして、銀髪に綺麗な青い瞳を持つ綺麗な顔。令嬢たちにも人気と聞いている。
けれど、リュカも今は有名なのだ。いつからか文武共にレオと並ぶほど優秀だと言われるようになり、魔法も得意。そして、蜂蜜色の髪に綺麗な青い瞳を持つ美しい顔。レオと二分するように令嬢たちに人気らしい。
そうなると、二人は同じ年齢ということもあり、もしかしたら、互いに意識していたりするのだろうか。リディはそんなことを思い、なんとなく二人には、互いのことをどう思っているのか聞けないでいた。
以前、レオに会いに皇宮に行った時、レオと一緒にいるときに偶然リュカに会ったことがある。その時、レオとリュカも互いに顔見知りだったんだ、と認識したけれど、レオとリュカは仲がいいとは感じなかった。仲が悪いとも感じなかったけど。
今度のリディの誕生パーティーは、パパに言われたから、令嬢たちしか呼ばないことにしたけれど、それで良かったかもしれない。子息を招待するなら、皇子であるレオも招待することになるだろうし、かといって今のところ関係の良くないベルリエ公爵家子息のリュカを招待する、というのはしにくい。レオとリュカ、二人とも大好きな友達であるリディは、二人を差別してパーティーに招待するしないを考えるのは辛いのだから。
「リディ、誕生パーティーには行けないけれど、何かお祝いをさせてほしい。欲しい物とか教えて」
「そんなの、気にしないで。リュカには、おめでとうって言ってもらえるだけで嬉しいよ」
「もちろん、おめでとうは言うよ。……でも、じゃあ、何かリディに似合うものを探しておく」
「……ありがとう」
本当におめでとうと言ってもらえるだけで嬉しいのに。でも、リュカの気持ちは嬉しいから、リュカの返事に頷いた。
十三歳の誕生日。リディにとって、過去の回帰も含め、初めての十三歳。今から少しドキドキするな、そう思いながら、リュカと楽しく会話を続けるのだった。




