49
「そうだ。僕、リディにプレゼントを持ってきたんだ」
「プレゼント?」
リュカは小さい小袋を取り出して、リディに差し出した。リディはそれを受け取る。プレゼントとは、いったい。今日って、何かの日だったっけ。
「ありがとう」
「開けてみて。リディが気に入るといいんだけど」
小袋を開けると、白のレースの可愛いリボンが入っていた。
「可愛いリボン! ありがとう!」
「ううん。これは御礼だから。前にリディには、道を教えてもらったりして、すごく嬉しかったから」
リボンにはクリップが付いていた。リディはワンピースの胸元にリボンを付ける。
「うん。リディに似合っていて、すごく可愛い」
「ありがとう」
少し道案内しただけなのに、リュカは律儀だ。でも、プレゼント貰えるなんて、すごく嬉しい。
それから、リディとリュカは、しばらくベンチで楽しく話をした。そして、そろそろ帰らなければならない、というリュカは、寂しそうな顔をしてリディの両手を握った。
「また、僕と会ってくれる?」
「もちろん! 私が帝都に来た時は、必ず会いましょう!」
「うん!」
去っていくリュカに手を振って別れた。それから、リディは護衛を見た。
「帰りに、お菓子屋さんに寄りたい」
「承知しました」
近くに有名なお菓子屋さんがある。クッキーやチョコレートが美味しいと有名なのだ。お土産に買って、パパやブリスやルシアンと食べよう。
お店に向かう途中、リディはトイレに行きたくなった。護衛に言って、近くの大型商店の店に入る。大型商店とは、いろんなお店が一つの建物に入っているところをいう。基本的には、貴族や裕福な平民向けの値段の高いお店ばかりなので、リディはほとんど入ったことはない。トイレを探して、トイレに入る。
さすが、貴族向けのお店なだけあり、トイレも綺麗だった。リディは最後に手を洗い、ハンカチで手をふいていると、声をかけられた。
「あら? 先ほどのお嬢さん。また会いましたね」
そこにいたのは、ワッフルを買ってくれた女の人。リディの目の前に、香水の瓶のようなものを差し出した。
「ごめんなさいね。少しだけ、眠ってほしいのよ」
え? 何を言っているの? リディはそう言いたかったが、顔に何かを吹きかけられた瞬間、意識を手放してその場に崩れ落ちた。
◆
リディは、何やら頭を触られているような気がして、うっすらと目を開けた。
「あら、起きたのね」
リディは、椅子に座らせられていた。手と足が動かないところをみるに、どうやら縛られているようだ。
「……ここ、どこ?」
「ここは、わたくしの隠れ家。趣味の家ってところかしら」
リディは青い顔をした。どうみても、これはおかしい。リディは攫われたのだろうか。
「私、帰りたい」
「あら、駄目よ。せっかく招待したのに。帰らせないわ」
「……トイレの外に護衛がいたと思うのだけど」
「ああ、あのおまぬけさん。お嬢さんったら、小さいのだもの。旅行用のバッグに入って良かったわ。あのおまぬけさんは、お嬢さんが出てくるのを、今も待っているかもしれないわね」
リディが攫われて、どのくらい経ったのか分からないが、さすがにトイレが長過ぎると護衛が気づいてくれることに期待する。
「護衛がいたってことは、お嬢さん、良いところのお嬢さんなのね。優しいご両親がいるのかもしれないけれど、ここから出ることは諦めて頂戴。あなた、とっても綺麗な髪をしているのだもの。わたくし、気に入ったわ」
「……髪?」
「黒い髪って珍しいわ。わたくしのコレクションには、まだ無い色ね」
「コレクション?」
「あら、興味があって? 見せてあげるわ」
女の人は、部屋の途中にひいていたカーテンを、開けていく。
カーテンの向こうには、たくさんのウィッグが並べてあった。金髪や蜂蜜色、ダークブラウンの長髪、ボブスタイル、ウェーブなど、色んな髪型のウィッグが所狭しと並んでいる。
「素敵でしょう。今、わたくしがしているのも、ウィッグなの」
女の人は、今は金髪の前下がりボブの髪型をしていた。
「お嬢さんの黒い髪、一目見てわたくし気に入ったの。だから、わたくしのコレクションにしてあげるわ」
「え、遠慮します!」
「ふふふ。そんなに怖がらないで。できるだけ痛くないように、また眠らせてあげるわ」
「やだ!」
痛いって何? ハサミで丸坊主にするってわけではないのか。
「もう。あまり大きい声を上げないで。わたくし、あまり子供は好きではないの。怒らせないで頂戴ね」
「……」
怖い。怖すぎる。どうしたらいいの。
リディは、闇魔法の影を出そうと試みるが、何も起きない。ということは、この建物には、魔法封じが施されているのだ。ラヴァルディ公爵家の屋敷にもある。貴族の屋敷には、当然、魔法封じがされていると聞く。他人の魔法使いに、勝手に家の中で魔法を使われないようにするための予防策。リディがラヴァルディの屋敷で魔法が使えるのは、魔法封じから除外するリストに載っているからである。
しかし、当然この屋敷では除外リストには載っていないわけで、これでは、リディはパパに助けを呼べない。ララに声を掛けてみるが、ララも返答がない。ララにも魔法封じの影響があるのかもしれない。
ああ、終わった。今度こそ、リディの今回の人生は終わりなのだ。リディは髪の毛だけでなく、なんとなく命も脅かされているのを感じていた。リディがまだ、もがくことができるならともかく、両手両足縛られていて、もう何もできやしない。ここまで来ると、過去の回帰の経験上から、もう諦めろ、とリディの中の何かが言っている。
救いなのは、来世もパパがリディのパパになってくれると約束してくれたこと。今度回帰すれば、回帰して目覚めるリディの体は五歳半のはず。現在あと数か月で六歳になるリディは、五歳半までの人生は、すでに確定されているはずだ。ということは、回帰すれば、すでにリディはパパの子になっているということで。
でも、やっぱり、今世でパパとまだ一緒にいたかったな。リディは静かに涙を流しながら、そう思うのだった。




