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夜、パパの寝室では、パパがブリスと話をしていた。夜遅くまで仕事の話で、パパはいつも忙しい。パパは、リディが回帰していると分かった次の日には、ブリスとルシアンにリディの回帰のことを全て話していた。パパの命令で、ブリスはリディの回帰に関係する調査も始めているようだった。
リディはパパの横で、ハチミツミルクを飲んでいたが、いつのまにかうとうとしていた。
「……リディは、もう寝る時間ですね」
「そうだな。もう寝るか」
ブリスが部屋を出ていくと、パパがリディを抱え上げて、リディをベッドに降ろす。パパもベッドに入って、リディの頬にキスを落とした。
「お休み、パパぁ……」
「お休み」
パパがリディを抱きしめるところまでは覚えていたリディだが、すぐに寝入るのだった。
夜中、リディはふと目が覚めた。部屋がまだ暗く、部屋の遠くの方でうっすらと明かりが灯っているだけだ。リディは目をこすりながら、隣を見る。
「……パパ?」
パパがベッドにいない。ゆっくりとベッドから体を起こす。
「パパ?」
パパがベッドにいないどころか、部屋にもいない。どうして。一緒に寝たはずで、いつもパパは朝まで隣にいてくれるのに。
パパが寝ていたはずの、ベッドのリディの横が冷たい。少なくとも、パパがいなくなって、時間が経っているということだ。
さーっとリディは青ざめた。もしかして、本当はリディと一緒に寝たくないのではないだろうか。リディがパパを殺したことを、怒らない、許すと言ってくれたけど、本当は怒っているのではないか。
「……っ、やだっ! やだぁ!」
リディはベッドを抜け出した。大量の涙を流しながら、部屋の扉に向かう。
パパ、戻ってきて。一生懸命謝るから。パパの言うこと、何でも聞くから。
部屋の扉を開けて廊下に出ると、廊下の少し離れたところを、パパとブリスが寝室に向かって歩いてきていた。
「リディ?」
「……っパパ! どぉして、いなくなっちゃったのぉ!」
「……っ、何故そんなに泣いて……」
リディは走ってパパに抱きついた。
「い゛なく、なら、ないで! うぇっ、……っ、謝るからっ! ごめんなさい!」
パパはリディを抱き上げた。リディは必死に謝る。
「ごめんなさ――」
「何を謝っている。リディは何も謝る必要はない」
「でも、パパ、いなくなっちゃうっ!」
「悪かった。俺が悪かったから、そんなに泣くな。夜中だが、魔獣の大量発生が出て、ちょっと討伐に行っていただけだ」
「……とう、ばつ?」
「そうだ。リディはぐっすり寝ていたから、起こさなかっただけ。いつも昼なら連れて行くだろ? すぐに戻るつもりだったから、リディを置いて行ったつもりはない。実際、一時間くらいだ、出て行ったのは」
確かに、いつも魔獣の大量発生の討伐は、行って、討伐して、帰ってくれば、最低でも一時間はかかる。
「パパがいなくなったわけではない? 私から離れたいと思ったわけではない?」
「何で俺がリディから離れるんだ。ずっと傍に置くと言っただろ」
「……じゃあ、パパ、私を置いて、もうどこにも行かないで! どこかに行くなら、私も連れて行って!」
「分かった。連れて行くから、もう泣かないでくれ。俺が悪かったから」
「う゛ん」
パパに抱きつく。よかった。置いて行かれたわけではなかった。結局、リディは寝付くまで、ぐずぐずとパパに抱きついて泣き続けるのだった。
次の日、リディの目は泣きすぎて目が腫れてパンパンだった。執務室で、朝からパパの膝を枕にして、目をタオルで冷やす。午前中は剣の訓練があるから、早めに腫れた目を元に戻したい。
しばらくして、リディはタオルを取った。
「パパ、まだ腫れてる?」
「少しな。大分良くなったように見える」
うーん、剣の師匠の黒騎士団副団長アランに、泣いたと思われるのは恥ずかしい。赤ちゃんみたいではないか。
「少しくらい腫れていても、リディの可愛さはなくならない」
「……そうなのかな」
お世辞だと分かっているけれど、パパって褒め上手。リディは笑みを浮かべ、パパの頬にキスしてから、その後、剣の訓練に向かった。
たっぷり剣の訓練をして、着替えてからパパとブリスとルシアンと昼食をする。それから、リディはルシアンと一緒に魔獣と慣れる練習もして、おやつの時間にパパの執務室へ向かった。すでに顔の腫れはまったくなくなり、昨日泣いたことなんて忘れていた。
パパの執務室へ行くと、パパの前には女の人がいた。誰だろう。初めて見る顔だ。パパの横まで行くと、女の人が挨拶してくれた。
「ラヴァルディ公爵令嬢、初めまして。わたくしは――」
女の人は、ラヴァルディ公爵家家門の部下で子爵の身分を持ち、ラヴァルディ領の南側の地を任されている管理責任者でもあるらしい。すごく美人な人で、彼女が座る後ろには、秘書っぽい男の人が立っている。
リディも挨拶を返し、リディはパパの横に座る。その後はパパと子爵は仕事の話を再開した。
パパは珍しく、相手の子爵が女の人なのに、会話が穏やかだった。皇女と話をした時は、すごく面倒そうで、早く会話を終わらせたい、そんな意思を感じたものだが、この子爵は違う。
もやもやっと、リディによく分からない感情が胸に広がる。パパがリディより、この子爵の方に興味を持ったらどうしよう。
パパの横に座っていたリディは、パパが会話中だというのに、パパの膝に座った。そして、子爵を監視する。パパはリディのパパなのだ。リディから取らないで。
そんなリディを見て、子爵が微笑ましそうに笑みを向けた。そして、口を開く。
「公爵令嬢、何か誤解があるようですわ。わたくしには、すでに夫がいます。彼ですわ」
子爵は、彼女の後ろに立つ男性に手を向けた。
「……え」
「ふふふ。公爵閣下は愛されていますわね。こんなに可愛らしいご令嬢をお持ちで、羨ましいですわ」
リディの勘違いだったようだ。パパとリディの関係を邪魔する存在ではなかった。しまった。変なことをしているリディは、パパに怒られる。
少し冷や汗をかきながら、後ろのパパを振り返る。すると、パパはニヤっと笑い、リディのこめかみにキスを落とした。そして、リディの耳に口を近づけ、小さい声でパパは声を出す。
「娘のヤキモチは可愛いものだな」
リディは真っ赤になった。こういうのをヤキモチというのか、と初めての感情に戸惑う。
でも、パパの娘のリディは、パパはリディのパパなのだと、このように態度で示しても、パパには怒られないのだと認識する。
それすなわち、パパにも、パパはリディのパパだと認識してもらえているわけで、パパとリディは相思相愛だ! っとリディは嬉しくなるのだった。




