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黒騎士団の訓練場で、今日のリディは闇魔法の訓練をしていた。
「やっ! やっ!」
狙ったところに影を出す訓練で、訓練場の地面のところどころに置いてある石を目掛けて、影を出す。すると、石は地面に現れた影に沈んで消える。
「できた!」
「よくやった」
パパが頭を撫でてくれる。嬉しい。
リディが出す影の先は、地下世界に繋がっている。だから、影から魔獣がでてきたらどうしようと、影を出すのはいまだに苦手だけれど、魔法が上手く使えるとちょっと楽しくもある。
その時、一人の黒騎士が訓練場に入ってきた。今日は剣の訓練はなかったが、リディの闇の魔法の訓練も傍で見ていた、剣の師匠の副団長のアランに用事があったらしい。
「失礼します。副団長、街に魔獣が出たと報告がありました。対象は青ウサギ。一匹です」
「そうか。それなら、二人、討伐に向かわせてくれ」
「……待て」
魔獣の大量発生ではない限り、討伐指示はいつも副団長のアランが出すのだという。なのに、そのアランにパパが待ったをかけた。
「青ウサギ一匹なら、リディの訓練にちょうどいい。リディが討伐しよう」
「ふぇ!? パパ! 無理!」
「青ウサギは、そこまで狂暴ではない。リディでも討伐できる。俺も一緒に行って、見ていてやるから」
「ヤダ! 私の闇の魔法、まだ初心者!」
「さっきの訓練の調子でやればできる。最初は誰だって初心者だ。難しそうだったら、俺がいるから問題ない」
「えぇぇぇ……」
行きたくない。魔獣一匹でも、すごく怖い。
「リディは動物好きなんじゃなかったか? 猫やウサギやリスなんかは好きだと言っていただろ」
「う、うん……」
「魔獣といっても、青いだけのウサギだ。青ウサギも逃げたりするが、逃げ先を予想して、闇魔法で地下世界に引きずり込んでやればいい。簡単だろ?」
そう言われると、簡単な気もしてくる。リディはしぶしぶ頷いた。
そして、リディはパパに連れられ、青ウサギがいるという街にやってきた。
「ほら、あれが青ウサギだ。的がでかいから、やりやすいだろ?」
「……」
確かに青いウサギだ。しかし、普通のウサギと大きさが違う。クマのように大きいし、なんだか目つきが悪いし、イラついているのか、片足をダンダンとしている。なんだかガラが悪いし、青色の体と赤い目の組み合わせに、なんだか目がチカチカして痛い気がする。
「パパ! あれ、普通のウサギじゃない! ……あれ? パパ、遠っ」
後ろにいたはずのパパが、少し離れたところまで、いつのまにか移動していた。
「頑張れ」
パパの応援が、小さい。
「あの小さい子、誰?」
「公爵閣下のお嬢様だってよ。初めての討伐だとさ」
「えぇ~! 小さいのに、さすが魔獣が討伐できるんだね!」
街の人たちが集まっている。リディがなぜか注目を浴びている。ここでリディが失敗すれば、パパが悪く言われたりしないだろうか。
えーい、女は度胸だ。涙目だけれど。
「……っや!」
あ、失敗した。地面に影を出したのだが、位置が微妙に青ウサギからズレてしまった。青ウサギは、リディが出した影を警戒し、移動を始めた。
「足が早いぃぃ」
ぴょんぴょんと青ウサギは跳んでいく。リディも影を次々と地面に出すが、青ウサギがそれを避けていく。
「ふえぇぇん! 青ウサギのいじわる!」
すでに半分泣きながら、影を地面に出す。どれだけ影を出しても、青ウサギは避けるばかりだ。どうしよう。やはり、リディには、まだ無理なんだ。ふぐふぐと泣きながら、急にパパの言葉を思い出す。「逃げ先を予想して、闇魔法で地下世界に引きずり込んでやればいい」とパパは言っていた。
青ウサギは、リディの影を警戒して逃げている。ということは、影を避けた後、青ウサギはどこに逃げる?
リディなりに青ウサギの逃げ先を予想し、一度影を出して青ウサギが避けるであろう先に、また影を出した。すると、後から出した影の上に青ウサギが降り立つ。
「あ!」
青ウサギは、影の中に沈んでいった。
「……できた?」
わあっと歓声が上がる。街の住民たちが、笑顔でリディを讃えている。
「初討伐おめでとうございます! お嬢様!」
「すごかったですよ~」
「さすが、公爵閣下のお嬢様だな! 将来が楽しみだ!」
リディは、顔を赤くした。なんだか褒められている。嬉しい。
パパがリディに近づいてきた。
「よくやった。さすが、俺の娘だ」
「えへへ!」
パパがリディを抱き上げると、より一層、住民たちの歓声が大きくなった。手を振る人もいて、リディははにかみながら手を振り返す。
一人、男の子が走ってリディたちに近づいてきた。手には花を持っている。
「初めての討伐、すごかったです! これ、お祝いの花です。貰ってくれますか?」
「あ、ありがとう!」
リディは地面に降ろしてもらい、男の子から花を受け取った。嬉しい。
「あの! 僕、お嬢様が好きです!」
「ありがとう!」
そう言ったところ、リディはパパに再び抱えられた。
「そういうのは、まだ早い」
「そういうの?」
パパは歩きだした。副団長アランに口を開く。
「後処理は任せた」
「承知しました」
そう言うと、リディとパパは、影を使って街から消えるのだった。
黒騎士団の訓練場に戻ったリディたちは、今日のリディの闇魔法の訓練も終了ということで、屋敷に戻った。ブリスに会って、お花を見せる。
「ブリス、見て! お花貰ったの!」
「それは、良かったですね」
パパが部屋の奥に行くのをブリスが横目で見ながら、リディに近寄った。
「ところで、兄上はなんだか機嫌が悪そうですが、何かありました?」
「え? うーん、もしかしたら、私だけお花を貰ったから、拗ねてるのかな?」
「……はい?」
「そうだ、このお花、花瓶に入れてもーらお!」
リディはメイドにお花を渡しに行くのだった。




