祈りの歌
振り下ろされた凶器を瞬時に斬り飛ばしたのは紫電の一閃だった。
「とっとと逃げろ、死にたいのか」
一切の感情を殺した言葉に、テロリストのリーダーは絶句し、こくこくと頷いて退散していく。
暴徒と化した住民をどう抑え込むか、と考えている暇はない。
狂気に染まった彼らは、すべての思考を停止させて、眼前の敵を排除することしか考えていない。
「ダキシン様に、マザーに逆らう反逆者は殺せ……殺せえええええええええ!」
絶叫しながら突撃してきた男の両腕を難なく斬り飛ばす。
もはや獣と変わらない集団が紫電を取り囲んだ。中にはやせ細った子どももいる。中には死にかけの身体を引きずって紫電を殺そうとする老婆もいる。
ここは清廉なる狂気の集う場所。
ねじ曲がった純粋なる信仰に侵された街。
「ふん……情報屋の言葉に間違いはないか」
彼女は紫電にこうも言った。
さあ、祈りの歌を歌いましょう。
「祈りの歌、か……?」
紫電が考え込んでいるところに、獣が一匹とびかかってきた。刃物を紫電の脳天めがけて振り下ろす。
それはこともなげに弾かれた。
「雑魚がいくら群れても雑魚だ」
片腕に負傷したはずの男は今度は、紫電の首筋を狙って噛みつき殺さんと飛びかかってきた。
「神よ、ご照覧あれ! 我が命に代えましても、邪悪なる反逆者を一匹、この世から消して差し上げますぞ!」
紫電はそれを刀で受け止めた。白銀の刃に、人間だったはずの獣は必死に噛みついている。唇が切れようが、歯が何本折れようが、獣は痛みを感じていないようだった。
「見るに堪えんな」
紫電はそっと刀を右手に持ち替えた。
「楽にしてやる」
避ける隙すら与えずに、ほぼゼロ距離で繰り出された寸勁に獣は吹っ飛ばされた。並みの人間が使ってすら絶大な威力を発揮する技を紫電が使えばどうなるかは言うまでもない。獣の腹には大きな穴が開いていた。
「ギャグアアアアアア!」
それでも獣は紫電を噛み殺さんとねめつける。
祈りの歌とは
「俺が歌っていい歌は、鎮魂歌くらいのものだ」
そういう意味だった、と彼は理解した。もう彼らは人には戻れないのだ。理性を捨て、狂気の信仰に身をゆだねた者たちはもう人として生きることはできない、と彼女は言いたかったのだろう。
それならばせめて、その呪縛から解放することが彼にできることだと彼女は考えたに違いない。
「死にたい者は並べ。……楽に冥府に送ってやる」
殺しの仕事に悲しみを感じたことはないはずだが、紫電の声はかすかにふるえていた。それは、獣の中にぬいぐるみを抱えた少女や、ろくに食べ物すら与えられず骨と皮だけの姿になった少年がいたからかもしれない。
こんにちは。星見です。
今回は忙しすぎるので予約配信でお届けします。
実はこれを書いた時間は午前1時……思いついたら書きたいという欲望に負けてしまいました。
そろそろ夏本番ですね。
ご体調にお気を付けくださいませ。
ではまた、次回お会いできることを祈りつつ……




