信仰の街
「我々は『羅生門』! 悪の権力者、ダキシン=オフミと預言者マザーを打倒すべく立ち上がった憂国の士である!」
テロリストのリーダー格の男は官邸の占拠後に襲撃したテレビ局で全国に放送を流していた。
よくもまああんな狙撃されやすい場所で放送と洒落込んでいるなと紫電は呆れていたが、リーダーの男はそんなことはおかまいなしだ。一通りの放送を終えると、人々が集まる広場に彼は姿をさらした。
「日本国民よ! このままではこの国は解体され、諸外国に食い荒らされる! 今こそ立ち上がるときだ! 増税地獄と超円安で外国人が跋扈するこの国を変えようではないか!」
男は牙を抜かれた人々に呼びかける。人々の反応はほとんどなかった。
「このまま座して、諸外国の奴隷となるか! それとも! 抗って、この国を護るか! 今こそ選ぶときだ!」
強い言葉はただただ無関心な人々の群れに吸い込まれて消えていく。
「自分の頭で考えろ! 思考を他者に預けるな! そ……」
言いかけた言葉は一人の青年の言葉にかき消された。どこにでもいるような個性のなさそうな青年だった。
「アンタ、ただの人間だろ。救世主の言葉に従った方がいいよ。だって、これまで何年もの間、マザーはたった一度の間違いもなく俺たちを導いてきたんだから」
少しの間、と呼ぶには長く感じられる沈黙が立ち込めた。
この世界を間違っていないというのか。
今置かれている状況を間違っていないというのか。
餓死した子どもがそこかしこに転がっていて、共食いをしている村もある今の状況を正しいというのか。
北海道がロシア帝国に、沖縄が中華連邦に占領され、住民が奴隷となっていることも正しいというのか。
「このバカものがッ! 貴様の足元に転がっている死体を見ろ! こんな赤子が死ぬような世界が正しいかッ!」
「正しい」
男はその返事に言葉を失った。
「これは正しい犠牲なんだよ。バカはお前の方。マザーはいつだって、殺すべきものを殺し、生かすべきものを生かしてきた。これまでも、これからもそうだ。だから、正しいんだ。間違っているのは、お前たちだよ」
もう駄目だ。根本的に、彼らは“壊れている”。それが男の感じたことだった。
「ダキシン=オフミのしてきたことも正しいというのか?」
「ダキシン様は救世主の代理人。もちろん、正しいに決まっている。ダキシン様に歯向かうお前たちこそ反逆者」
無気力な青年の言葉に呼応して、亡霊のように人々は立ち上がった。痩せこけた身体を無理やり動かし、その手にはこん棒やナイフなど様々な武器を持っている。
「反逆者は……消せというダキシン様のご命令」
「よせ、我々はお前たちに向ける武器はない! それに、そのボロボロの姿で戦おうとするな!」
「この命捧げても、反逆者には死を……」
青年は呻くように言う。他の人々も呻き声を上げながら、テロリストたちに向かっていく。
「お前たちは生きたくないのか?」
「反逆者には死を……反逆者には死を……反逆者には死をッ!」
絶叫しながら青年と人々はテロリストたちに武器を振り下ろした。
こんばんは、星見です。
多忙につき(?)色々更新が遅れてしまいました。期待されていた方、すみません。
基本的に再筆版は本編の深掘りをしているので、話があっちゃこっちゃに行きます。
しかしまあクソ暑い5月ですね……冷房の出番がもう来るとは……
8月には最高気温50度超えるんじゃないでしょうか。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




