土曜日の午後 1
少しばかりの胃痛を感じながら日々を過ごし、週末に予定通り昴を迎えに行って、今回は仕事があるので日中は遊べないことを伝えた『日本』での土曜日の午後、まずは春の巫女姫であるラズリィー到着の一報が届いた。
「巫女姫様?」
丁度、昴の部屋でお茶をしつつ予定について話していた時に、侍女のアマリカさんから伝えられたので、昴が興味を示した。
「うん。この世界の季節を調整している巫女さんみたいな人だよ」
と、大雑把に説明しておく。
「そんなお仕事があるんだ。ファンタジーだね」
「うん。話してた通り、夕食は一緒に出来るから。ごめんね」
「お仕事なら仕方ないよー。待ってるね。いってらっしゃい」
気分を害した様子もなく送り出してくれた。
良かった。
どうして巫女姫様に会わないといけないのか、とか。
神事について詳しくつっこまれたくなかったので安堵のため息をつく。
そうして、迫り来るもう1つの胃痛の原因に向かう。
「ふぶきさん、お久しぶりです」
アマリカさんの伝言通りに応接室へ入ると、ラズリィーがソファーから立ち上がって、いつものふんわりとした笑顔で挨拶をしてくれた。
「ラズさん、久しぶり。元気にしてた?」
「ええ。とても」
ラズリィーは、相変わらず可愛い。
ハッキリと自覚してしまった気持ちがあるせいで漫画みたいに背景に花が咲いていても可笑しくないような気がしてくる。
「吹雪くん、昴ちゃんは大丈夫そうだった?」
「あ、はい。お仕事だからで納得してくれました」
ラズリィーの対面に座っていた良さんに聞かれて答えた。
「そう。まあ、榊原さんと穂積さんは明日になりそうだから、今日はもう解散でもいいけど、どうする?」
どうやら、夏の巫女姫の榊原 花梨さんと、秋の巫女姫の穂積 麗さんは、明日の到着になるようだ。
凛々しい軍人のお姉さまと、若干年上だと思うけれどオタクっぽいお姉さま。
大丈夫。
忘れてはいない。
なにせ、この世界で知り合いになった中でも数少ない女性だしね。
男性陣は、よく会う黒の領地の人ならば覚えているけれど、他の領地人はあまり自信がない。
白の領地では、平島さんと一緒にいる時にたくさん声をかけられたけれど、適当に笑って誤魔化しただけで本気で覚えていない。まあ、杉浦さんと平島さんさえ覚えておけば、問題ないだろう、うん。
「どうするって言われても。こちらも予定はないしなぁ」
呼び出し=冬の巫女姫代打として紹介されてそのまま神事の練習に入る。
そのつもりだった。
「ラズちゃんも、今夜は城内に泊まるから、自由に遊んでもいいよ?明日の午前10時にココに集合ってことで」
良さんは、それだけ言うと、テーブルの上の珈琲をグイッと飲み干して応接室を出て行った。
当然、室内には、僕とラズリィーだけになる。
「えーと、どうしよっか」
自分1人のことならば、どうとでも時間を潰せるけれど、ラズリィーはお客様だ。
このまま、王城内で放置という訳にはいかないだろう。
それに、久しぶりの2人の時間だ。
正直、嬉しい。
気持ちが浮き足立つ僕と違って、ラズリィーは別のことを考えていたようで、
「真王陛下は、お姉さまのことしか言わなかったけれど、冬の巫女姫様はもう到着してるのかな?ふぶきさん、知ってる?」
と、真面目な顔で聞かれた。
ですよねー。
今回、ラズリィーは、遊びに来たわけじゃない。
自分の能力のことも知らず、ずっと『日本』で暮らしていた冬の巫女姫様が、恙無く冬の神事を終えられるように、と神事についてレクチャーしに来たのだから。
「あ、それはね・・・」
四季の巫女姫様、勢揃いの段階で言うつもり、あわよくば良さんに全ての説明を丸投げ出来ればと思っていたので、内心物凄く動揺している。
どうする?
誤魔化す?
でも、ここで誤魔化しても明日にはバレるわけで。
今言わずにおいて、明日まで先延ばししたら、どうして言ってくれなかったのか、とラズリィーの信用を失うかもしれないことを考えれば今しかないのか。
腹を括るか!
「えーと、その冬の巫女姫って、僕がやるんだ」
勇気を振り絞って言葉にしたけれど、返ってきたのは、言葉ではなく、戸惑ったような瞳で僕を見つめるラズリィーだった。
「明日、明日ね、良さんから詳しい説明があると思うんだけどね。今回の冬の祭典の神事は、僕が代打でやることになっちゃってね。本当の冬の巫女姫様は、まだかなり幼いから、また今度ってことでっ」
慌てて言葉を並べて説明しようとするけれど、どこまで詳細に話して良いのかもわからなくてパニックになった。
とにかく、僕は代打であることを強調して伝えると、まだ困惑気味ではあるものの、なんとか頷いてくれた。
「なんとなく、だけど。わかったわ。だから、今年は一般公開がないのね」
「うん、そうなんだ。っていっても、来年がどうなるのかもまだ未定みたいだけど」
冬の巫女姫としての能力の封印を解いて、その上で、木戸さんが家庭内で話し合って決めることだ。
最悪の場合、僕がずっと代打かもしれない。
さすがに、そこまでラズリィーの詳しく説明することは出来ないので黙っておく。
「そう。早くお会いしてみたいわ」
「そうだね。会えるといいね」
とりあえず、『男』である僕が、巫女姫の代打なんてとんでもない!と怒られなくてよかった、と安堵していると、
「じゃ、今日は本当に予定がなくなっちゃったね」
と、再度現実を突きつけられた。
「そうだね。ラズさんは、何かしたいことある?」
「特にはなにも。ふぶきさんこそ、別のお客様が来ていたんじゃないの?」
「あ、ああ。従姉妹がね、週末だけ遊びに来るようになったんだ。でも、今週は仕事だからって納得してもらってるから大丈夫だよ」
「まあ。イトコさんが。私、お土産にカップケーキを焼いてきたんだけど、沢山あるから良かったら」
ラズリィーは、そう言うと持ってきたバッグの中から紙袋1つ取り出した。
「そんな、悪いよ。他の巫女姫様たちの為に持ってきたんでしょ?」
「大丈夫。皆さんの分も充分にあるから」
そう言われて差し出された紙袋を受け取る。
「甘いもの、お好きならよいけど」
「ありがとう、大丈夫。えと、僕も皆で食べようと思って焼き菓子を幾つか作ったんだけど、せっかくだし先に少し食べちゃう?」
もう直ぐ午後3時も近いし、お茶の時間には良いだろうと軽い気持ちでそう言ったら、
「まあ!じゃあ、せっかくだから、イトコさんもご一緒にどうかな?」
と満面の笑顔で言われた。
ラズリィーと昴と一緒にお茶?
パッとその情景を思い浮かべる。
2人は、年齢も近いし、案外良いお友達になれるかもしれない。
でもなあ。
昴に、いつものように『吹雪お兄ちゃん』て呼ばれてるところを見られるのは恥ずかしいかも。
「駄目、かな?」
少しおねだりっぽい感じで見つめられて、一瞬で何を考えていたのか吹き飛んだ。
「大丈夫だよ!あ、もしかしたら、椎名さんも一緒かもしれないけどっ」
「まあ、それは楽しそうね」
「じゃ、じゃあ、行こうか」
何故だか、勢いでラズリィーと昴を対面させることになってしまった。
これで、よかったんだろうか。
昴も、ラズリィーも、どちらかに寂しい思いをさせずにすむのは間違いないのだけれど、何となく不安で落ち着かない気持ちになった。
どうしてだろう。




