人形の思い出
色々な雑談からわかったことをメモに書いて、侍女のアマリカさん経由で良さんに届けてもらった後、サニヤとリア、そして人形は抱っこ状態にして昴を迎えに役所に向かうことにした。
夕方と聞いているので、少し早めに午後3時に出発だ。
出迎えがいないと昴が寂しいかな、と思ったからだ。
「私も抱っこが良いー!」
王城出る門の手前でリアが少しごねた。
「帰り道にね」
「約束よー!」
弾むように歩く子犬姿のリアと違って、人形は頼りない布で出来た手足なので外の道を歩かせる気にはなれなかった。どうせ重さはほとんどないんだから、リア人形も両方抱っこすれば良いんじゃないかとも考えたけれど、多分、確証はないけれど、人形はリアが、というか、原始種族を?警戒しているような気がしたので止めた。
帰り道は昴がいるから、人形は昴に任せよう。
あれ、でも、中身がおっさ・・・成人男性の人形を抱かせるのは不味いか。
うーん、でも、リアも昴に撫で回されるのに少し疲れてたみたいだしなあ。
役所について受付へ行くと、きちんと連絡がいっていたみたいですぐに応接室へ通された。
職員のお姉さんが持ってきてくれたお茶を飲みながら待っていると、無事到着した昴が真也さんと一緒に応接室へ入って来た。
「吹雪お兄ちゃん!ただいま!」
今回は、中学校の制服ではなく、動きやすそうなカジュアルスタイルで手には少しスクールバッグを持っている。お泊りして迷宮へ行く気満々だと直ぐにわかる。
「おかえり。真也さんも、ありがとうございます」
ただいまと言われたので反射的におかえりと返事をしつつ、真也さんにお礼を言う。
他にも職員はいるだろうに、毎回真也さんと顔を合わせるということは、恐らく良さんが僕の担当にするように手を回してくれているのだろう。
真也さんにお礼と、帰還の日時の話し合いをして役所を出た。
役所から王城まで、左程距離はないとはいっても秋の夕暮れは早い。
治安が悪いとは思っていないけれど、女の子を連れて歩くのはよくないと思ったからだ。
「ふふっ、懐かしい」
いつのまにか、隣を歩く昴の腕の中に人形がいた。
人形は、遠慮なのか小休止モードなのか動かないし話さない。
リアは、当然のように僕の腕の中にいる。
「懐かしい?」
「そぉだよ。コレ、昴も一緒に作ったヤツでしょ。こっちに持ってきてたんだ。部屋になかったから捨てられちゃったのかと思ってたけど、よかった!」
へへっと昴が照れたように頬を染めて笑った。
その笑顔に少しだけドキリとしながらも、言葉の意味にもドキリとさせられた。
「そう、だっけ」
僕には、この人形を作った時の記憶はない。
昴は、その時のことを知っているのか。
「そぉだよ。昴が小学校の時、家庭科の余り布で人形作るのが流行って、そうそう、春休みに吹雪お兄ちゃん家に泊まった時に作ってたら、お兄ちゃんも作ってみるっって!」
昴が記憶を思い出すように遠くを見ながら話す。
「ほら、この腕のトコ。ココ、昴が縫ったんだよ」
そう言って昴が人形の右腕の付け根辺りを見せてくる。
成程、確かに縫い跡が違う。
そこだけ、不揃いではなく綺麗に均一に糸が通っていた。
小学生女子よりも下手だった自分にガッカリする。
これは、本気でリベンジするべきか。
「これを作ったお泊り会が、お兄ちゃんに会った最後だったし、お人形どうしたのか気になってたんだ」
ポツリと呟いた昴の声は少しだけ震えていた。
「そっか。僕が高校入る少し前から、具合悪いこと多くなって会えなかったもんな」
そう言って、昴の頭をポンポンと軽く叩いた。
そうか。
この人形を作ったから。
この人形を作った前後に、何かが、能力を使うような何かがあったから、僕の体調が急激に悪化したのかもしれないな。
正確には中学に入る頃からジワジワと悪化していたけれど、高校入学直前にも大きく体力を奪われたような感覚を感じたことがあったのだ。
それが、きっと能力使用の痕跡。
やはり、何もかも繋がっているのだ。
僕の記憶は消し飛んでしまったけれど、そうしなければいけない程の何かが。
昔の僕が、自分で決めたこと。
記憶が消し飛ぶこと。
自分の寿命が縮むこと。
こうやって昔を思っている僕が、不安になることも予測がついていただろうに、あえて何も残していない意味。
僕は、何かを見落としているのかもしれない。
一度、冷静に考え直す必要があるのかもしれないけれど、そんな余裕があるだろうか?
迷宮攻略しつつ、昴と週末を過ごし、そろそろ始まる冬の祭典の準備。
色々な予定が詰まっている。
落ち着けるとしたら、冬の祭典が無事に終了した後かな。
今は、余計なことを考えている余裕はない。
人形がいつまで動けるのかもわからないから、出来るだけ迷宮攻略にも力を入れたい。
あとは、無事、封筒を開封したことで神様からの接触の可能性も忘れないようにしないと。
脳内でグルグル考え込んでいる内に王城へ到着した。
昴は、前回と同じ部屋に寝泊りすることになっている。
一緒に夕食を食べて、迷宮はまた明日からだ。
昴が時差ぼけを感じるかもしれないので今回は比較的穏やかな階層で練習するつもりだ。
いくら安全を確約されていても、自分でも始めていくような階層に連れて行く勇気はない。
今はまだ。
ただ、いつかは連れていかなければならないのだろうと薄々感じてはいる。
そうでないなら、神様も態々、加護なんてつけないだろう。
昴と一緒でなければならない理由。
一体、何なのだろう。
まあ、それも近いウチにわかることになるのだろうな。
その夜、人形と一緒に寝ると言った昴に、サニヤとリアを人身御供に差し出すことになった。
さすがに、いつ動き出すかわからない成人男性の思考回路を持った人形と一夜を共にさせるわけにはいかない。
あせって、リアでいいだろ、とサニヤとリアを差し出した僕に、微笑ましいものを見るような視線で、
「ふふっ。そんなにそのお人形が気に入ってたなんて知らなかった」
と、慈愛の視線を向けられた。
違うから。
お人形がないと寝れないわけじゃないから。
昴の視線が優しすぎで居心地が悪くて逃げるように自分の部屋へ逃げ帰った。




