過去からのメッセージ 5
結局、神様に急かされた上に、人の手を借りてまで手紙の封印を解いたにも係わらず、わかったことは少なかった。
一番大きな収獲は、僕の前世か何からしい『ご主人様』の部分以外にも記憶の欠損があることがわかったことだろうか。
手紙から出てきた人形曰く、『迷宮関係の記憶』が消し飛んでいるらしいので、基本的な生活の記憶がしっかりあったせいで違和感を感じなかったのだろうか。
元々の死因が、能力の大きさに器、つまり肉体が耐え切れなかったことだろうと聞いているので、記憶が大幅に失われる必要もないくらいに過去の僕は能力を使っていなかったのかもしれない。
僕の死因の直接的な原因かどうかはわからないけれど、長年苦しめられてきた特異体質が加速したらしい、先代、冬の巫女姫である立野 霙さんの死、もしくは失踪時期に過去の僕と、人形の製造者と立野さんの3人で何かを行ったことは間違いないようだった。
オマケとして得た、暮さんと人形の製造者との微妙な人間関係の知識は、深く考えないことにした。
どうやら、暮さんは、人形の製造者の死を自身の所為だと思っていたようだけれど、それが嘘か本当かは別として、人形が違うと否定したのだから、部外者である僕が余計な口出しや勘繰りをするべきではないと思う。
「ねえねえ!昴ちゃんっていつ来るの?」
自室のベッドの上で寝転がって、アレコレ思案していた所に、人形から声がかかった。
どうやって登ってきたのか、すぐ横まで近付いて来ていた。
「んー、今日の夕方くらいだって聞いてるけど」
時差の関係で、今日の夕方が、日本の土曜日早朝になるらしい。
正確な時差は、空間の微妙なズレがあったりして、役所にある精密な機械でないとわからないらしい。
同じ惑星の上じゃないから、ズレがない方が不自然なのかな?
そういう難しいことは専門家に丸投げして、そういうものなのだと思うことにしている。
人形は、僕が預かることになった。
元々、僕宛ての手紙の中身だし、人形本人の希望でもある。
暮さんは、少しだけ離れ難そうにしていたけれど、それを言葉にすることはなかった。
勿論、鍵として使った万年筆は、暮さんに返却した。
暮さんは、それを『お前にあげたものだから』と、人形に渡そうとしたけれど、『それは製造者であって俺じゃない』と受け取らなかったので暮さんが持ち帰った。
良さんは、別れ際、何か新しい情報がわかったら教えるようにと、この人形が動いている限りは迷宮攻略に暮さんが同行してくれそうだね、と笑っていた。
微妙な気持ちだ。
勿論、暮さんが協力してくれるのは嬉しいのだけれど、人形を人質にしているみたいでスッキリしない。
人形本人は、どう思っているのかわからない。
今は、夕方には恐らく来るだろう、昴のことが気になるようだ。
「現役女子中学生とお話なんて緊張しちゃうなー」
ソワソワと落ち着きのない様子の人形を見て、そんなものだろうか、と不思議に思う。
良さんも、松田さんも、昴に対して特別変わった反応はしていなかった。
声質で成人男性だと思っていたけれど、案外若い人なのだろうか。
女子中学生に、興味を示す程度には。
「あの、もしかして、中学生が恋愛対象だったりしないよね?」
不安になって聞いてみたら、人形はボフッと僕のお腹の上にダイブして、
「くはっ。なにそれ、ウケるんだけど。あはは」
と、笑い転げた。
「ないわー。俺、もう40越えてるし、可愛い女の子は好きだけど、ないわー」
あ、そんなに年上なのか。
思いもかけぬ情報に、安心と、過去の僕がどうやって知り合ったのかが少しだけ気になった。
「それにまあ、こんな身体で、そういうのは考えても仕方がないよ。電池が切れたらそれで終わりだしね」
確かに、あくまで高度なプログラミングをされた話す人形なのであって、生きているわけではない。
40代男性の知識と常識があれば、無理だとわかっている行動は控えるようにするだろう。
「その電池って、どのくらいで切れるの?」
見た目は残念な出来ではあるけれど、ここまで人間味ある言動をする人形だ。
電池の消費量が物凄い勢いであっても不思議はない。
「んー、出来れば迷宮350階層まで付き合いたいけど、どうなるかなー」
人形にも、正確な期限はわかっていないようだ。
しかし、一緒について来るつもりだったのか。
布で出来た人形の身体で大丈夫なのかな。
「本当に一緒に来るの?その身体燃えたりしない?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。そこは、製造者と同じで迷宮内のあらゆる攻撃無効の能力が付与されてるからね」
「!」
人形の言葉に驚いて、お腹の上に乗っていた人形を抱き上げて目線を合わせた。
「それって、神様の加護!?」
「違うよ。純粋に能力の1つだね。製造者以外に使えるって話はどこからも聞いたことないけどね」
「それって、異端なら使える可能性があるかもしれない?」
この世界に存在する全ての能力が使えると言われている異端なら、やり方さえわかれば同じことが可能なはずだ。
そうすれば、僕は自分1人で350階層まで進むだけで良くなる。
そんな期待を、人形はあっさりと否定した。
「原理的には使えるはずだけど、その使い方を理解するのは難しいみたい。試しに、知り合いの異端に説明してみたことあるけれど、発動しなかった」
知り合いの異端というのは、恐らく暮さんのことだろう。
暮さんが、使いこなせないというのは、非常に重く受け止めざるを得ない。
使えるように練習するよりも、地道に進んだ方が早そうだ、と早くも諦めかけたところに駄目押しがきた。
「吹雪君は、相当努力しないと使えないと思うよ。ソレを具現化する魂の記憶そのものが封印されてるから。なんか、吹雪君として生まれる前から、魂に刻まれている封印だから、こちらの人が聞いただけで使えるような単純な能力も新しく魂に刻まないと駄目だって言ってたよ?」
「ええ?」
「だから、自力で体温調節出来ないし、出来ることは少ないんだって、昔のキミが言ってたよ?」
齎された新しい情報に、思わず下唇を噛んだ。
昔の自分でさえ、どうすることも出来なかった、封印されている記憶。
それには心当たりがある。
サミヤやリアも、それらしいことを言っていたことがあった。
本来なら誰でも普通に自分の使える能力がわかるはずなのに、僕にはソレがない。
最初からイメージして作り上げないと使えない。
死ぬ前の笈川 吹雪が人形を作った所為で消し飛んだのは、迷宮関係の記憶であって、能力の使い方ではないのだ。
僕が、本来使えるはずの能力の記憶を失っている原因。
『ご主人様』
ここでもまた、その存在が重く圧し掛かって来た。




