百九十二.説教できる立場であること
曹操の陣営を訪れた陳宮。
陳宮は、かつて董卓の手より曹操を助けたが、その後、曹操の本性を知って彼を見限り、行方をくらました旧知であった。
「ほほう。これはこれは陳宮殿ではござらぬか。まさかこんな形で再びお会いするとは思いもしなかったですぞ。・・・して、今、貴公は私に『進軍を止めろ!』と忠告したようだが・・・これは私の聞き間違いかな?」
「曹操殿・・・いえ、聞き間違いなどではござらぬ!私は貴殿を止めに来たのでござる!!曹操殿!徐州への攻進はお止め下され!陶謙殿に罪はござらん!悪いのは全て張闓である!!それに・・・」
陳宮は軍を進めようとする曹操の前に立ち、彼を徐州へ行かせまいと必死の説得を始めた。
しかし、そんな彼に対して、曹操は皮肉を浮かべた笑みでこう問いかけた。
「陳宮殿・・・君は今、どこで何をしているのかね?」
「うっ!? ううう・・・そ、それは・・・」
「どうした陳宮君?ほれっ、しっかりと答えてみんしゃい。んっ?」
「ううう・・・。」
この曹操の問いかけは、陳宮にとって痛恨の一撃であった。
曹操の性格の悪さが滲み出る会心の一撃。
曹操は、陳宮が今どこで何をしているのか全て知っていた。
知っていてなお、相手に喋らせようとする曹操の意地悪さが、陳宮の心を強くいたぶっていた。
「答えられないなら私が答えてやろう。・・・陳宮君。君は今、東郡で従事という小役人を務めているのだろう?違うかね?」
「・・・その通りです。」
「やはりな。・・・陳宮君。先ほどの話より、君が陶謙と親しい間柄であることはわかった。そして、君が私を説得しに来た気持ちもよくわかる。しかしだね、陳宮君・・・私は揺るがない。絶対にだ。」
「・・・」
「いかに恩のある君の願いだとしても、この曹操の恨みと憤りを解くのは不可能だ。私は陶謙を許さない。奴を冥府にいる閻魔大王に引き渡すまで、私の怒りは収まらないだろう。・・・諦めるんだな。」
「・・・しかし、曹操殿。これは明らかに私怨ですぞ。これでは将軍の名に傷が」
「黙れ!!」
曹操は先ほどの余裕のある口調から一変して、声を荒げて陳宮を一喝した。
「父と弟の無念を晴らすのが、なんで私の名声に傷がつくことに繋がる!!」
「ですが!」
「黙れ!君は、かつて私を見捨て、野に逃げた卑怯者ではないか!!そんな君が私に説教する資格があるのか!!」
この曹操の発言に陳宮は顔を赤らめ、逃げるようにその場を立ち去り、陳留の太守『張邈』の元へとその身を寄せて行った。
こうして曹操は誰の言葉も聞かず、怒りに任せ、『報讐雪恨』と書かれた大旗を掲げ、徐州へと進軍を開始したのであった。




