百七十七.一寸先は闇である
悪いことは続くモノである。
しかし、人によってはそれに気づかずに、良いモノと捉えてしまうこともある。
今の董卓がまさにそれであった。
董卓にとって、呂布は信頼できる家臣であった。
そのため、長安の城門より近づいてきた呂布の姿を見た董卓は満面の笑みを浮かべたのであった。
呂布の心中を知っていればその逆であっただろうが・・・
「おおっ!呂布か!よく来てくれた!気がかりなことが続いておったので、ついお主を警戒してしまったぞ!!」
「ははは!太師!ご安心めされい!この呂布がこれより太師の警護を務めます故、大船に乗ったつもりで帝位に御就き下され!」
「うむうむ。お主が警護を務めてくれるなら心強い。呂布よ。頼んだぞ。」
「はっ!!」
こうして呂布は董卓の警護の任に就いたのであった。
城門の前にいた人影は王允、黄琬、士孫瑞、皇甫嵩、淳于瓊などの董卓暗殺チームの面々であった。
彼らは皆、胸中を悟られぬように拝伏(=ひれふすこと)して、董卓一行の到着を歓待した。
「太師。此度はおめでとうございます。」
「うむ。王允殿。出迎え感謝いたす。約束通り、わしが帝の位に就いたらお主をもっと重く用いようぞ。」
「ありがたきお言葉。・・・では太師。明日の参内に備え、今日は丞相府にてお休み下され。」
「うむ。そうするとしよう。」
董卓は自分を暗殺しようとしている暗殺チームの進言に従い、丞相府で一泊することにしたのであった。
そして翌日。
董卓は一軍を引き連れ、宮中の北掖門へと差し掛かっていた。
「太師。これよりは掟により、少数の兵しか連れて行けませぬ。」
「わかっておる。・・・お前たちはここに残れ。」
「「は~い!はいはい!アイアイサー!!」」
李粛の言葉に従い、呂布と彼の部下数名を除いた兵を北掖門に残して、董卓は宮中へと進んだ。
馬車に乗り、しばらく進んでいると殿門が見えてきた。
殿門を見た董卓は、
(おっ!? いよいよわしが皇帝になる時が近づいてきた!・・・くぅ~緊張するなぁ~!!)
と期待に胸を膨らませていた。が、それもすぐに終わることとなる。
「・・・って、何だあれは!殿門の両側に誰かが立っておる!あやつらは何者じゃ!!」
「あれは、王允殿と黄琬殿にございます。太師をお迎えに参ったのでしょう。」
「そ、そうか・・・何事であるかと焦ったぞ。」
「ははは。ご安心下され。全ては順調に進んでおります故、どうぞこのままお進みなされい。」
「う、うむ。」
馬車の後ろにいる李粛の言葉を聞いて、董卓はそのまま殿門へと車を進ませた。
そして・・・
「うっ!?」
董卓は思わず声を上げた。
殿門へと近づいた瞬間、王允と黄琬の両名が腰よりゆるりと剣を抜き、その刃を董卓の方へと向けたのだ。
「り、李粛!李粛!奴らは一体何をやっておるのだ!わしを迎えに参ったのではないのか!!」
董卓は後ろを振り向き、馬車の後ろにいる李粛に尋ねた。
すると、李粛は笑みを浮かべてこう述べた。
「先ほど申した通りにございます。彼らは太師を迎えに参った者たちにございます。彼らに従い、安心して『冥府』へとお行き下さいませ。」




