百二十二.磐河の戦い その二
袁紹軍陣営より飛び出して来た武将は『文醜』であった。
文醜は先の董卓討伐連合軍に初めは参加していなかったのだが、洛陽奪還後に袁紹に呼ばれて、顔良と共に袁紹の指揮下に加わっていたのだ。
文醜は公孫瓚に駆け寄って戦いを挑んだ。
「どけっ!下郎が!貴様に用はない!!」
「お前になくても私はお前に用がある!公孫瓚!覚悟!!」
公孫瓚と文醜が槍を交える。
必死に槍を交える公孫瓚であったが、文醜は袁紹軍随一の武将である。
公孫瓚は文醜の敵ではなかった。
数合交えた後、
(これは敵わん。)
と、公孫瓚は橋の東に構えていた味方の陣へ逃げ帰った。
「ははは!怒って突撃してきた割にはたわいない!」
文醜は勢いそのままに敵の中軍に攻め入り、立ちふさがる敵を蹴散らして、どこまでも、どこまでも公孫瓚を追いかけまわした。
山を越え、谷を越え、河を渡り、森林を駆け、砂漠を歩み、荒野を走り、海を泳ぎ、雪を滑り、沼地をヌメヌメして、公孫瓚はひたすら逃げた。
そして気付けば公孫瓚は味方と離れてしまい、ただ一騎で山道をひた走っていた。
(ま、撒いたか・・・って嘘ぉ~!)
馬を走らせながら背後を振り返った公孫瓚は驚愕した。
逃げに逃げて、完全に撒いたと思っていた文醜が背後から迫って来ていたのだ。
「逃げるな~公孫瓚!生命おしくば、降伏しろ!今なら生命だけは助けてやる!!」
「ちょっとお前しつこいぞ!いい加減にしろ!!」
「私は追いかける!どこまでも、どこまでも追いかける!君を追い続けるよ!!」
「う、うわ~~~!!」
文醜のエンドレス・ストーカー発言に肝を冷やしながら、公孫瓚は馬の腹を蹴った。
馬は速度を上げて、山道を駆け抜けた。
しかし、あまりにも速く駆けたため、馬は岩に躓き、前脚を折ってしまった。
当然、公孫瓚は落馬。
ゴロゴロ、ゴロリン、ゴロゴローン!っと回転しながら地面に叩きつけられた公孫瓚。
傷ついた体でふらふらと立ち上がる彼に文醜が迫る。
「これで終わりだ!公孫瓚!覚悟!!」
「や~ら~れ~た~!!」
大迫力で迫りくる文醜に、公孫瓚は思わず目を瞑ってしまった。
公孫瓚絶体絶命の大ピンチ!
しかしその時、崖の上から何者かが両者の間に割って入った。
割って入った男は眉が濃く、目が大きい偉丈夫(=筋肉モリモリマッチョマンの変態)だった。
男の手には槍が握られており、彼はその槍を文醜に向けて構えた。
「むっ!貴様何者だ!そこをどけい!!」
「・・・(フルフル)」
「くっ!どかぬというのか!・・・ならば死ねっ!!」
文醜と謎の男が槍を交える。
文醜は馬上にて男に向けて槍を連続で突き出した。
しかし、男の槍捌きは見事で、文醜の苛烈な攻撃を難なく捌いた。
そして、お返しだと言わんばかりに、男は文醜以上の槍の突きを披露した。
「わっ!わわわわわ!な、なんて槍捌きだ!」
フェイントを織り交ぜながら繰り出される男の槍の突きに文醜は翻弄された。
必死に防ぐ文醜と余裕たっぷりで攻める謎の男。
どちらが優勢なのかは明らかであった。
そして・・・
「くっ!なんて奴だ!・・・公孫瓚!命拾いしたな!お前の首は後日頂くとしよう!!」
文醜は男の槍捌きを前にして公孫瓚捕獲を断念し、馬を走らせその場から立ち去った。
「・・・ふぅ。」
男は文醜が立ち去るのを見届けると、公孫瓚の方へと顔を向けた。
「危ない所でしたな。」
「あ、ああ。助けてくれて感謝する。・・・して貴公は一体何者であるか?」
公孫瓚の問いに男はこう答えた。
「拙者の名は趙雲、字は子龍。もと袁紹の家来でござる。」




