百七.三度目の正直
「ぜぇぜぇぜぇ・・・あっぜぇぜぇぜぇ・・・いっぜぇぜぇぜぇ。」
「はぁはぁはぁ・・・うっはぁはぁはぁ・・・えっはぁはぁはぁ・・・おぇっ。」
徐栄の見解とは裏腹に、曹操と曹洪は大河を渡りきっていた。
下流へ下流へと押し流されながらも2人は気力を振り絞り、対岸へとたどり着いたのだ。
2人は海岸から少し移動して、草むらに横たわり休息を取った。
「あ、兄上。だ、大丈夫ですか。」
「こ、ここが天国でなければ大丈夫だ。」
「は、ははは。ここは天国じゃなくて地獄かもしれませんよ。・・・すこし周囲の様子を探ってきます。」
「うむ。気を付けるのだぞ。」
会話を終え、曹洪が立ち上がろうとしたその時、彼らに向かい誰かが叫び声を上げた。
「そこで寝そべっているのは誰だ!!」
「「!?」」
2人はよろめきながら立ち上がり、叫び声がした方を見た。
それは先ほど戦っていた徐栄兵の鎧を着た兵士であった。
((ま、まさか・・・))
曹操と曹洪の両名は「ここまで酷い仕打ちがこの世にあろうか?」と自分の眼で見た彼の姿に絶望を感じた。
何という不運であろう。
流されながらも必死で泳いだ先が、敵陣のいる場所であったのだ。
(た、対岸に配置している徐栄の陣まで泳いできてしまったのか・・・んなアホな!!)
焦点の定まらぬ目でその姿を見た2人はすかさずその場を離れた。
「あっ!? こら逃げるな!であえ~!者どもであえ~!!」
彼らを見つけた徐栄兵はすかさず援軍を要請し、彼らの追撃を開始した。
ふらふらと走る2人を無数の兵たちが追いかけてくる。
体力全開の徐栄兵たちと虚脱感溢れる曹操たち。
彼らとの距離はあっという間に縮まっていき、ある程度の距離まで近づかれた時、徐栄兵たちは曹操たちに向かい矢を放った。
曹操たちは力を振り絞って飛んでくる矢を剣で薙ぎ払い、野を駆けた。
しかし、逃げた先にもまた敵兵の一団が潜んでおり、曹操たちはもうどこにも逃げることが出来なくなってしまった。
周囲を敵に囲まれ絶体絶命の曹操たち。
曹操を励まし続けた曹洪もこればかりは声が出なかった。
「あ、兄上。」
「ああ、曹洪よ。最期は敵の屍で山を作り、曹家に恥じぬ死に方をするとしよう。笑われぬことのない華々しい立派な死を演じるのだ。」
「・・・はい。」
2人は剣以外は裸一貫のスタイルで、自分たちの周囲を囲んでいる徐栄兵たちに向かい猪突猛進して行った。
このまま曹操は死ぬのか?
超世の傑だと称された青年も現実の前に敗れてしまうのか?
曹操自身もそう思ったその時、彼の耳に馬の蹄の音が聞こえてきた。
曹操の家臣である『夏侯惇』が馬を走らせ、彼のもとに駆けつけたのであった。




