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伝書狗ってリアルな小道具だね

 少し強めの白い世界。ゆっくりと現実の光量に戻り色相が蘇って行く。

 僕は緊急のRT終了コールを宣言した。回線切断よりは後遺症は少ないらしい。


「……洸次、何してたんじゃ」

 僕の目の前にもう女子隊はいない。ハカセの杜に戻っていたからね。いや、アクセスが終わっただけだね。

「さっきからブツブツしゃべっていたが、データは大丈夫、復帰しとったろう」

「いや、選択肢なしで前回のモードにジャンプしていたよ」

「ほえ?」、ハカセは膝に載せていた端末機を覗きこんだ。

「戦国ワールド関ヶ原リアルモードのキラーリスクありのかえ?」

「うん。合戦のずいぶん前にはなっていたみたいだけど」

「……そうかね。そうだと、まだ調整が不十分だのぉ。もちっと修正が要るのぉ。実際ワシのマシンで洸次の座標をチェックしとらん」

 僕は地べたに座り込んだ。


「まぁ休ませてよ。一時間以上歩かされたんだからさぁ」

「嘘つけ。十分もアクセスしとらんぞい。それにお前なんちゅう姿勢だ。新開発の趣味かえ」

 僕は、この時までずっと後ろ手の格好をしていたと気づいた。鰯丸が結び損ねて、兎の子さんが改めて僕を縛っていた縄は、現実には存在しないんだからね。


 どのワールドマップやシナリオでもRTのアクセス者は、終了後もこんなギャップに戸惑うケースが多い。だから、RTはアクセスの前後十分以上レンタルームや店内に留め置きされる。


 時差ボケでなく、俗に言われるRTボケ防止策なんだ。だけど、お客の回転が激しくて武闘派の巣の『アタック』とか、危ない店では、この穴埋めがないからね。要注意。


「十分はないでしょう。結構歩いたよ」

「タイムカウンターのミスかいな。んだば、そのシナリオは終了するかえ? ワシが絡んどらん最近の開発シナリオやイベントは調整難しいぞい」

「いやぁ~微妙だな」


 パワフルではあったけど、みんな結構美人で可愛かったしなぁ。定番のドジっ子メイドもいるし。

「あれ、ハカセ。そのジュースは」

「飲みたければ好きにせい」


 一パック千五百円する伝説的な飲料、小学生以下のお子様のお歳暮お中元に欲しいアイテムで松坂牛や蟹セットを抑えて一位に輝いた天晴姫様印の伊予柑ジュースがブロック机に置いてあった。僕は氷の入ったグラスのジュースをコンマ秒で飲み干した。


「はぁ~~ぁ~~生き返る」

「それ」ハカセはまだ端末機とにらめっこ。

「美香ちゃんが持ってきたんじゃ。お前が飲むだろうてな」

「ん、グッご、が」

 ジャンケンにかわった某シーンをご想像ください。


「美香が」

「オニギリも一緒にな」

 天晴姫様印の脇に、なるほどご飯の固りがあった。どれ一つ同じ形がないから美香が握ったらしいな。


「うわぁ。塩だけで梅干も入ってないや」

「そうかえ」

「ふぅ。でも助かったよ」

 天晴姫様印は多分お母さんの無許可だろうな。後が怖いけど、栄養補給して腕の痛みもなくなった。


「まだ続きをしたいと顔に書いてあるぞい。結構。バッテリーと支援端末を増やしたから、安定性は少しは上がっているはずじゃ」

「できれば太鼓判を押して」

 ハカセは意味深に(無計画?)歯を見せた。


「リアクセス、コード0990プラス承認。セーブポイント、リアクセス」

 ハカセってホワイトアウトしか演出知らないの? 世界はまた白一色に移って行く。



「笠井君」

 ええっと、小伊賀さん。

「今微妙にズレなかった」

 小伊賀さんだけじゃなくて女子隊みんなが、ちょっと引いた感じ。


「気のせいですよ」

 あのぉ、薄葉さん。キャラ立った結構な性格設定ですけど、なにかにつけて小太刀握るのは控えてもらえますか。


「後、一里半で佐和山だから。みんなそろそろ大人しくしなさい」

 関ヶ原と佐和山って近いんだ。

 あれ、巴さん馬からいつの間にか降りているね。鰯丸は乗ったままだけど。


 巴姫の大人しく、のセリフは薄葉さんに小太刀を抜くなの命令も含んでいたらしい。軽く頭を下げた薄葉さんは、巴さんと僕の真ん中に位置取った。

 てくてく。また縛られている腕が痛くなったら、もうセーブオフできるから安心。しかし、大昔のパソ通時代でも、唯羊飼っている猛者がいたと聞いたことあるけど、関ヶ原をひたすら歩くって上級者の考え方は意味不明。ノブナガキラーの挙句が関ヶ原ウォーキングなんだ。


 こうして男独り美少女に囲まれているのは外していないと思うけど、なんか違わね?


「のどかですね」

 返事がない。

「あのう、秋も深まっていますね。鳥も冬支度だし犬も餌を探しているね、おいでワンちゃん」

 薄葉さんが胸元に手を入れた。ヤメて。


「洸次殿。あまり列を乱さぬように。野良犬にかまけている暇は御座いませぬ」

 最初に巴さんや女子隊と出会った場所に比べると人家もある街道筋に来ている。


「野良犬ですか? でも首輪みたいのに括りつけていますよ、ナニか」

「首輪?」、ドジっ子の鰯丸以外が僕の方にビックリ眼の視線を向けた。あれ、この時代首輪って普及していないのかな?

「紅餅!」

 巴さんは、初めて刀を抜いた。紅餅さんは、「承知」

 腰につけていたポシェットから小石を取り出した。あ、火打石だ。(じゃあ、ポシェットも違う名前だな)


 ! 十中八九の腕前は偽りなしだった。

 犬は紅餅さんに狙撃されて倒れる。え? どうして?

「弓勢、備えなさい。近くに間者がいます」

 弓勢さんは矢を取り出して構えた。もちろん薄葉さんは小太刀を抜きながら、


「兎の子、犬を。小伊賀、十歩控えて兎の子を護る。紅餅は次弾を装填」

 あのぅ、ナゼか僕は薄葉さんの小太刀の射程内にいますけど、気のせいですよね。

 幸いに間者はいなかったから兎の子さんは秒単位で帰着。脚速っ。


「こやつ密書を持った伝書狗でした。書面を首に巻いております」

 兎の子さんが紙切れを薄葉さんに渡した。

「おお、佐和山に赴く良い手土産」

 巴さんも一回紙切れに目を通したけど、保管は薄葉さんの仕事らしい。

「関東勢め。伝書狗とは味な真似を」

「しかし、さすが紅餅。これで治部様がお話を聞いてくださるとよいのですが」


 僕の質問がきっかけでぇ~す。ってジブって誰?

 僕は少し取り残されていた。さっきまでは、色々な面で僕が話題の中心だったんだけどね。


「あの、ワンちゃん助けられないのかな」

 ちょっと退屈になった僕は数歩進んで犬を眺めた。可哀想だけど銃弾で大きい穴が空いているから、もう助からないね。


「そうだな」

 おおぉい、姫様が自分の小太刀を抜いて犬の首根っこ、次いでお腹をを裂いたよ。で、誰も止めないの?


「薄葉」

 鳩が紙切れを付けていたと聞いても表情を変えなかった巴さんが、眉を顰めた。薄葉さんが近寄る。


「竹管……もしや! 鰯丸。水筒を」

 犬のお腹から塊が出た。そして、どうもそれが本当の秘密文書だったらしい。


「何奴!」

 三人の男が、僕たち、いや巴さんたちの女子隊に襲いかかってきた。服装は野良着だけど、お百姓さんがこんなことしないよね。ちゃんと武器は刀だし。

 男たちは、意外に手強い美少女にあっさり退散した。あの逃げるときの、砲丸みたいな花火って必須アイテムじゃないんだ。


「伝書狗。岩槻の太田家の秘伝とか。ならば、あいつら関東の手下ね」

 弓勢さんが僕を睨む。


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